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失恋

作者: 須佐能乎

トシアキには恋人が居ない。居たこともない。大学に入学したときに期待したが何もなかった。

入学して4年経ったが告白したこともされたことも無い。

トシアキはここに至って、自分で動かなければ恋人は出来ないのだと悟った。世の中には2種類の人間が居るのだ。待っていても恋人が出来る人間と待っていたら何も起きない人間と。そして、自分は待っていたら何も起きない人間なのだ。見えざる手でそちらにより分けられたのを恨むばかりである。でも、それでも良いかなと思っていた。まだ時間はあると。

しかし、トシアキは今恋人が欲しい。欲しくなった。就職活動を始めて将来を垣間見たのである。幸いな事に、一流とまでは言わないが悪くない大学に入れたから、これまた一流とまでは言わないが悪くない会社に入れそうだった。それは良い。自分には過分な僥倖だと思う。しかして、ともかく色々な人と話した。驚いたことに若手と呼ばれる社員は結婚している人が結構いた。また、同じ就活生にしても恋人が居たのである。心胆を寒からしめるとはこの事か。たくさん有ると思っていた時間は無為に消費されていたのである。

トシアキは子供が欲しい。自分が死ぬときに看取って欲しいし、孫を抱きたいし、親に孫を抱かせてあげたいし、墓を守ってほしい。他にも理由はあるがともかく子供が欲しいのだ。人生が計画通りに行くのは期待のしすぎだと分かっていたが、それでも子供が欲しくて、孫がほしいなら、20代の内に恋人の一人の作らなければなるまい。そう思った。


そうは言っても、恋人には好きな人に成って欲しい。誰でもいいから恋人が欲しいのではないのだ。トシアキには片思いの人が居る。メッセージを送ってみるとあっさり食事にOKの返事をしてくれた。

こうして恋人候補の方と待ち合わせたのはカフェである。先に着いたトシアキはアメリカンコーヒーを頼んで温まっていた。本当は薄める前のエスプレッソを飲みたいと思ったが、恋人候補が来る前に飲みきってしまうと思ったので遠慮したのだった。2口ほど飲んだ頃に待ち人は来た。

恋人候補を見ると世界が明るく成った。詳しい理由は知らないが、トシアキは好きな人を見ると”気がする”ではなく本当に視界が明るく成るのだ。こちらを見て微笑んだ彼女は綺麗だった。


フラレた。あっさりフラレたなと思った。2、3時間も話してアメリカンコーヒーとチョコクリームパフェしか頼んでない組にしては長居をしてしまった。話の終わり際に好きだと伝えたのである。彼女は驚いていた。仲の良い友達として長い付き合いだったので、友達としか見れないと言われてしまった。

フラレてみて、案外大したことがないなと思った。今までトシアキは告白したことがなかったのである。フラレるともっと自分の中で何か決定的に変わってしまうのでは無いかと思っていたのだ。辛いと思ったが自分が予想していた程ではなかった。0と1とでは全然違うという人が居るが、全くその通りだと思った。告白童貞を、そしてフラレ童貞を卒業してみると今まで自分が恐れて居たものがちっぽけな物だと気がついたのである。確かに、その日の夜ほとんど寝れなかったし、翌日はほとんど食事を取れなかった。でも、トシアキは自分の精神性が脅かされる程の危機を感じなかった。

綺麗にフッてくれたのも良かったのだろう。彼女はこちらの話を丁寧に聞いてくれたし、丁寧に恋人にならない理由も答えてくれた。その誠実な答えは、やはり彼女は私が好きに成った女性だったと思わせてくれた。


精神性。トシアキはちょびっとだけカッコつけた言葉を使った。負け惜しみで自分が成長したのだと感じたかったのかも知れない。

精神だなんて崇高な言葉は自分にはよくわからないが、自分から始めて行動したなと言うことだった。待っていても恋人が出来る人が居るだなんて言ったけど、ホントはその人も自分から行動しているのかも知れないと思った。だって、待ってるように見える人に待ってるの?だなんて聞いたことはないからだ。


トシアキはなにはともあれ、フラレても大したこと無いと分かったし積極的に行動しようと思った。


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