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茨城攻略戦 上陸

全てはハーツオブアイアン4のせいだ(言い訳)

太平洋 父島沖 輸送艦『豊後』


5人の乗る輸送艦は現在護衛艦隊の燃料補給の為、父島沖にて停泊を行っている。いつもなら数時間で到着する日本本土だが、今回は18ノットと低速で進む輸送艦に乗って行っているためここまでで10日ほどかかっている。追加されたトレーラー以外は上甲板の船尾側の本来であればヘリコプターが駐機してある艦橋裏の場所にコンテナ改造品のコンテナと戦車が固定されているため、格納庫内には装備品や弾薬や糧食、更には兵員輸送用の大部屋は冷却設備とサメ型などが所狭しと並べられている。お陰で長い航海中も食事には困っていない。この航海中は平和なものだった。護衛はきちんとした駆逐艦と巡洋艦で構成された水雷戦隊に代わり、何故か襲撃がぴたりと無くなり、冷蔵倉庫はサメ型やクラーケンなどで埋め尽くされた。


「暇だわね…。そう言ってもあと一日もかからず日本なのだけれど」


「わかるのですけど…この状態を暇と思うとは随分私達も概念が狂ってきているのです」


2人が日向の3Dプリンターで作られたビーチチェアーらしきもので寛いでいる甲板上では、何故かサメ型の解体ショーが行なわれていた。暇を持て余した主計科と六花によって開かれた料理教室は燃料補給を終わらせた駆逐艦の乗組員も巻き込む大食い大会と化した。出されているのは塩と胡椒で味付けされた厚さ1㎝以上のシンプルなサメステーキで、参加した日向が言うには「魚だからとあっさりと思っていたら中々脂が豊富でおなかにたまる」とのことだった。本人は今、艦内で運動代わりの発電に勤しんでいる。


「でも…あの機械どういう設計なのかしら?戦車の追加装甲用のアルミ板と寝ていた六花ちゃんからコッソリ抜いてた血液からこれを作っていたわよ…。しかも主砲弾作る時とは違って床に立体的に絵を描くみたいに作っていたけど…」


その証拠にビーチチェアーには継ぎ目も金具もない。アルミの棒が椅子状に曲げられていて、背もたれと座る部分に黒いビニール帯のようなものが数十本地面に水平に並んでいるだけである。


「少なくともプラスチックを作るのに十分な原料がりっちゃんの血液にあるということはわかったのです」


日向が完成後にボソッと「材料検索システムは便利だけど…プラスチック原料に六花お姉ちゃんの血液とは…」と漏らしているのを芽衣は聞き逃さなかった。


「そう言えば南さんはどこにいるのです?先ほどから見当たらないですが…」


「あの子ならさっきコンテナ内でスヤスヤ寝てたわよ?眠気が発生しないとはいえ家にいれば基本的に寝ているし、あの子自体戦闘以外は何も出来ないししない位だから」


「でも良く外出していたり自室をきれいに保ったりしていると思うのです」


「やっぱり…。あの子基本的に趣味が訓練で特技が狙撃、家事は掃除とか料理どころか洗濯機すら扱えないわよ…。本人曰く根っからのお嬢様だから家事はあたしがやっているのよ…あの子放っておくと2日間位ぶっ通しで寝ていそうね」


芽衣は少し南の普段の生活に驚きつつも、ふと、この前に聞いた姉の出自について思案を始めた。


「そう言えばうちに来る前はりっちゃんもいいところのお嬢さんだったらしいのです。でもあんな調子ですし…」


「お嬢様は変人気質な人が多いのかしらね?」


間宮はニコッと微笑み、目を瞑って寝転ぶ。かすかだが出港準備が整ったと言う放送が流れて来るのが聞こえる。如何やら船旅はそろそろ終わってしまいそうだった。



鹿島港 臨時前線基地 


芽衣は現在基地内にある野戦病院に足を運んでいた。ここにいるのは兵士の中でも懲罰部隊や訓練の必要がある新兵上がりの若者が中心に配備されている。看護師や軍医も内地に比べると少し頼りない。理由として、この付近はいまだ完全に制圧済みとは言い切れず、頻繫に襲撃されるからである。度重なる襲撃は戦線にもこの野戦病院にも響いていた。


