オアフ兵学校での日常
地球防衛軍とアマプラは時間を溶かすとわかった
オアフ島 兵学校
「ヒナちゃん、冬華ちゃんおはよー。今日は二人一緒に登校したんだね」
日向と冬華はストローの刺さった小さい紙パック入りの野菜ジュースを飲みながら正門をくぐると、飲み終わった紙パックをあらかじめリュックサックの中に入れていたゴミ袋に入れる。その後冬華が口を開く
「私…野菜で嫌いなものない…。でもおいしいからいい…」
「何で六花お姉ちゃんは野菜ジュースを渡してくるんだろう?遥お姉ちゃんが六花お姉ちゃんのほっぺたをつついていたから大体察するけど」
『ふぅ~ん、六花もお姉ちゃんしているのね』
『…何その顔。早く仕事に行きなよ』
「相変わらずマイペースだねー冬華ちゃん」
「今日より黒井家に戻る…。ヒナちゃんとは姉妹になった…。ブイ」
「…えぇっと、早い話冬華ちゃんが、亡くなったと思われていたうちのお父さんの実の娘だったから、うち広いし家族全員住めばいいってなってね~」
ケロッとしている日向とVサインを無表情でしてくる冬華を横目に花は困惑した顔で下駄箱から上履きを取り出すと床に置き踵をつぶさないように足を差し込む。冬華は下駄箱の前に敷いてあるすのこに座りながらゆっくりと。日向に至っては足を差し込み、つま先を床に打ち付ける。
「賑やかそうだね、ヒナちゃんのおうち」
「お姉ちゃんが7人いればかなりね」
「前の家もそこそこにぎやかだったけど、うるさいわけじゃなくて落ち着いているから今の家がいい…」
廊下を歩き、1-A教室に着くとドアを開けてクラスメイトに挨拶をしたのちそれぞれの席に座る。今日は道徳・算数・生活・体育の時間割で、日向は体育があるとワクワクし、花は算数を日向に教えてもらわなきゃと考え、冬華は窓際の席の為「蝶々だぁ」とのほほんとしていた。
道徳
「皆さん、佐藤さんはどうすれば喧嘩にならなかったでしょうか?はい、日向さん」
「お金を用意します!」
「そういう方法はやめようか~。はい、冬華さん」
「ふわふわの…綿で包めば争いなんてどうでもよくなります…」
「うぅ~ん中々個性的な解決法ね。それじゃあ東城さん」
「ごめんなさいと謝ればよかったのではいいのではないでしょうか?」
「正解よ。先生、積極的に手を挙げてくれる子たちの中であなたが一番まともだと思うわ。東城さん。皆さんも積極的に意見を出してくださいね。」
算数
「今日は前回のテストを返してから繰り上がりのある足し算についてやっていきましょうね」
テスト返しと聞いて暗い顔をする子や逆にワクワクとしている子もいる中、担任である東雲恭子は笑顔を崩さないものの内心焦っていた。原因はいくつか繰り上がりのある足し算に対する理解が必要な意地悪な問題を作って、それを「できなかったところは実はこう解くのです」と授業につなげるはずが…。
「日向さん、100点です…。よくできました」
「先生!まだ習ってない場所は出してはいけないと思いまーす!」
「…ゴメンナサイネ」
このクラスには問題児とそれに率いられたクラスメイト達がいるという誤算があったことだった。
「東城さん。貴方も100点おめでとうございます」
「ありがとうございます」
柔らかに微笑む姿は東雲の心の状態から皮肉にも思えたが、こんな純粋無垢な子にそんな思いなどないと邪念を捨てテストを渡す。
「次は…」というように30人ほどの生徒に返したが、どの生徒も意地悪な問題に対して理解しており、ケアレスミスなどでの誤答はあるが、わからず空白であった生徒は居なかった。
「コホン、さて今回は後半にあった繰り上がりの足し算に関する授業だったのですが…。皆さん何故かできていらっしゃるようですね」
クラスの生徒がちらりと日向の方を向いたことで犯人が東雲にはわかってしまった。
「きょーちゃん先生、あの…困らせようとじゃなくて…えぇっとその~」
日向は所在なさげに視線を動かしてどもる。それを見た花が覚悟を決めたように立ち上がり答える。
「ヒナちゃ…日向さんは先生が教えてくださる授業の復習を手伝ってくれていて…その…そうすれば先生も授業しやすいからと…ただそれが先走って今回の内容を教えてしまっただけで…」
