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ツクヨミ・ユースフル  作者: 脚本家
2/7

これは人の夢

これを投稿した日は2022/7/31、エアコンの無い自室は昼には35℃になるような、そんな夏真っ盛りな日なのですが、やっぱり散歩は夜中にやるべきかな、と思い始めています。

という、本当に小説の内容に何の関係もない与太話なのでした。忘れてください。

 見渡す限り、白い砂礫。もはや沙漠だ。

 

 地平線から上は、真っ黒な空。まるで夜空だ。

 

 武家の屋敷の庭、その池に飛び込んだはずなのだが、体にも服にも水滴ひとつ無く、むしろ水という物が存在していないような――そして同時に、色彩という物も完全に欠落したかのような、そんな場所にオレは立っていた。


 空を見上げる。黒い空。いつも庭から見上げていた夜空の様だった。しかしそれをいつもの夜空と認めるには、ひとつ絶対的な「欠け」があった。

 「月」だ。月がないのだ。いつも勝手に心の慰みにし、そして嫉妬をぶつけていた、無言の話し相手が。


 「どこだよ……ここ」

 「喜べ、お前は現実から逃げ(おお)せることに成功したのだ」


 庭で聞いた、あの声が響く。辺りを見回しても声の主らしい姿はない。ただ白い荒野と黒い空だけがある。


 「現実から逃げ果せた?」

 「然り。否、正確には、これより夢となる」


 わけのわからない場所で、声だけの存在と、掴み所の無い会話をするのは、なかなか勇気の要る行為だった。


 「夢?」

 「それを(つまび)らかにするためにも……コホン。申し遅れたな。(わたし)の名前は『ツクヨミ』。――私は欠けた月だ。埋めなければならない空白がある。だからここに呼び寄せた」

 「空白を、オレで埋めようってのか?」


 なぜか動くようになっている脚が、なぜかガクガクと震える。そうか、脚はいつだって確かに自分を支えてくれるというわけではないのだと、早くも気付く。


 「もちろん一方的ではないぞ? 言うなればこれは契約だ。互いが互いを補うための」

 「オレの空白を、お前が埋めてくれるっていうのか?」

 「もう一度言って見せようか。――“役に立ちたい”のだろう?」


 庭で聞いたセリフが繰り返される。二度目であっても、明かしたことが無いはずの心中がすっぱ抜かれるのには動揺を隠せない。でも、それを、この……ツクヨミ、は、理解してくれている――


 「お前に欠けているものは、“承認”」

 「……そうだ。オレは何の役にも立ててなかった、誰にも認められてなかったんだ、だから存在なんてなかったんだ、空白だったんだ!」


 父上が、どうしようもないものを見るような目で、オレを見ていたことを思い出して、涙が出る。


 「今の私は、今のお前を求めている、今のお前を最高の形で役立てられる。使われる気は、あるか?」

 「俺は、誰かの役に立っていたい!」


 兄上たちが、誇らしげに戦果を報告して笑い合う。そんな光景に、オレも近づけるのなら!


 「そうこなくては。でなければ、右目を清めさせた意味も、ここに呼び寄せた意味もなくなってしまうというもの。――契約だ」


 右目に、なにかの手が触れて、瞼が無理やり開かれる。

 「痛いのは始めと終わりだけだ」


 反射的に閉じようとしても閉まらない右目に。

 声が、ツクヨミが、あついものが。ズルリと這入(はい)ってきた。

 もともと有った眼球を押しつぶし、眼窩を埋める。得も言われぬ感触と、それをさらに埋め尽くすどうしようもない痛みに、オレは右目を押さえて砂礫の上をのたうち回る。




 温かい。痛い。あたたかい。イタい。暖かい。痛い。あったかい。いたい。アッタかい。いたい。あったかい。イタい。あったかい。いたい。在ったかい。いたい。あったかい。いたい。アタタかい。いたい。あったかい。痛い。あったかい。いたい。あったかい。居たい。温かい。いたい。

 あったかくて、いたい。




 「私の名前はツクヨミ」


 のたうち回るオレをよそに、ツクヨミが云う。


 「さあ、私の為に“魂を集める”のだ」

月面にワープする、って、ボンバーマンにゲツメンワープってステージがあるのをふと思い出した。

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