「クソッ!!待ってろ!すぐ処置してもらえるからな!先生!早く注射をしてくれ!」


野戦服に身を包んだ30代の男性2人が棒とベットシーツから作られた担架で両足を切断されている男性を運んでくる。傷は焼いてふさがれていて、出血は少ない。しかしもう虫の息である

「すぐ治療します!どいてください!」


芽衣は腕につけた赤十字に3つ星の腕章を見せて治療を開始する。担架には彼の足が横に置かれていて、芽衣はそれをつなげることにした。


「すげぇ…広瀬の足がくっついてやがる…。夢でも見てるのか?」


隊員は目を丸くしてその様子を眺める。軍医は驚いたように敬礼している。


「黒井大尉!なぜここに!」


「任務で立ち寄っただけです。…完了しました。そちらの二人も手を握ってもよろしいですか?」


彼らはズボンで手をぬぐうと芽衣に差し出す。それを握ると、彼らの怪我がきれいに治った。芽衣は他の患者の傍に行き、同じく治療を行う。2時間前には地獄と化していた入院部屋が今は広々とした大部屋に変わった。


しかし…数人は息を引き取ってしまっていて、芽衣は手を合わせて冥福を祈るしかできなかった。その後経過観察が必要という事で1日待機となった患者たちに見送られて芽衣はその場を後にして、待ち合わせの中央広場に向かった。そんな時に後方から声をかけられてしまった。声は若い男性のものでそのリーダー格の付近に6人ほどいるようだった。芽衣が振り向くと見るからに着崩れた野戦服にシルバーアクセサリーを付けた男性の一団がいた。


「…何でしょう?」


芽衣が警戒するように答えると、男性の中のリーダーらしき人物が薄ら笑いを浮かべて近寄ってくる。


「君さ~今暇?俺らと遊ばね?」


軽薄そうな言葉に粘着質な視線。そんなことに不安と不快感が身体中を駆け回る。


「待ち合わせしているので。すみません」


「まぁまぁそんな邪険にしなくてもいいじゃん?少しだけだからさ」


去ろうとする芽衣に男性達は行く手をふさぐように立ちふさがる。芽衣は流石に焦りや戸惑いを覚えて思案に暮れる。その間も彼らは下卑た薄ら笑いを浮かべている。


「どいてください」


「せっかちだなぁ…いいじゃん!」


その後、数分間問答を続けていると、急に男達のリーダーが芽衣に手をつかみ引っ張って行こうとした。しかしその目論見は外れることになる。


「うちの妹に何か用ですか?」


六花がリーダーの右の首筋に後ろから大太刀の刃を添わせ質問をする。よく見ると首筋からはほのかに血が流れていて、リーダーは身動きが取れない様子だった。焦った【3人】の取り巻きの男たちは即座に拳銃を取り出すが、どこからか飛んできた狙撃によって手から弾き飛ばされる。


「ただのナンパですよ~!やだなぁ!怖いよ~?」


しかしわかっていないのかリーダーは軽い調子でごまかそうとする。そして、取り巻きがいなくなっていることに気が付くと逃げて行ったが、50メートル先で消えていなくなった。彼のいた先からは日向がキャンディー片手に歩いてきていて、先ほど消えたあたりでぐりぐりと地面に靴をこすりつけてまた歩き出していた。


「お姉ちゃん達!ヤッホー」


「ナイスタイミング!」


六花と日向がハイタッチをしている横で芽衣は複雑そうに顔をしかめる。


「…ありがと」


「…よく頑張りました」


六花が芽衣の頭をやさしくなでると日向は芽衣に抱き着く。そんな様子を見ていた2人はため息交じりに呟く。


「人間って蒸発するんだねぇ…勉強になる」


「寧ろ咄嗟に拳銃を撃ち抜いた小梅がすごいわよ…。それよりも6人いたはずなんだけど…」


そして、3人の所に向かうのだった。



全員が合流すると、先ほど、この基地司令に到着報告をした間宮が全員にあることを伝えた。


「今日なんだけど…今作戦を監督するために陸軍部の司令長官が来ているらしいわ。団長が本来ならばこの地位だったんだけど、その人が老人よりも若者が上にいる方が健全だろうと司令部の総司令長官の地位を譲ったらしいのよ。でも本人は団長に指揮権を委ねて将校達をまとめることを中心にしているみたいね。そんな方があたし達に会いたいとおっしゃっているらしいわよ。急いで向かいましょう」