東雲が一番このクラスの色と思っていることは相互の団結力の強さであった。日向だけではなくクラスメイトの誰かが困っていれば男女関係なく駆けつけ解決の手助けをし、4~5人単位での仲良しグループがそれぞれに役割を担うことで掃除や給食の配膳から片づけにとどまらず、校内美化や授業に必要な物品補充、クラス内だけだがイベント準備など兵学校の規範と思われるような動きをし始める。それ故に扱いづらく感じているのであった。
「わかったわよ…これじゃ私の立つ瀬がないじゃな~い!」
しかもこのクラスを何故か途中から任されたのは新任教員の東雲である。校長より面倒くさいものを押し付けられ絶望していたら、蓋を開ければ学級崩壊どころか軍隊並みの規律と統率の取れた手間のかからない子達のクラスがあるし、いつの間にかグループの代表が集まって休み時間に会議しているし、内容も「美化活動のほうきがすり減ってきたから嘆願書がどうのこうの」「遠足の持ち物としてこういうものが必要そうだからどうのこうの」「きょーちゃん先生が疲れてそうだからどうのこうの」等私の仕事とは…?となっている【みんなのあこがれの先生】の計画が頓挫し始めているまだ教育学科卒一年目の
【かわいいマスコットお姉ちゃん先生】が定着し始めた心よわよわ先生である。
「せんせ~ごめんなさ~い!まさかそんなこととは思わなくて~」
「僕たちも…その…先生の授業大好きだから聞きたいな~…って」
フォローをしているのは一年生、泣いているのは担任である。
「ぐすっ…そっかぁ…そうだよね…授業…はじめま~す…」
なんともな姿だがこのクラスを制御するよりも三国志の劉備よろしく支えてあげなきゃと思わせてまとまらせるのも大事なことなのかもしれない…のか?
生活
「さて、皆さん宿題の『憧れの人の紹介』書いてきましたか?それでは右の列から読んでもらいたいと思います。北島君からお願いします。
「はい!僕の憧れの人はお姉ちゃんです。お姉ちゃんは学校を卒業して偉い人を怪我とかしないように守る仕事をしています。いつもは何とかなるが口癖のお姉ちゃんが仕事の時は顔が変わってカッコイイです。僕も大きくなったらお姉ちゃんみたいにカッコイイ隊員になりたいです」
北島君と呼ばれた気が弱そうな少年は、原稿をじっと見ながら緊張したように話す。その姿に東雲はニコニコとしながら次の生徒に順番を渡す。
とある生徒は父親に憧れ、とある生徒は母親に憧れと、年相応な憧れの人を挙げる生徒に安心感を覚えながら東雲は不安な3人組に話を振る。
「さて、冬華さんお願いします」
「はい…私の憧れの人はお姉ちゃんです。お姉ちゃんはいつも明るくて、よく私とお母さんの事を気遣ってくれます…。でもお姉ちゃんが実は1番の怖がりなのを知っています…。オアフ島に来た時も布団の中でこれからどうなるんだろうって泣いてました…。でもお姉ちゃんは1回も怖いとか寂しいとか言いません…。私もお姉ちゃんみたいにいつも家族を引っ張って行くようなかっこいい女の子になりたいです」
「そう…グスン…ありがとうございました」
東雲は目を赤くして俯いて続けた
「私の憧れの人は六花お姉さんです。お姉さんは格闘技がとても強いです。この前はお父さんも投げ飛ばされてました。でも六花お姉さんはいつも私に稽古をしてくれる時に僕もまだまだ強くならなきゃねと言います。ある時なんでもっと強くならなきゃいけないか聞いて見ました。そうすると六花お姉さんは姉妹の写真を見せてこう言いました。何があってもこの3人は守りたいからかな?お姉ちゃんとしてカッコよくいなきゃでしょ?と。私はそれまで強くなってお父さんを見返したいと思って取り組んでいました。でもこれからは大好きな人を守れるように六花お姉さんのように好きな人を守れるお姉さんになりたいです」
「好きな人を守りたい…。素敵な夢ね。先生応援してるわ!次日向さん」
