茨城攻略戦 移動
何とか書き上げた。亀より遅ーい!
茨城県 鉾田市
操縦手席がかなり狭いが他は広々とした車内には44分隊員+日向が搭乗していた。芽衣はのんびりとおやつを楽しみ、南は暇だったのかうたた寝を始めていた。操縦手の日向以外が暇を持て余していると、気晴らしにか間宮が見張り役をしている六花ににやけ気味に問いかける。
「六花ちゃん?さっきの通信のお相手は誰だったのかしら~?まさか彼氏でもできた?」
六花はため息交じりに答えつつも監視を続けて言った。
「亡くなったと思っていた姉とその母親が生きていたんですよ」
「あら?五月家のかしら?芽衣ちゃんが長女と聞いていたけど」
間宮は不思議な顔をしている。それを見て六花ははっと気が付き、訂正するように答える。
「姉といっても一時期今のお父さん…黒井司令の家に預けられていたんですよ。その娘と奥さんですね。多分今日になってお父さ…司令が見つけたんでしょう。元気そうで何よりです」
「やっぱお姉ちゃんにはばれるとは思ってたけど~…。私も気が付いたのだってパパの写真立てにある写真と顔が同じだなって最近気が付いたし~」
操縦席からブツブツと声がする。六花は一旦車内に入ると日向の頭をなでてまた監視を再開した。しかし、この話に引っかかったものがいた。
「りっちゃ~ん…!これはどういうことなのです~?」
芽衣が六花に見せてきたのは病院内での情報共有用の掲示板だった。そこには遥という人物から妹を見つけたや父が生きていたという情報おり、添付されていた写真は六花の幼いころのものだった。
「あら!可愛いじゃない!「間宮さんは黙っているのです」
強めの語気で遮られた間宮はシュンとして座席に深く座りフェードアウトしていった。
「ほら~。間宮さんがしょんぼりしちゃったじゃん!かわいそ~」
南が茶々を入れるが芽衣は無視して続ける。
「これはどういうことなのです!あの遥ちゃんと義理の姉妹なのですよ!次顔を合わせるときどう反応すればいいかわからないでしょ!もう!」
後ろを向きながらぷんすかと怒っている芽衣に六花がポロっとこぼす。
「うちの家の同居人が増えるかもなんだけど」
芽衣がその言葉にわなわなしている。間宮は他人事ね…といった感じで雑誌を取り出した。
「部屋は何故かたくさんあるのです。お風呂も地下1階にあるし、何故か増築工事が度々されてるし。しかーし!さすがに手狭なのです!」
「…本音は」
「それだけなのです!」
「……」
「…私のものなのです」
顔を赤くしながらボソッと呟く芽衣に4人はキュンとしつつも、それぞれが聞こえないふりをしていた。六花は間宮と見張りを変わるとご機嫌取りを始めていた。操縦席では日向がモニターに映る前方の映像を見ながら器用に操縦をしていた。操縦席はほとんどあおむけで寝ている状態で、反対側にある芽衣の席は最早ベッドと化している。間は狭いがしゃがめば悠々と2人なら通れるだろう広さだった。
「到着予想はあと1時間もしないかな~?お姉ちゃん達準備はいい?」
「勿論大丈夫よね?4キロ先の廃墟の辺りにアリ型124、コガネムシ型34、カマキリ型17匹のお出ましよ!」
「またぁ?私眠いんだけど」
そういいながら前方上部右側のハッチから身の乗り出した南は新たに手に入れたスナイパーライフルを構えるとコガネムシ型に向かって5連射した。
「効果ありね。全弾命中、コガネムシ型5体撃破。六花ちゃん!いってらっしゃい!」
側面に括り付けられていた大太刀を片手に六花が飛び出すのを見届けた日向は芽衣の席の正面にある壁をずらしてモニター画面を出した後に引き金が付いたコントローラーを渡した。
「アリ型とハチ型には効果あるんじゃないかな?コントローラーのスティックで方向を決めてトリガーで発射。弾薬は7.7ミリフルサイズ弾だから在庫処分も兼ねてるらしいよ。千発位入ってる弾薬箱は沢山積んでもらったし、援護用にはいいんじゃない?」
「随分と重装備ね…。これの製造費はどこから出たのかしら」
日向は天井にあるハッチをたたくと、平然と答える。
「車体はどこかの国からただで提供された金属スクラップとアイクの外骨格から作った複合装甲、砲塔と装備類は陸軍部の新型砲塔の試作品と余剰装備…と葉月さん提供。主砲は葉月ラボで開発された試作兵器のレールガンだねー。トレーラーはありがたいけど今度からは自動操縦型がいいなぁ」
戦車からは車載機銃による掃射と南の狙撃支援による攻撃がアイクの左半分に浴びせられていて、アリ型やコガネムシ型が次々と崩れていくように絶命する。右半分では六花による近距離戦が繰り広げられていた。
「うわぁ…向こう側のは回収が厳しそうだなぁ…。とりあえずはここにいる混合部隊を何とかしないとね」