「初めて会うなぁ…。どんな人何だろう?」


南は歩きながら顎に手を当てる。芽衣も不思議そうにしながらも間宮についていく。その中で日向だけは理解している様子だった。



鹿島港臨時前線基地 仮庁舎


応接室と書かれた部屋の中で5人が立ったまま横一列に並んでいると、後方のドアから白髪交じりの髪を後ろで結んだ武人のような年を取った男性が入室して5人の前に出る。急いで敬礼をする4人とにこやかに微笑む日向に「堅っ苦しいのは無しだ。楽にしろ」とだけ言い、5人の前に来る。


「ふむ…懐かしい顔だな。わしにとってはついこの間だったのだが、男子三日会わざれば刮目して見よとはこの事か」


「園上…師匠?」


「六花、鍛錬は続けておるか?…言わんでもよい、その手と体さばきでわかるものだ。だいぶ修羅の道を通ったようだな。剣の道とは心技体すべてを鍛えるもの。強くなったな六花」


「ありがとうございます」


園上はゆるりと南に振り向き少し目を細めた。


「初めて会ったのは5歳かそこらだったか…。浩三のことは残念だがしかし…浩三がこれを見たらどう思うか…。皮肉なものだ、親の心子知らずとはな」


「父も母も数ある習い事からこれだけは褒めてもらえたものですから」


「あ奴はかなり不器用な奴だったからな…。嬢ちゃんにはピアニストや画家なんかになってもらいたいと言っていてなぁ。その為に習い事をいろいろ行かせてみているなんぞと言っておったが、どうせ褒め方が分からなかったんだろう。どこぞの猪は褒めるとか誘導することに関しては天下一品だったからな」


「…そうですか」


南はうつむくと小さく答える。


「黒井の若造がお前さん達の世話をしてると聞いたが…ふむ、六花。基地に戻ったら久々に稽古をつけてやろう。その刀は少々曲者のようだからな。いい技を教えてやろう」


そう言い大太刀をしげしげと見る。そして、ほかの3人にも興味を持ったのか話しかけ始める。


「ほう…お前さんは男だな。良い目をしている、戦人の目だ。部隊指揮にはよう向いてる。面白い。子飼いにしたい位だ」


「恐縮です」


「お嬢さん、名前は何という」


「黒井芽衣です!」


「良い名前だ、これからも頑張るといい。しかし少々…いやなんでもない」


そう言い、終わろうとした際に芽衣が手を握って良いか尋ねると園上は快諾して差し出した。そして、手を握ると園上は軽く驚いたのち問いかけた。


「能力とはこうもすごいものなのか…。ありがとう芽衣お嬢さん。お陰でこの後も長生きできそうだ」


そして、日向に向き直ると話し始めた。


「…前にも思ったが実に面妖だな。お前さんは兎の皮をかぶった虎のような歪な気を感じる。感じるのは年相応な気。しかしその裏から濃い殺気や邪悪なものが渦巻いている。並の殺気ではない薄氷の刃で喉笛を切り裂こうとする鋭いものをのぉ」


「そんなことはないんだけどなぁ…」


「安心しなさい。お前さん達の敵ではない。…幾ばくかの命を奪ってきたようだな?どのくらいだ?」


「おじいちゃんは今まで斬った藁の本数を覚えている?」


「…ふっ、これは一本取られた」


そう一言つぶやくと


「久々に楽しかったぞ。この攻勢が終わったらヒッカム航空基地で会おうではないか。その時は茶の一つぐらいは出せるだろう」


そう言うと応接間から颯爽と出ていった。そして、思い出した様に扉を開けて間宮に向けて言う。


「武運を祈るぞ元山岳科学生」


「なぜそれを!」


「武器を背嚢の横に括り付けるのはそこしかないからな。あとロープを出しやすいところにつけるのもな」


次回…過去でごまかしてもいいっすかね?

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