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第2次オペレーションオレンジエンジェル 始動

44分隊屯所こと黒井家2階では、日穂と小梅がたいへん面倒なお客様の対応におわれていた。


「…ビタミン剤渡しておくわね」


「いらないのです」


日穂が差し出す錠剤を頬を膨らませて突き返すお客様。それに対し、プルプルと震えて日穂は力いっぱい我関せずな同居人の眉間に錠剤を叩きつける。


「夫婦喧嘩なんか犬にでも食わせてきなさいよ!!」


「日穂さーん…ただイチャイチャの主導権を握りたいだけだから喧嘩してないと思〜う」


小梅は眉間を丁寧に確認しつつ、訂正を入れる。


「りっちゃんも私の言動に少しくらい焦って欲しいのです」


「これが真面目な相談事なのよね…」


「惚気の常套句なんだけどなぁ〜」


年上2人は可愛い可愛い妹分の言動で対象が焦りに焦り、理性で押さえ込み、割といっぱいいっぱいで何とか余裕ぶってるのを知っているが、それは既に

『そんな訳無いのです』と一蹴された為黙って置くこととした。


「とにかくなにか無いのです?!」


「照れてる顔でもたどたどしくでも言葉にすれば楽勝だって言ってるじゃない…」


芽衣はだってぇ…と前置きをし、俯いて両頬に手を添えて答える。


そんなことをしたら何かが溢れてしんじゃいそうなんだもん…


「…っ!うぅぅ…あー!もー!あたしに言うんじゃなくて本人に言ってきなさいよぉー!!」


そう言い、部屋から芽衣を押し出すと素早くドアを閉じた。


「よく耐えてるわあの子…」


「日穂さん、私久しぶりに胸がきゅーってしたよぉ」



「という訳でモヤモヤするから遊びに来た訳なのです」


「私はお手伝いしてくれて嬉しいけど…。今日のんびりと仕事出来なさそう…」


涼花は芽衣がウェイターとして働いてから5分後から指数関数的に押し寄せる客にげんなりしていた。それより怖いのは自分の仕事は増えてないことである。両親と婚約者は目を回す程働いているが、列の整理は客が自主的にやってるし、バッシングと清掃は芽衣をストーキングしていた小さな妖精?がフロアを駆け回り行っていた。…まぁアイドルの前なので皆テーブル等を汚さず食べていくが……。それより 驚きなのは


「こちらのオムライスがオススメなのです!」


「じゃあオムライスにしちゃおうかなぁ〜…へへっ」


自慢の品であるオムライスではあるが、芽衣が手伝いに来てから皆が皆頼むのでキッチンの手伝いから出てきて見るとご覧の有様である。おかげで吉継が卵はしばらくは見たくないと言う訳だった。…みんなには悪いけど売り上げ上がるからまた呼ぼうかな…?


「ところで相談なんて珍しいね…?いつもはこっちが相談するのに…」


「今日はその手のプロから聞かないと行けないからなのです!」


涼花はわけがわからないという顔をし、芽衣はドヤ顔で続ける。


「ズバリ、りっちゃんを焦らせてドキドキさせたいのです!」


涼花は小さな友人の発言に何言ってんの?という顔をしそうになるが、すぐに真剣そうな顔にする。そして息を静かにゆっくり漏らすと本来アンケート用のバインダーとペンをを手に取りアンケート用紙を裏返すと質問を始めた。


「ボディタッチとか…は毎日してるか…。ハグとかは…?」


「毎日してるけど効果なしなのです」


首を振った芽衣に涼花はふーんと返し、紙に書き込む。


「手を握ってみるとか…?」


「ニコニコとしていただけなのです」


涼花は「だよね」と返すと、困った顔で


「キス…とか…?」


「…実はりっちゃんは私の遺伝子情報を唇で感じると未知の甘味物質を唇表面より分泌するらしいのです」


涼花はもう1人の友人がろくでもない進化を遂げた事に引きつつも、暗に示された何処まで行ったかを知り、ため息をつく。


「行動出来るのになんで言葉にできないの…?」


友人の一番の問題をどうにかするのが手っ取り早い解決だとは分かっているが、この拗らせシスコンシャイアイドルガールの要求は、姉としての地位と恋人としての扱いと自分だけに矢印が向いた愛情である。最初から好きだと伝えたり、姉らしく行動すればいいだけなのだが、本人は可愛いと愛でられたいし甘えたいしけれども1歩踏み込めないという絶望的な状況である。


「…恥ずかしいからなのです」


「思ってることを言えばいいのに…。多分効果抜群だよ…?」


「軽く流されるのが怖いのです…」


「伝わるまで言い続けるしかない…」


芽衣はため息をつき、わかってるのですと言い、


「本当は恥ずかしいんじゃなくて怖いのです。この気持ちが普通じゃないこと位は理解してるのです。りっちゃんが分かってくれる事も知ってるのです。でも…」


りっちゃんの中に刻まれた無邪気で気分屋で皆に優しい私を崩したら…この暖かい居場所から離れると考えると怖いのです。


涼花は目を丸くしたが、笑みを浮かべて困った様な表情をする。


「ねぇ…?芽衣ちゃん?」


芽衣が頭をあげると、涼花が目の前で膝立ちになっており、両手で芽衣の顔を挟み込む。そして目を伏せ面倒そうに呟く。


「八方美人」


「妄想癖」


「ご都合主義者」


「欲張り」


「頭の中花畑」


「臆病」


「我儘」


「めんどくさい」


「付和雷同」


「…一年に満たない付き合いの私でも芽衣ちゃんの欠点を挙げるとこれだけ出てくる…」


「……」


芽衣は俯こうにも涼花に掴まれているために顔を合わせて聞くしか無かった。


「でもさ、芽衣ちゃん…?」


目を開いて先程とは違い、軽く笑みを浮かべた涼花は諭すように続ける。


「私よりずーっと長く芽衣ちゃんの傍にいる誰かさんはもっと知っててもおかしくないよね…?」


「涼花ちゃん…?」


「羨ましいなぁ…」


「羨ましい…のです?」


「だって誰かさんは芽衣ちゃんの話をした時、こう言ってたから…『メイちゃんは本当はズルいからトラブルを避けようと自分の意見を言わなかったり、都合が悪いと笑って誤魔化したり、2人の時に誰かと話すと不機嫌になるし、ねだる時は図々しいし、綺麗事をしれっと言うし、皆が好意を向けて欲しいからって可愛こぶる。全くズルい子だよ。でもね?』

『安心するんだ。皆に見せないこの顔を見ると、今だけはボクの【メイちゃん】でいてくれるんだなって』なんて思われる対象になれるなんて…」


「りっちゃん…」


涼花は手を離すと芽衣を抱きしめる。


「全く芽衣ちゃんはズルい…。ここまで愛されても満足出来ないんでしょ…?」


呆れたように涼花は言うと、耳元で囁く。


「必要とはいえ芽衣ちゃんの心を傷つけた…。お詫びとして芽衣ちゃんに負担が少なくてドキドキさせられる秘密の方法を教える…。その代わり、覚悟してね…」


そういうと涼花は何かを囁く。芽衣は聞き終わると、


「ありがとう!涼花ちゃん!それと…叱ってくれてありがとう!」


そう言って笑顔で店から出て夜の道に駆け出した。


「全く…ズルいなぁ…」


涼花は困った様にため息をつくと、外に向けて「頑張って」と呟いた。


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