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ペンギン機関車おなかいっぱい(縮小版)

作者: いまっく

コウちゃんは、まだちょっと小さな男の子。

お姉ちゃんのユリアちゃんには、時々手紙が届く。

コウちゃんは、それがうらやましくてしょうがなかった。

そんなある日、コウちゃんに、とても小さなお手紙が届いた。

開けてみると、小さな便せんに、「お友達になって下さい」と書いてあった。

便せんの下の方には、小さなもみじの形をしたはんこが押してあった。


雪が降るある日の夜のことである。

コウちゃんがそろそろ寝ようかなと思っていたとき、「ピンポーン」とチャイムが鳴った。

コウちゃんが玄関のドアを開けてみると、真っ白な煙がもくもくと目の前をおおった。

何だろうと思っていると、煙の下から「こんばんは」と声がした。

煙をはらってみると、小さなペンギンが3匹こちらを見上げていた。

そのペンギンさんは、かわいい制服を着て、小さな機関車に乗っていた。

髭を生やした車掌ペンギンさんがしゃべった。


「コウちゃんにお手紙を出したんですけど、届きましたか?」


そう、あの小さい便箋の手紙をコウちゃんに出していたのは、このペンギンさんたちだったのだ。

ユリアちゃんが、あとからやって来て、ペンギンさんと機関車を見てびっくりして言った。


「うあーっ、すっごーい。ペンギンさんの機関車だ、乗せてー」

「どうぞ、どうぞ」


コウちゃんとユリアちゃんは、大喜びでペンギンさんの機関車に飛び乗った。


 髭を生やした車掌ペンギンさんが、号令をかける。

「しゅっぱーつ、進行ーっ!」

 ちょっぴり小さい副車掌ペンギンさんが、元気よく叫ぶ。

「次の停車駅は、シャーベット駅でーす」

 帽子をかぶった機関士ペンギンさんが、一生懸命石炭をくべる。


コウちゃんとユリアちゃんは大喜びだ。

ペンギン機関車は白い煙を吐きながら、雪の中を、どんどんどんどん進んでいった。

雪が積もった地面の上には、いつの間にか、氷でできた線路が敷かれていた。

そして、その線路の先をふさぐように、目の前に大きい雪の塊りがあった。

機関車はその塊りめがけて、ズボッ! と、つっこんでしまった。


次の瞬間、まばゆいばかりの青空が広がった。

地面には、青、赤、黄色に染まった氷のスジが、遠くまでずーっと広がっていた。

機関車が止まり、コウちゃんたちは、そおっと機関車を降りた。

そして、そばにあった青い色をした木を、ペロッとなめてみた。

ユリアちゃんが叫んだ。


「わーい、本当にシャーベットだー」

「そうです。ここは全ての物がシャーベットでできているのです。

あれを見てください、ここの名物です」


ペンギンさんたちが、遠くに見える大きい三角形の建物を指さして言った。

なんと、それは山ほどもある大きなすべり台で、てっぺんの方は雲に隠れて見えなかった。

機関車はコウちゃん達を乗せて、そのすべり台の頂上まで登った。

大きな三角形の建物のてっぺんに着くと、車掌ペンギンさんが叫んだ。


「はい。到着です。ここから下まですべりましょう。競争ですよ」


コウちゃんたちも横に並んだ。

車掌ペンギンさんが「ヨーイ」と言って、大きな音の汽笛をポーと鳴らした。

それと同時に、副車掌ペンギンさん、機関士ペンギンさんの、2匹のペンギンさんが勢いよく滑り出した。

手と足をパタパタとばたつかせて、おなかで滑った。

すごい早さだ。


コウちゃんとユリアちゃんも、すごい早さでペンギンさんたちを追いかけた。

ペンギンさんたちが、ものすごい早さで滑っている。

このままではペンギンさんの勝ちだ。


その時、お尻で滑っていたコウちゃんが、「えいっ」と両手を伸ばして、今度はおなかで滑り出した。

ユリアちゃんも、コウちゃんのまねしておなかで滑り出した。

そして、どんどんどんどんスピーをあげ、とうとうペンギンさんたちに追いついた。

大きい三角形の建物のふもとにあるゴールラインに、ペンギンさんの鼻と、コウちゃんの指が同時についた。

ペンギンさんチームとコウちゃんチームは、同時にゴールしたのである。

ユリアちゃんが叫んだ。


「こんなに大っきいすべり台。はじめてー、とっても楽しかった!」


ユリアちゃんとコウちゃんは、手を取り合って大喜びだ。

それからずっと遅れて、車掌ペンギンさんの乗った機関車が降りてきた。


機関車はみんなを乗せて、広大なシャーベットの大地を地平線に向かって走りだした。

地面が、青いシャーベットから、だんだん白く変わっていった。

そして機関車は、ゆっくりとフワフワ揺れだした。

副車掌ペンギンさんが言った。


「次の停車駅は、ソフトクリーム駅、ソフトクリーム駅」

「ええ? ソフトクリーム駅?」


気がつくと周りは、見わたす限りソフトクリームだらけだった。

