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南部茨城攻略戦 前段階

戦闘?しません。何時もの一方的な暴力にございます。…戦闘かけないなんて言えない言えない

10月初旬 ヒッカム航空基地 司令部施設


いつもは司令長官の末っ子がコーヒーブレイクなどを楽しんでいる執務室で、今日は44分隊の4名が集まり、執務机横にある地図や作戦内容が書かれたホワイトボードを見ていた。


「今回は大規模な反攻作戦となる。開始地点は鹿島港。そこまでは輸送艦に乗っけてもらう。作戦地域は茨城県笠間市、茨木町、大洗町以南の市町村だ。それより北には入らなくていい。今回までに行方市、鹿嶋市、潮來市、鉾田市、神栖市の5市町村は現地に駐留している主力部隊によって確保してある。作戦の最終的な目標は霞ヶ浦飛行場及び百里飛行場を確保し、つくば市に大規模な作戦基地を設置するための足掛かりにすることにある。つくば市より西側区域は可能であれば敵勢力の漸減をしてもらう。地区の確保は現在、鹿島港の臨時基地や鴨川基地、館山飛行場に待機している歩兵師団や戦車大隊などに確保してもらう。目標施設の確保をした際はこの発信器を起動してくれ。1時間程で防衛戦力が来る。では、お前らの武運を祈る」


ホワイトボードを木製の棒で指しながら則道が説明をすると、すぐさま間宮からの質問が飛んだ。


「団長、まさかだけど徒歩じゃないわよね?それだとなかなか難しいと思うのだけど」


「今回は研究所から試作車両を提供された。最高で70キロ出る装軌車両だな。最高速では数十分しか進めないそうだが。それに乗っていくといい」


今回はかなり楽に移動出来ると分かった芽衣は少し嬉しそうにしている。


「そういえば、弾薬とかって補給出来る?」


南が聞く。すると、則道は小さな箱のような物を差し出した。


「これの電源を入れて地面に置いてくれれば館山からデリバリーしてくれるそうだ」


「これでいいかな?さて移動手段は船だよねぇ?行こうか」



港には中型輸送艦が停泊していた。そのタラップの横の人物に敬礼を受けて身分証を見せると、難なく輸送艦後方の甲板にある大きなコンテナのようなところに連れていかれた。その前には主力戦車のような車両が固定されて積まれていて、少し輸送艦の主砲に見える。それらを見回していると輸送艦は微速で海の上を進みだし、4人は先ずは戦車内を見回すことにした。ハッチを開けると、中から寝ぼけたような声がした。


「んぁ?だぁれ?私は操縦手兼整備士兼燃料タンクの黒井日向特別上級技術兵です…。よろしく~」


中にいたのは歩くトラブル発生装置兼超高性能発電機黒井日向だった。


「丁寧にどうも、私は黒井芽衣軍医大佐なのですよ!ヒナちゃん?」


「おねぇ…痛ててててぇ!!ほっぺた取れちゃうよう!」


日向は芽衣に頬を引っ張られていた。他の面子も頭を抱えていた。


「なんで日向ちゃんがここにいるのかしら?」


「端的に言えばドローンを盗んだらお返しに弱い睡眠導入剤を盛られて詰め込まれてた!」


「あの時のドローンはそういうことなのですか…」


本来燃料タンクなどがあったであろうスペースは所狭しとお菓子が詰め込まれていた。中はそこそこ広くなっていて、車内の移動なら楽にできるくらいだった。しかし…操縦席はかなり狭く、丁度子供が入れる程度だった。


「さっき見つけた手紙からすると、基本的には普通の戦車と変わらないけど、私のバリア発動の補助装置とエンジンの代わりに高出力モーターが搭載されているぐらいしか変わった点は車体にはないよ。大きく違うのは主砲だよ」


日向は砲弾の装填装置を叩く。見た限り砲弾の代わりに金属製のライフル弾丸状の塊が無造作に置かれている。他にも矢のようなものや、紡錘型もある。


「馬鹿みたいに有り余った電力を使った電磁投射砲となっております!私も似たようなことできるけど、あれはコイルガン方式だから違うし…」


如何やらこの戦車は日向専用機体…というか日向の力でごり押せるようにしたもののようだった。


「これの弾薬ってまさか使い回しかしら?」


「弾薬作成のための私の工作ツールらしいよ?3Dプリンターに3つのデータ入ってるし」


そう言うと、日向はハッチから上半身を出して手近な建設用鋼材のうち一本に光線状のものを照射すると、日向の大きなライフル銃らしきものが鋼材を融解させながら成型して、ラグビーボール型の金属の塊が作られた。


