【乳幼児に対するXS1233の投与における疑似的サヴァン症候群・ハイパーレクシア発現について】 研究者 五月春信・美由紀
手元に書いてあったTRPGのロールプレイ表みたいなものを文章にまとめただけのものです。医学的におかしいなどの事はガン無視してご覧ください。
【乳幼児に対するXS1233の投与における疑似的サヴァン症候群・ハイパーレクシア発現について】
研究 五月製薬 研究者 五月春信・美由紀
初めに当研究は日米合同での優秀な諜報員開発『Operation pebble』こと、路傍の石作戦の一環である。これまで、新薬の治験という名目で成人や中高生を対象に本薬剤を3mg経口摂取又は静脈・皮下注射を用いてそれぞれ20人づつ投与していたが【図1を参照】、激しい頭痛や吐き気、静脈注射の際に3人ほど軽度な意識障害が発生したのみであり、これは成長した脳組織ではこの薬剤の効果がごく軽度にのみ発生することのだろうと考察し、その後の記憶力・計算能力検査【図2を参照】を行い、薬物投与前と数点の差が出る程度の成績を出したことでこの考察はほぼ確実に立証されたと言えるだろう。これ以降の本文では未だ脳が未成熟な乳幼児を対象に当薬剤の効果の確認及び実証をしていく。以降被験者をパターン5番から17番とする。
被験者5番は生後丁度1ヶ月の女児である。投与法は毎日合計30㎍を経口摂取。粉ミルクや離乳食に混ぜ込み、薬効成分が変化しないことを確認してある。投与によって平均的な乳幼児より47日早い母音での喃語の発話を確認した。その10日後に子音も含まれるようになり、生後5か月を過ぎたころには音が明瞭になっていた。その23日後には身振り手振りによって意思を伝えようとしている様子が確認された。生後8ヶ月もすれば、名前に反応するようになった。しかし、身体面での成長が遅くなり、2歳3か月でようやくつかまり立ちができるようになり、2歳9か月で完全な歩行が出来た。頭脳面では平均よりは早熟で優れた能力を持ち合わしており、4桁までの四則計算なら暗算で行い、数百を超える論文の始め数行くらいなら長期記憶も可能であった。体力面での虚弱さについては生まれつきか、それとも当薬剤の副作用なのかは不明である。今回の被験者には大事を取って成人の100分の1倍の濃度で投与したが、効果が発現したことから、乳幼児に対する効果は極めて高いと考察する。【現在経過観察中】
6から12に対する経口摂取だが、37・5㎍より上の濃度【37.5㎍未満33.4㎍以上では植物状態ではあるものの生存】では投与1時間~2時間後脳内で高熱を出し死亡した。そして仮に生存していても重度の障害が残っていた。
13から16では静脈注射・皮下注射を問わず頭を掻きむしり平均5秒で死亡した。解剖の結果、急激に大きくなった脳を頭蓋骨内で抑えきれず小脳が圧力でつぶれたと考えられる。
17番では母体である当研究所副所長である五月美由紀が妊娠1ヶ月の段階で胎盤に当薬剤を毎日30㎍投与した。当初胎児の成長に懸念があったが、無事に3270グラムの新生児を出産。17番は5番を身体面及び知能面で上回り(計算能力では6桁の四則計算、記憶能力では辞書から論文に至るまでしまわれた場所から内容に至るまでを完璧に覚えていた)、生後5か月で簡単な日本語の3単語を用いた会話なら可能となり、歩行をして用意した部屋を歩き回るようになった。しかし初めての物事や人物にも警戒心がなく、こちらのことも人という認識ではなく、展示された人形やジオラマを見るように眺めている。時にはこちらをガラス越しに指差し、その方向に行くと何かしらのトラブルが発生しているといった事もある。この17番を成功例として、これを作成方法に決定する。【現在副作用と思われる衝動的及び残虐な行動や共感性・罪悪感の欠落を確認しました。】
補遺1 一般家庭に潜入させ、経過観察。
17番を研究者の娘2名が住む自宅で同居。その後の経過観察を行った。17番は娘達によって庭の向日葵より日向と名付けられた様だった。本来の異常性は鳴りを潜め、年相応に振舞っているようだった。これ以降は伊集院研究員による音声及びレポートをもとにした記録である。
3年ほど前 とある研究所
「こんなの3歳の子供にやらせることじゃなくない?」
