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ツクヨミ・ユースフル  作者: 脚本家
5/7

月へ手を伸ばすような

 敵を倒し、その武功を讃えられる。

 オレが憧れていた、父上や兄上たち。


 その勇ましい境遇に、今のオレはいる。

 貧相な骸骨どもを砕く、それでツクヨミが歓喜する。


 今のオレを、父上や兄上たちが見たら、なんと言ってくれるだろうか。

 まずオレが五体満足に歩いていることに驚くだろう。

 そしてきっと、立派だと褒め称えてくれるはずだ。






 「さて、今宵は此処だ」

 小高(こだか)い丘から、その街を見下ろしていた。武家屋敷を中心に広がった街だ。中心が城ではないにしては、夜中でも灯りが点いて賑わっているあたり、繁栄ぶりはかなりのものだろう。もちろんそれは、魑魅魍魎がつくりだした唾棄(だき)すべき虚構の繁栄だが。

 髑髏(どくろ)たちが発する囂々(ごうごう)とした喧噪の上で、月は雲に包まれていた。




 「じゃあ、一発、楽にいっとくか」

 丘から街めがけて跳躍する。

 頭に思い描くは、池に落ちる花びら、その波紋。

 右手を振り上げて、着地と同時に拳を地面に叩きつけた。

 ドゴォン、と、風流ではない音と共に、空虚な街が本当に虚ろとなっていく。


 木造の建造物が脆く崩れ去り、それに骸骨達が巻き込まれて勝手に潰れていく。

 街灯(まちあか)りから引火したのか、所々火の手が上がり、骸骨達が勝手に焼かれていく。

 まだ髑髏の隙間風が聴こえて、今一度、オレの右足で地面を踏みつける。……二度目の轟音を合図に、隙間風は崩落と劫火(ごうか)に包まれ、後には壊れた街を炎が舐めるだけになった……かに見えた。




 ガチャガチャ、カラカラ。

 今のオレには少なからず耳馴染みのある音。――骸骨武者の音。自らを愚の骨頂であると、御丁寧に体現する音。

 燃える街の中で、オレは音のする方へ振り向いた。

 武家屋敷の方角から、武装した骸骨達がワラワラと展開し、此方(こちら)に向かって弓を引き絞る様子が、火影から見えた。刀を携えこそすれ、構える者は居ない。


 「ほう? 多少は利口な様だな。近寄らずして我らを仕留めようとするか」


 ひとつの髑髏が大きな隙間風を発する。それを合図に、横殴りな矢の雨が飛んできた。

 「ツクヨミ、わかってるよね?」

 「承知している。お前に何かあって困るのは私もだからな」


 殺意の雨は全て、オレの眼前でピタリと動きを止めた。

 「急げ。力を浪費するのはいただけない」

 「わかってるよ」

 空で静止した矢を、暖簾のように払い退けて、オレは走り出した。




 矢も、刀も、オレには届かない。

 ツクヨミの護りか、護られる前にオレが砕いてしまったか。或いは――

 なんにせよ、オレとツクヨミは、骸骨武者たちを完全に破壊した。




 ――何か、違和感があった。


 「なぁ、この骸骨武者さ、変じゃなかったか?」

 「というと?」

 「なんだか、太刀筋にキレがない。躊躇(ためら)ってるみたいだ」

 「異形達も戦いたくはないのであろう」

 「そんな人間臭い……まさかね。『魑魅魍魎が人の様とは笑わせる』って言ったのはツクヨミだろう」


 「……そんな事よりも」

 一拍置いて、ツクヨミが露骨に話を切り替えた。

 「この武家屋敷の異形から摂れる“無念”は特に強いようだな」

 「それはどういう意味なの?」

 「さてな……しかしこれは面白い。明らかに力が満ちてゆくのを感じるぞ。おかげで、あと少しだ」

 「『あと少し』?」

 「案ずるな。お前は『役に立っている』」


 いつもなら、その言葉は俺の心に優しく染み込む筈だった。


 「もう少しだ……」

 期待に上擦った声で、ツクヨミが繰り返す。


 あと少し、もう少しで、ツクヨミの力が満ちる。

 (その時、ツクヨミは、オレは、どうなるのだ?)

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