「それ便利ねぇ…。欲しいわね」


「日穂お姉にこの莫大な電力の供給先があるなら葉月さんくれるかもよ?」


鋼材を溶かして謎の技術で成型するために使う電力量と考えると不可能とはわかってはいたが、そういえばこの子、少し頑張るというレベルで発電所1基分を賄うような子だったと改めて間宮は思った。


「そう言えばお姉ちゃん達はもう横のコンテナの中にいるのかな?私も行こうっと!」


日向に引きずられるようにコンテナの中に入るといつものメンバーがのんびりとしていた。


「お姉ちゃん、いつの間にお茶飲んでる!私も欲しい!」


「そこまでおいしくはないのです。色だけはついているのですけれどね」


芽衣はお茶に対してなのか「この状況で贅沢は言えないけど…」という考えからかはわからないが少し渋い顔をしていた。


「それ飲まなくても葉月さんがお菓子と茶葉は戦車に入れてくれてたよ?コーヒーはなかったけど」


芽衣はすぐさま外に出て行った。4人は苦笑しつつ、すぐにニコニコして帰ってきた芽衣を眺めていた。


「さて、どうせ数日間は暇でしょ?あたし達のお仕事は休むことじゃないかしら?」


「間宮さーん。外見て~。お仕事みたいだよ~」


先ほどからちらちらと外の様子をうかがっていた南が水平線を指さす。その先には水をかき分ける様に水面を進むサメのような生物と、巨大なトンボが飛んでいた。


「この船団って護衛艦がいなかったと記憶しているんですが」


「六花ちゃん、一応は海防艦…というか多分フリゲート艦…というかこれコルベット?がいるよ」


「確実に言えるのは…あたし達が戦闘に参加しないとゲームオーバーね」


そんな呆然とした3人に対して日向はモーターを動かして砲を旋回させていた。


「六花お姉ちゃんは私の後ろの弾薬庫?から砲弾を装填して!小梅お姉は砲手として頑張って!日穂お姉は敵の情報を探って!…芽衣お姉ちゃんは応援!」


その指示に従って六花が主砲の装填口に弾丸を込めると、南は軽く狙いを定めて発砲する。水平線上では赤いしぶきが飛んで何かが吹き飛んでいる様子が見えた。しかしそんな時に日向が深刻そうに声をかけてきた。


「六花お姉ちゃん…これを設置してから装填して、それ…非常時の装填口だから…」


日向が出してきたのは漏斗の下に筒状のものがついた機械。


「ここに弾丸を入れておけば自動で装填されるから。六花お姉ちゃんは直接行ってくれば?」


その言葉を待っていたかのように機械を取り付け、出て行った六花に3人が呆れた顔をする。その中でも南は黙々とサメ型に砲撃をしていた。そんな時に南がつぶやく。


「ナイスだねぇ。これでやりやすい」


遠くではサメ型が宙を浮いていた。大体六花のせいだとはわかるが、南は呆れよりも助かったという表情だった。


「小梅~?どこがナイスなのかしら?」


「この弾丸さ~、水中で減速しているみたいで潜られると当たらないんだよね。だから空中に放り投げてもらえれば楽なんだよね」


間宮が納得したように監視に戻ろうとすると芽衣が困ったように間宮に話しかける。


「遠すぎてどういうことかわからないのです。出来ればりっちゃんのことだけでも教えてほしいのです」


「えぇっと…いいけれど。行動だけしかわからないわよ?」


そう言うと間宮は水平線の先を見るように手を目の上にかざした。


「投げる、サメ型が弾ける、次に向かいながら何かを口に運ぶ、満足そうに笑う、トンボ型にフックを刺す、体を横半分に切る、何かを口にする、顔をしかめる、かなり増速して残りのトンボ型を飛び跳ねて回って全て頭・胴体の二等分にする、ニコニコしてサメ型に近寄って尾びれを掴んで放り投げる…しれっとひれを切り取ってるわね…」


「いつも通りで安心してるのです」


段々と興が乗ったのか南と六花はサメ型を使ってクレー射撃を始めた。一気に3体を撃ったり、縦に並べて貫通させたりとアレンジを加えていく。ふと輸送艦の艦橋に間宮が目を向けると、啞然とした乗組員の姿があった。それもそのはず。艦砲やミサイル、対潜ロケットすらも避けて船に大穴を開けるサメ型や、対空火器を物ともせず溶解液をばらまいて攻撃をするトンボ型が無残にはじけ飛んで行っているからだ。間宮は頭を抱えつつ戦闘が終わるのを待った。



