番外編 園上の龍
なかなか時間が取れずに今になって投稿になってしまった…。反省はしていない。
「まだ踏み込みが甘いぞ!それでは反撃が来るぞ!」
「はい!」
英才教育を仕込んでから数か月がたった。そろそろ幸一郎は帰ってくるだろう。棚橋は1週間前に仕事の都合で授業を前倒しして目標は達成したと言ってこなくなった。ここ数日はひたすらに園上流軍刀術を叩き込んでいる。数合撃ち込んだ後、わしと六花は庭に面する縁側で菓子を嗜んでいた。そんな時のことだ。ふとなぜ強くなるのかを聞きたくなった。
「六花、なぜお前は強くなろうとするんだ?普通に暮らすなら多少の護身術でもいいだろう?」
六花は首を傾げ、不思議そうにその問いに対して、質問の意図を聞いてくる。
「ししょーはなぜ強くなったのですか?」
それの答えはいたって単純だ。
「戦場で生き残って帰るためだ。死んだら再び挑むことができないだろう?生きて帰ればまた傷を癒して戦える。今度はさらに安全に進めていける。そのためだ」
生への依存といえばそれまでだ。生きたい、ここで死んでいられない、それが戦いを楽しくさせる。ずるい人間ではあるとは考える。立ちふさがるものを叩きのめすため、それも圧倒的な力で叩き潰すために強くなる。そうすれば自分だけは生き残る。
そんな中六花はにっこりと微笑みこう答えた。
「ししょーもほとんど同じですね!良く正義の味方が自分を犠牲に大切な人を守るなんてことがありますよね?僕は思うんです。それじゃその後は助けられないって!だから強くなればいつまででも大切な人を守れますから!だからいくらでも強くなりたいんです!」
…この子はそんなことを考えて指導を耐えてきたのか。確かにそうだ。わしも最近行き詰まりを感じているところだ。六花はこれからも研鑽を積むだろう。そしていつも先で待っているのが師としての役目。まだこの魂腐ってはいられない。
「六花、わしはお前がどんなところに、どんな人生を歩んでいようと必ず道の先にいてやる。追いついてこい。だがわしも先を走っておる。武術に終着点は無い。武人は一陣の風に等しいのだ。わかったな?」
「?…はい!」
それから5年ほどたっただろうか、我らが予想していた最悪の事態が発生した。
「西部方面軍壊滅!残存戦力を東部・北部方面連合軍に学生隊と中国からの帰還兵と共に合流後、飛騨・木曾・赤石山脈及び親不知に防衛線を設置させました」
その日はもう日本国民を避難させる計画が急ぎ実行された日だった。予想より早い進行に加え、反攻は不可能と判断されたためであった。せめても国民の避難のための遅滞作戦を展開し、軍は横須賀から輸送船団で避難するつもりであった。しかし、最悪なことは続くものだった。
「緊急電報です!陸海軍混成旅団がオアフ島を占領、しかしながら水無月幸一郎少将及び夫人が前線での指揮中、アイクの奇襲により戦死なさいました!」
「なんだと…幸一郎が…」
「…園上大将、幸一郎が命をチップにあいつらからオアフ島を奪ってくれました。あいつのためです。避難してください」
浩三が真剣そうにわしを見る。しかし、わしは老人。
「若いものから逃げろ。特に浩三、お前は娘連れて早く避難しろ。わしゃぁ長く生きてきた。もう未練は無ぇ。この国のために命を差し出す気のある決死部隊を募ってくれ。ここに抵抗できる最低限の人数揃えて後は前線に送れ。わしも防衛線に向かう」
浩三ははっとした顔ののち、俯きながら絞り出すように声を荒らげる。
「大将!私らは落ちこぼれの馬鹿どもでした…!本来ならば中国方面で犬死にさせられていたような奴らです。それを救って3人をここまで引き上げてくださったのはあなたなんです…!最後にその恩を返させてください」
「…2人そろって馬鹿どもが」
「えぇ、大馬鹿野郎です。実は黒井に頼んでいることがあるんです。奴が死んでいたら私の娘と水無月の娘、どっちも世話してもらえないですか。そいつが一番の心残りです」
浩三が深く軍帽をかぶり口元に笑みを浮かべる。
「…覚悟は固いようだな」
「…はい」
「あの世でまた会おう」
浩三は口角を少し上げると