アリ型の嚙みつきから頭部を転がって避けつつ、胴と繋いでいる節を大太刀で切断していく。しかし、その隙間を縫うようにカマキリ型がアリ型ごと前の2本を振り下ろして斬り倒しに来る。
「でもそれは慣れてるんだよね!」
振り下ろされた前脚を横にずれて避けると、そのまま切り落とす。当のカマキリ型は何が起こったか考える暇もなく脳との接続が切れた。六花は彼らの認識出来ない速度で動き回って前脚や頭部を切り飛ばしていく。そして、残されたのはコガネムシ型だけだった。
『それは対応しようか~?』
南の声で通信が入る。しかし、六花は手を振っていらないと伝えると大太刀を八相に構えた。
「師匠に教わった技を久々に使ってみようと思います」
10メートル先のコガネムシ型にコンマいくつかの速さで近寄ると一息に大太刀を素早く振るう。確認もせずその後にまた別の個体に向かうと、先ほどのコガネムシ型は体節ごとにバラバラにされていた。そのまま同じ様に10匹程のコガネムシ型をバラバラにしていく。全ての横を通り過ぎたときにはコガネムシ型のブロックの山ができていた。
「こんなもんですか…。また鍛錬しなくちゃかな」
六花は大太刀を胸ポケットの布でふき取ると鞘にしまい、戦車まで歩いて帰る。戦車内からはざわめきのようなものが漏れていて、六花が砲塔の上にあるハッチを開いたときに出てきた間宮によって内容が判明した。
「あの良くわからない動きはなんなのよ?目の前を通り過ぎただけでアイクがブロック状にされていたわよ!説明して頂戴!」
六花は頭を搔いて髪を整えつつ、身振り手振りを含めて言葉で説明する。聞けば聞くほど訳が分からない動きに間宮は鼻息を荒くして詰め寄る。
「だーかーらー!どうすれば前に行ってから体をすべるように四肢を斬り取る技ができるのよ!そんなの軍刀術なんかじゃないわ!化け物の類よ!」
「でも…園上師匠はもっと素早く正確にバラバラになりますよ?豚の全身を関節ごとにバラバラにして斬り取った上に皮もはがされてましたし」
「そんなの当時60近かったお爺さんができるわけないでしょ!」
間宮の突っ込みに南が六花に対して呟く。
「ねぇねぇ六花ちゃん?【死期を知らせず】」
「【命を絶て】ですか?」
「【わが太刀筋は】」
「【一陣の風に等しい】」
「あ~!も~やだぁ!完全に制式軍刀術じゃなくて継承者不在とされた園上流軍刀術じゃ~ん…!こんな身近にやばい奴がいたとは思わなかった!」
南が頭を抱えてあーだこーだと言っているのを見て日向と六花以外は固まっていた。間宮が六花に恐る恐る顔を向けて問いかける。
「その…園上流軍刀術って何かしら?」
それに対して南が「知らないの?!」と言わんばかりに答える。
「間宮さん、300メートル先にいるアサルトライフルで武装した敵を軍刀で殺すにはどうする?」
何を言ってるのというように首をかしげる間宮は当然のように答えた。
「その前に撃たれて死ぬわよ…?当り前じゃない」
「園上流では高速で近寄って対応できていないうちに真っ二つにする。因みに相手の無力化に【降伏】の文字はないらしいよ?つまり敵は絶対に殺す」
六花が「何を当り前な…」というようにぼんやりしていると間宮は六花をゆする。
「嘘よね!嘘と言ってちょうだい!」
六花ははっとすると訂正するように答える。
「その場合は先ず懐に入ってから声を上げる間もなく首を斬り、仲間がいれば4人ぐらいお土産に殺してから帰りなさいと教わりました!」
「流石は正式な免許皆伝の弟子…。おそろしー」
間宮は「この子もう嫌…」というように放心状態で戦車内に戻り、六花も席に戻った。
「元気出してよ~間宮さーん」
「もう園上さんに会いたくない…怖い」
間宮は南に慰められつつも恐ろしさに身を震わせていた。
「あの人私もこわーい」
「いい人なんですけどねぇ…。剣術以外では」
能天気に2人は呟く。芽衣は「まぁ…知ってはいたのです」とお茶をすすりながらクッキーを頬張る。
「とは言ってもただの剣術ですよ?人殺しなんかしてませんよ?」
六花が何の気なしに答える。間宮が「それもそうね」と調子を取り戻し、二の句を継ごうとしたときに六花がつぶやく。
「まぁ…基本的には木刀でも致命傷になる技ばかりだけど…」
「さーて!そろそろ百里飛行場につくわよ!」
不穏なことを聞かないようにと間宮は声を張り上げる。目の前には広い飛行場が広がっているはずだが、何か建造物がそびえているのが見える。
「…あれは、巣?」
「残念ながらこちらと同じことを考えていたらしいわね。戦力の再招集…いや、敵軍による奪還作戦の集結地にぶつかったみたいね」
目の前には飛行場を埋め尽くす地上型アイク達と上空を回るトンボ型とハチ型が待ち構えていた。