「えーっと、私には4人と新たに1人のお姉ちゃんがいます。先ずは日穂お姉ちゃんです。日穂お姉ちゃんは気配り上手なみんなのまとめ役です。何かあれば中心になって解決するため動いています。みんなのお母さんみたいに優しく見守ってくれます。次が小梅お姉ちゃんです。小梅お姉ちゃんはいつも気だるそうにゴロゴロしています。でも落ち込んでいる友達がいれば1番に気がついて訳を聞かず静かに横にいてくれます。六花お姉ちゃんは妹思いです。困った時は一緒に考えてくれて、嫌なことがあったらスッキリするまで聞いてくれます。スキンシップが激しいですがみんなが好きなんだなって伝わってきます。最後に芽衣お姉ちゃんです。芽衣お姉ちゃんは優しいです。六花お姉ちゃんや小梅お姉ちゃんにお小言を言いますが、何か行動すると少し大袈裟に褒めています。私はこの4人をお手本にしてみんなに憧れられる人間になりたいです!」
「皆さんよく出来ています。ここに書いてきた人のように皆さんがなれると先生は信じています!」
東雲はフンスッといったように教卓に手を置き、興奮気味に最後の締めの言葉を述べる。それに対して生徒からは「ありがとうございまーす」というような返答が帰ってくる。東雲はその年相応なバラバラな返答に困った様な笑みを浮かべて次の授業の準備に向かった。
体育
1-Aクラスの30名が体育館の中央にて二列横隊にて立って待っていると、東雲がヒィヒィ言いながら走ってってきた。「みなしゃん…揃っているようでしゅね…本日は…マット運動をしたいとおもいましゅ…」
息を切らして水に沈んでいたのかというように酸素を求める東雲を心配して数人の生徒が背中をさすりに行くと、生徒から口々に
「せんせー体力ないんだから走らないで来ればいいのにー」
「私達しっかり待っていますから、もう少しゆっくり来ていただいて構いませんよ?」
「先生大丈夫〜?」
「ほら先生、吸ってー…吐いてー…。吸ってー…吐いてー…」
それ以外の生徒はマット運動の器具準備や点呼、安全確認などを行う。教師の仕事とは…とはなるが、そこはマニュアルを作って事故防止を徹底してる。生徒に囲まれ、スポーツドリンクの補給や汗を拭かれた東雲はジャージを整えて腰元に手を置いてビシッと直立する。
「さて皆さん!二列横隊で集合!」
準備を終わりゆるゆると2列横隊に並んでいた生徒達は綺麗に並び直し、介護組も列の空白地帯に入り込む。
「今日はマット運動で開脚前転、後転をしてもらいます!皆さん列ごとにマットの前へ集合!」
先程の様子を誤魔化すように元気な東雲に一同はニコニコしながら「はーい」と返事をし、マットの端に並ぶ。
「まずは開脚前転からです!前転の時みたいに頭の後ろから背中にマットを着けるように…ヘブッ!!」
東雲が開脚しながら股より顔を出してひっくり返っているのを確認して、一部の生徒が写真を撮り終えた所で運動が出来る生徒が主体となり、できない生徒に教えていく。出来るようになればその生徒が教えていき、若干拗ねた東雲にも生徒達が手を引き教える。私教える側なのに…とボヤく東雲だが、出来た時には生徒より目を輝かせていた。
給食
「ご飯♪ご飯♪」
「ヒナちゃん本当に食べるのが好きだねー」
浮かれる日向を見た花は微笑みつつ声をかける。それに対してもちろんと言わんばかりに振り向きえへへと笑いかける。
「いっぱい動いていっぱい食べるのが健康の秘訣なんだよー♪」
「ヒナちゃんと一緒の家になったらおかずが毎回山盛り…お母さんが作る晩ご飯の10倍はある…」
明るく返す日向の横では複雑そうな顔の冬華が食べつつ量にも限度があるとボヤく。それに花は苦笑をし、日向はあの量が普通だよぅと冬華に反論する。
「足りないでしょって渡されたけど…給食で十分多いから…」
冬華が水色の巾着袋に入れられたお弁当を机に出してため息をつく。
「そういえばヒナちゃん食いしん坊だったねー。それと同じと考えたならそうなるかも」
「えぇ〜足りるの2人とも〜」
日向は無くなったおかずを弁当から補充して白米を減らす作業を始めていた。それに対して2人はいつもの事ながらも可愛い親友の食べっぷりを見て、ダイエットが不要な体の羨ましさを感じるのであった。