彼女は六花達が学校の日はずっと研究所の広い部屋で日替わりの内容で何かの技を詰め込まれた。それらは何の苦労もなく身についている。今も5メートル四方の部屋には小さな注射器が転がっていて、彼女と男性はその部屋にいた。
彼女は少しぶつくさ言いながら尻の下でうめいている男性の首に逆手でナイフを突き立て、勢い良く切り裂く。彼女の足に赤くて温かいものがかかるが、彼女は何事もないように部屋わきのキャンディーケースに手を伸ばす。今日は好きなオレンジだったらしく、キャンディーをなめながらナイフの先で男をツンツンつつく。動かない男に飽きたのか彼女は男性を引きずると壁にもたれかからせる。一見すると壁を背に眠っているように見える。床と首元に目を向けなければ。そんな男の頭にコツコツと何かが当たる。それは先ほどまで男の命を握ってきたもの、ナイフがダーツのようにぶつけられていた。
「ま~だ~?おなか減ったよぉ~」
度重なる訓練と実践の影響で彼女は如何に楽に人が殺せるかを計算して見つけ出した。出血は何ml出ればいいか、何処に大きな血管があるか、どれが一番不意を突けるか。それによって最適化されたものがこれである。人を殺すのは楽しくはない。むしろ面倒だと、お姉ちゃん達と遊んだほうが楽しいと顔をしかめる。
「お疲れ様でした。17番。今日の訓練は以上です」
「私は日向だし、これが訓練?この人すぐ油断して首を見せてくれたよ?」
現に記録は42秒。彼女は少し不機嫌そうに年配の女性研究員に言う。
「日向~!遊ぼ~!!」
「六花お姉ちゃん!うん!遊ぶ~」
六花が連れ出してくれたのは近所の山の中。ここに3人で遊ぶ秘密基地が作ってある。秘密基地といっても元々炭焼き小屋だったものを勝手に使っているだけである。六花に担がれて森を進み、小屋の中に入ると芽衣が中にいた。
「ヒナちゃん、今日は山登りじゃなくてお勉強の時間なのですよ?」
「はーい!今日は何やるの?」
「今日は動物のお勉強なのです!さて出発~♪」
いつも通りに芽衣は六花に担がれている。芽衣は勉強ならできるが運動が全くできない。50メートル走は20秒以上使い、跳び箱は3段で突っかかり、水泳では浮いているのがやっと。だから基本的に山は一人では登れない。
「あれはニホンシカなのです!」
「…美味しいよね」
「本当に?六花お姉ちゃん!」
もう既に背中に蔵から引きずり出した弓と芽衣を背負っている六花がぼそりと重しが足りないという。そこに芽衣がにこやかにささやくと六花が固まった。
「ちぇー、じゃあいいよ。我慢するけどさ」
「寧ろなんでその弓が背中にあるのです?一応家宝とかなんじゃ…」
「蔵で埃かぶっていたからいいかなぁって」
背中にある弓はこの前日向と探検した際に見つけたものだった。漆が塗られた黒地に赤い花が描かれた和弓で、長い間掃除だけはしてきたという状況だった。矢も新しい弦もあったため使うことにした。使えるかを聞く日向に、六花は一時期イロハを叩き込まれたと返した。その話は本当で時折牡丹鍋が夕食に用意されるようになった。芽衣は気が付いていない様でもりもりと食べている。しかし…芽衣は何時も痩せ気味である。
「そういえば家宝といえば!りっちゃん、あの刀はダメなのですよ!」
六花の背中から芽衣がお姉ちゃんぶって小言を言う。
「えっ?あぁ…あのきれいな刀の事?青く輝いていてきれいだよね」
「青?私は銀色に見えたけど?」
「銀色なのです」
六花が青い刀だというと二人は銀だと答える。
「後で見ればわかるよ」
「そうするのです」
翌日、何時ものよくわからないことを終わらせ、姉達が学校から帰ってくると3人は蔵の中に入った。
「窓も扉も開けたから明るいけど埃っぽいのです。くしゅん!!」
「さてお目当てのものを探しますか…って言っても目の前の神棚にあるけどね」
六花が刀を神棚から取り、鞘から抜くと刀身が薄く蒼白い光を反射していた。
「きれいなのです~!」
「こんなんだっけかなぁ?」
感心する芽衣に対して彼女は少し不思議そうにしていた。
「…なんか神聖なものかもしれないから戻しておこう」
六花は鞘に刀を戻すと神棚に置く。
「お姉ちゃん!こんなのもあったよ!」
それは反物の山であった。2人は美術品だろう物があったことの驚き、まじまじと見た。
「これは…少し使われた跡があるね。着物を作った時の余りみたいだけど」