「先に水無月夫妻と酒盛りをしています。酒は切れません、のんびり来てくださいね」
「あぁ…あばよ」
あれから数か月が過ぎ、わしはオアフ島にいた。そんな中能力者とかいうものを選出して特殊部隊員として使う計画が立てられた。正規兵が必要数いない中、遂に不承ながら少年兵の動員を始めたようだった。わしは最高幹部としてその選出された子供達を視察することとした。
「ふむ、なかなか進んでいるようではないか?」
眼前には正規兵のように射撃訓練を行っている青年達の姿があった。しかし案内役の男は首を振り答える。
「しばらくは自警団として警察活動に就かせます。あまり戦力増強には程遠いですので」
「そんなところか」
わしが少し肩をなでおろすと、失望と勘違いされたのか続けてまくしたてられた。
「現在異能力開花シーケンスというものが進んでおりまして、かなり有力な能力者が発見されました。ぜひご覧になってはどうでしょうが!」
「分かった…。ならば行こうではないか」
中にいたのは浩三の娘と黒井だった。だいぶやつれてはいるが生存を確認できるだけでもありがたいことだ。謎の女の格好をした野郎がいたが如何やらそいつ事抱え込むつもりらしい。まぁ良い、あとは願わくばわが弟子…いや水無月の形見を探すだけで良くなった。と思った矢先だった。移動した黒井の先には3つの円筒の物体に子供が入ったものが置かれていた。中にいた子供の1人に見覚えと激しい喜びを感じた。
「生きていたのか…良かった…あぁ…本当に」
「いかがいたしましたか?」
「いや、何でもない」
眺めていると子供たちを送った黒井がこちらに向かってくる。それもかなり驚きながら。
「園上大将!生きていたのですね!」
「あぁ…馬鹿野郎のせいでな」
黒井は笑みを消し、神妙に答える。
「奴ららしい最期です。では2人の世話は俺の仕事ですね」
「頼んだ。できるだけ支援はさせてもらう。困ったらわしの名前を使え」
黒井は重い体を動かす様にゆっくりと敬礼を行い、わしも答礼をする。その日からはわしは司令部にて椅子に座るだけの存在になっていた。転機はその約1年後、黒井が蜂起したことであった。その前にも六花が自警団を半壊させたりしていたが、当時、調査を進めるうちにかなり心配になってしまい、黒井に多大な迷惑をかけたと思う。
「園上大将閣下。資料はお読みになりましたか?」
「…」
「大将閣下?」
凍えるような殺気に対してきょとんとする補佐官に軽い苛立ちを覚えつつ、わしは軍刀を手に取る。
「あいつはわしの息子同然。奴がやることはわしが見届けてやらねばならない。違うか?」
「ははぁ」
そんな中ドアが吹き飛び向こうから黒井と娘たちが入ってきた。
「何用だ?黒井」
「反乱の前に避難してもらおうかと」
「気が利くな」
「それほどでもないです」
「馬鹿垂れ、褒めとらんわ」
その後ろからひょっこりと六花らが出てきた。
「あー!生きていたんですね」
「知り合いかしら?」
「ちょっとーそれでも軍学校出身ですかー?」
「お前ら…先ずは補佐官から足をどけてやれ」
黒井の言葉に足を慌ててどけると、ため息がふいに出てしまった。
「はぁ、馬鹿なことは治らんか…。ほれ、そこをどけ、通れないじゃないか」
気絶している補佐官を軽く蹴飛ばし、荷物をまとめる。
「扱いがひどくないかしら…」
「間宮、あれはあの人の平常運転だ。根っこは制服組の中でも有数の激戦地育ちだから」
なかなかひどく言うじゃないか、後で覚えていたまえ。床にたたきつけてやる。
今思い出しても笑みがこぼれてしまいそうになる。いやここまで血が沸き立つのはいつ以来か。目の前ではあざ笑うかのように、壁の外に降りてきた自分を囲むアイク共がいた。如何やらどちらが捕食側かわかっていないらしい。
「園上司令長官何だか笑ってるぞ…」
1匹目、遅い、これでは手で押さえられるぞ。しかもかなり力が入っていない。カマキリは本来かなり動きが速かったはずだ。それがこんなだとは。つまらんな
「嘘だろ…カマキリ型の鎌を受け止めて手でちぎったぞ…」
「70超えた爺さんだよなぁ?」
さて、つぎはどいつだ?
気長にお待ちください。