「周囲に敵性反応無し。損害は確認されない。お疲れ様」


「ふぅ!楽しかったねぇ」


「あまり実感はないのです。ここからだと敵が米粒大ですし。早く帰ってくるですよ~」


その無線の後、水をたたくような音の後に六花が戦車の上に座る音がした。その手にはピンクとベージュが混ざったような動物の消化管らしき袋があった。


「いやぁ…中々いい戦闘でした」


「六花ちゃん、口元に白身魚っぽい肉が付いてるわよ」


「地上と違って毒物は含まれていなそうですよ?ふかひれスープ作りたい放題ですね」


間宮が六花が差し出してきた袋の中身をスキャンすると、確かに有害な物質はない。しかし普通の20倍はありそうな縦1メートル程のふかひれをどうしろというのか。説教を二人にしようとしていると、おずおずと乗組員が近づいてきた。


「すみません、僕は輸送艦『豊後』主計科所属三枝健上等兵です!要件はそのふかひれを譲ってもらえないかということなんです」


「…食べるのです?」


「えぇ、海にすむアイクは有害物質を含まなくて、カジキもサメも目撃例は少ないですが『クラーケン』と言われているタコっぽいのもかなり美味だと…」


三枝は芽衣の引いたような質問にも平然と答えた。寧ろ海軍部の人間は変人しかいないのか…と思う4人だが、六花はそんな三枝に目を輝かせてその手を取った。


「ですよね!!このサメ型の腹の部分の脂がのったような身から背中のコリコリとした所まで旨みがあって!」


「そうなんですか!僕はひれと腹の身のかけらしか食べたことなくて…今度持ち込んでくれれば何かしらの料理という形で振舞います!」


間宮はそう言って意気投合してこちらを向いてくる2人から嫌な予感がした。


「「すみません」先輩!」


「何かしら…」


「ふかひれを分けて下さい!」


「是非とも!いらないわよこんなの」


「僕は…」


「何よ」


「ここの周囲からカジキ型・サメ型・あわよくばクラーケンとやらはいませんか?」


間宮は頭を抱える。「駄目だこいつら、食欲で動いているわ…」と。間宮が断ろうとしたとき、一番食いつきそうな人物がいることを忘れてた。今回の戦闘でかなりのエネルギーと気力を失ってしまった人物が。


「私も美味しいもの食べた~い!!欲しい~!!」


「ねぇ…日向ちゃん?お菓子ならそこに「この先3キロ先の海底にそれらしい集団を確認したよ!六花お姉ちゃんゴー!!」あちゃ~」


それを聞きつけた六花は船から飛び込みすぐさま潜っていった。現在状況をはっきりわかっているのは日向と間宮だけである。


「良し!」


「よくないわよ!」  「痛ぁい!!」



先ほど六花がいつもは空中や大きなアイクに打ち込むフックをサメ型や大きな10メートルのカジキマグロ、挙句の果てには6メートルほどのカニに括り付けて艦尾から上がってきた。。現在それに気が付いた積載用クレーン作業員によってマグロの水揚げのように3尾づつ甲板上に吊り下がっている。


「これで航海中美味しいものが食べられるね…グスン」


日向はある部屋で痛む頭と1時間ぐらい続いた説教に涙を流しつつも、頭の中はご飯の事しかなかった。現在は六花がその身代わりとなっている。高身長も今ではシュンと小さくなっているように見える。三枝は呆れたような主計長の横で目を輝かせていた。


「しかし…どこに保管するんだ?こんなデカブツ」


「使用していない貨物室を現在冷却設備で冷凍庫にしています。主計長」


「電力はどこから確保したんだ?」


「44分隊の方が『心当たりがあるから任せておきなさい』と」


輸送艦『豊後』 機関室


「嬢ちゃんあの【ヒッカムのビリビリ姫】かい?」


「そうだよー!」


日向は罰としてこの艦の電力を一手に引き受けることとなった。


「お腹空いたよ~!」


こうして夕食は豪華になった。


次回!美味い海鮮に舌鼓をうつ5人。間宮は食い意地が張った2人を上陸まで抑えることができるのか。次回「陥落した次女」お楽しみを!

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