「…そうだ!これで髪飾りを作るのです!」
芽衣は早速家に戻って裁縫道具を取りに行った。
「僕は着けられないと思うんだけど…」
「お守り代わりに持っておけば?きれいだし」
その次の日、彼女たちは髪飾りをお揃いにしていた。彼女は気に入ったようでどんな時も肌身を離さなかった。対人・記憶力・運動能力に対する試験は来る日も行われ、彼女が5歳になるまで
それからは毎朝、二人はお揃いの鞠を模したような髪飾りを着けて学校に向かった。それを見送りつつ、彼女は横の長くなった髪をサイドテールにして結ぶ。ヘアゴムには鞠のようなものが2つ付いていて、彼女は少しご機嫌だった。因みに芽衣はリボンに、六花はヘアピンにつけていた。すると、玄関からおばあさんの声が聞こえた。
「17番、時間ですよ」
「日向です~!わかったよー仕方ない」
今日は文章を覚えるというものだった。ひらがなの長い文章を覚えるだけという単調な作業に飽き飽きしたように座った椅子から足をぶらぶらさせるとガラスの向こうの人物からスピーカー越しにいら立ち交じりの声が聞こえる。
「これで今日の実験は終了です。お疲れ様でした」
「もっとバラエティーに富んだ問題がいいんだけど…」
開いた扉に向かってぼやくも返事はない。彼女は肩をすくめて外に出る。
彼女はそのような生活を日々続けているが、これについて拒否などは確認されていない。しかし…名前で呼ぶことには固執しており、たびたびそれを訴えてくる。
そんなとある日、彼女は実験後にふと髪飾りを気にしていた。姉妹でお揃いらしき色とりどりな鞠の飾りが付いたヘアゴムに対して眉をひそめて凝視する。如何やら血液が付着してしまったようだった。彼女は忌々しいように女性の死体に蹴りを加えると、キャンディーをくわえて髪飾りをいじっていた。
「…いい加減にしてほしいなぁ」
「17番。お疲れ様でした」
「日向なんだけど…」
彼女はしぶしぶというように退出した。彼女も実験開始から3年の月日がたち、そろそろ小学校に通わなくてはいけない年になった。せめてあの子たちは私達の娘であってほしいという両研究員の嘆願で戸籍が用意されている。かれこれ私も監視任務を受けてから3年の月日がたっただろう。結果からは予想よりも優秀なことが分かっており、この研究はあと数ヶ月で私達、陸軍造兵局付属研究所に受け継がれる。そうなればもう喧しい2人の相手をしなくてよくなるだろう。そうなればあの17番の研究は私に引き継がれる。
そんなさなか、アイクというユーラシア大陸からの侵略者の襲来が発生した。五月両研究員はわが軍の護衛もむなしく、出張先の長野県での学会の場にて死亡が確認された。その知らせを聞いた私は17番の回収に向かった。
【以降の記録は伊集院研究員のポケットから回収されたボイスレコーダーの音声データ及び17番こと五月日向本人に対する聴取によって作成されました。】
「17番、お迎えに参りました」
「ありがとうねー!ちょっと待っててね」
珍しく名前を呼ぶように言わない彼女に、珍しさを感じつつも声のする蔵に向かう。そこには彼女がヘアゴムを片方だけ結わいた状態で立っていた。
「良し!お待たせ~」
彼女が準備を整えたのを確認すると私は車へと彼女を誘導する。いつもの光景だ。これで私がこの子を研究出来る…と考えていると、背中が焼けた金属を当てられたように熱くて痛くなって声を上げた。ふと胸元を見ると刃物の先が見えていた為確認しようと後方に力を振り絞って見返すと、そこには笑顔の彼女と、その手元には一振りの脇差らしきものがあった。
「な…んで…」
「多分ねぇ~ここにお姉ちゃん達が助けに来るんだ。だからさ!おとりになってよ?ね」
彼女の言葉には罪悪感も良心の呵責もない様だった。口調には冷蔵庫に無いから買ってきてほしいと同じような程度のお願いだけだった。
「そうだ!おばあちゃん?いや…伊集院研究員。貴女は私を軽く見すぎたんだよ。…あなたを殺す程度造作もないから…ね?」
そう言うと目の前で扉が閉まる音がした。その数十分後女性2名の声と彼女の声が聞こえたところで録音は中断されている。
【本資料は現在も修正及び加筆されている】
日向「あのヘアゴム?あるよ。寝室のタンスの上からの2番目の右奥の緑の小物入れの中に寝転んでいる赤の熊のぬいぐるみの首にかかってるよ?」