コウちゃんとユリアちゃんは大喜びだ。

そしてみんなでソフトクリームでかまくらを作った。

みんなでかまくらに入って遊んでいると、かまくらの入り口から、

「もしもし?」

という声が聞こえてきた。

丸っこい影が見え、そのまん丸が、そおっとのぞき込んできた。

雪だるまだった。


コウちゃんたちがビックリして飛び出してみると、かまくらの外には、たくさんの雪だるまがいた。

そのなかの、一番大きい雪だるまが、困った顔をして話しかけてきた。


「もしもし。お願いがあるのですが」


一番大きい雪だるまのとなりで、一番小さな雪だるまがブルブルと寒そうにふるえている。

その様子を見た車掌ペンギンさんが訪ねた。


「どうしたんですか? 雪だるまクン」

「寒くて寒くて、凍り付きそうなんです。この暖かそうなかまくらに入らせて下さい」

「???」

「何で寒いの? 雪だるまって、寒いのへっちゃらでしょ?」


一番大きい雪だるまが、困った顔で答えた。


「僕たちは雪だるまじゃないんです。冷たい『雪』ではなく、空に浮いている『雲』だるまです。さっき、雲の下からもくもくと白い煙が僕たちのところまで来て、何だろうと思って、みんなで追っかけてきたら、ここに着いてしまったのです」


その「雲の下の白い煙」とは、ペンギンさんの機関車から出た煙だったのでした。

それを聞いたコウちゃんが言った。


「そんなときには、おしくらまんじゅうをするといいです」

「おしくらまんじゅうー?」


雲だるまさんたちが叫んだ。

暖かい雲の上に住んでいる雲だるまさんたちは、おしくらまんじゅうを知らなかったのだ。


「こうやってこうするの」


ユリアちゃんが一番大きな雲だるまさんの手を取って、お尻を思いっきりぶつけた。

雲だるまさんの体がぶよーんと飛んだ。


「うわー、おもしろーい」


ちびっ子雲だるまたちが集まって来て、ユリアちゃんのまねをしてみんなで輪になった。


「わっしょい。わっしょい。おしくらまんじゅう、おっされて泣くな。おしくらまんじゅう、おっされて泣くな」


みんな大きな声で、おしくらまんじゅうをやり始めた。

雲だるまさんの体は、だんだんポカポカしてきた。


「ありがとう、とってもあったかくなったよ」


一番大きな雲だるまさんが、ほっぺをピンク色にして言った。


「だけど、このソフトクリームの国では、じっとしているとまた寒くなってしまいます」

「よし、それでは、みんなで雲の上まで行こう」


車掌ペンギンさんが言った。

それを聞いたコウちゃんは、もう大はしゃぎだ。


「雲の上に行くの? ということは、この機関車は飛ぶこともできるの? うわーい。運転させてー」

「はい。いいですよ」


コウちゃんはペンギンさんに頼んで運転させてもらうことになった。

操縦席の左側に大きいレバーがあり、その横に、

「飛ぶ」「走る」「転ぶ」

と書いてあった。

コウちゃんは、レバーを「飛ぶ」に合わせた。

  『ギイーガッチャン』


「さあ。行きますよー」


車掌ペンギンさんが言った。

ペンギン機関車はものすごいいきおいで煙を吐いて、それまた、ものすごいスピードで進み出した。

機関車はゆっくりと宙に浮いた。

そしてそのまま、大空へとつきすすんで行った。

ドンドンドンドン、大空へ上り、雲の中に入ったかと思うと、急に周りが明るくなった。

雲の上についたのである。


「ようこそ。ここが僕らの雲の国です」


一番大きい雲だるまさんがそう言うと、他の雲だるまさんたちが、勢いよく機関車から飛び降りて、フワフワの雲の上で転がりだした。

コウちゃんとユリアちゃんたちも、機関車から飛び降りて、フワフワの雲の上で転がった。


「うわーい。きもちいー」


車掌ペンギンさん、副車掌ペンギンさん、機関士ペンギンさんも、機関車から降りてきた。

そして、フワフワの雲の上で転がった。

すると、すぐそばで、『ブワーン』と大きな音がした。

ペンギン機関車が、雲の上で転がったのだ。

操縦席の左にあるレバーが、「転ぶ」になっていた。


ペンギンさん、雲だるまさん、コウちゃん、ユリアちゃん。

みんな、ふわふわの雲の上で寝っころがった。

そしてみんなで、大空を見上げた。

空は青く澄み渡り、柔らかい日差しがふりそそいでいる。

雲の上はあったかくて、ふわふわで、とても気持ちいい。

コウちゃんとユリアちゃんは、いつの間にか雲の布団で寝てしまった。

それはそれは、とっても気持ちよさそうに眠った。








リビングの炬燵で、コウちゃんとユリアちゃんが、ニコニコしながら眠っている。


「二人とも何の夢を見ているのかしら?」


お母さんが、二人の寝顔を見つめて微笑んだ。







        おわり


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