万能型お姉ちゃん六花製造計画
戦闘回をするといったな、あれは嘘だ(強調)思い浮かばないんで濃茶のごとくお茶を濁します。
ヒッカム航空基地 司令部施設 司令長官執務室
いつも通り黒井則道司令長官は、乱雑に机に積み上げられている書類を地道に減らしている。違う点といえば、猫のぬいぐるみのようなインテリアと化している猫耳パーカーの常識人な愛娘が執務机の横に置かれた大きなビーズソファーでスヤスヤ寝息を立てている点だろうか。数時間前に黒井司令長官が「少しこれでも食べて待っていてくれ」とカップケーキと紅茶を渡したのだが、それらは包み紙とティーカップだけが彼女の近くに置かれたスツールに置かれている。しかし則道は廊下よりドタバタと足音が聞こえて来たのを感じると深くため息をついた。
「隊長!手伝いに来ましたよ!」
「…静かに入ってこい。全く…間が悪い」
則道は口元に人差し指を立ててジェスチャーすると、東城ははてなマークを頭に浮かべたように間抜けな顔をすると、横のぬいぐるみ?を抱き上げ、にやにやした。
「隊長…寂しいのはわかるが…。ぬいぐるみとは…」
「よく見ろ間抜け」
ぬいぐるみ?は「んんっ…?パパさん?終わったのです?」と声を出すと、東城の顔のほうを向き、固まった。
「東城…さん?何で私を抱き上げているのです?」
その後直ぐに、則道が奪い取るように芽衣を抱き寄せるとそのままソファーに戻した。
「すまん芽衣ちゃん。ぬいぐるみかと思ってな」
「…何の用だ?今丁度最大効率で終わらせていたところだったんだが」
則道の背中からただならぬ殺気が東城に向かう中、芽衣は思い出したように二人の間に割り込む。
「そうなのです!今日の昼懐かしい夢を見たのです。その中で気になってたのが、りっちゃんのコネクションが広すぎるのです。いじめられていた時もしれっと県知事と電話で取引していたし、中学生の時なんか警察まで手配して不審者の警戒をしていたのです!りっちゃんに聞いても『昔の伝手で…』とか『小さい頃に仲良くなって…』とか言ってたのです!無理やり聞き出したら『お父さんなら…覚えてるんじゃない?』と白状したのです!」
「そんなことしてたのか…あのバカ娘…。日向のあれも姉仕込みか?…森永!お前のせいだろう?!」
「水無月少将の娘なのに許可出した司令のせいでしょう?てっきりあなたの子供かと…」
ドアから入って来て早々言い訳を始める森永に則道は淡々と答える。
「うちの娘は遥達だけだったぞ」
「はぁ…分かりました。ほら、司令も少し昔話をしましょう」
「はぁ?!娘を預かれ?…まぁ…我が家は基地周辺だが…。子どもは小学生でしょう?!…すぐそこの第3小学校だから平気?2年間でいい?上官命令?…あ~ハイハイ…分かりました。準備しておきます。それでは」
同期の水無月少将から娘を預かれとのことだが…。どうせ中国戦線に俺らの居場所はない。2年は暇だろう。男の子なら…まだ対応できるだろうが…。うちの娘は少々お転婆だから扱えるのだがなぁ。
次の日の10時過ぎぐらいに、家族3人でテレビを見ていると、玄関チャイムが鳴る。如何やら来たようだった。少し重苦しい気持ちでドアを開けると、中性的な顔立ちの子どもが立っていた。遥の友人?…彼氏か!!
「今日からお世話になります!水無月幸一郎の娘、水無月六花です!よろしくお願いいたします!」
あれぇ?男の子みたいな感じの対応でいい子来た。
「よく来たね。入りなさい。菓子は用意してある」
「それよりも…お聞きしたいことがあります。その…えぇっと…」
何だ?父親から何か仕込まれたのか?いや、どこで寝ればいいかとかかもしれない。まぁ…何とかなるだろう。
「稽古をつけてくれると聞いてきたのですが…本当ですか?」
あっ~まずいかも。娘よりも扱いやすいかも。六花は目を輝かせて上目遣いで伺ってくる。
「良し!いいぞ!満足行くまで教え込んでやろう!」
「ハイ!」
結論から言おう。強すぎる。俺が本気でやってギリギリとは…。何をしてきたら躊躇なく急所に攻撃を加えてくる7歳児ができるんだ?防いだら隙間を狙ってきて、攻めたら防いでカウンターを決めようとしてくる。あの野郎…教育間違えてるぞ。
「やっぱり強いですね…黒井さん。かなりあっさりと受け止められてしまいました」
「筋はいいぞ!あともう少しだ」
勘弁しろよ…。扱いやすいが、覚えが良すぎる。この子俺の技をそのまま打ち込んできたぞ…。
いきさつを聞いてみると、彼女は父親から徒手格闘からサバイバル術、水泳や持久力強化の訓練等々を『どんなことがあってもいいように』教え込まれたらしい。過保護?に育った影響か、どことなく娘よりも新兵でも相手にしているような気がする。
双方へとへとで庭の芝生に寝転ぶと、頭のほうから声が聞こえた。
「全く…このダメ親父はこぶしでしか語り合えないとか、脳まで筋肉だるまなの?」
「手厳しいな遥。ただお願いを聞いただけさ」
「ふ~ん…。それで貴女が噂の六花ちゃん?随分と…ボーイッシュね…」
遥はまじまじと六花を眺めると、「お風呂入るわよ!お姉ちゃんのすばらしさ叩き込んであげるわ!」と言い、六花を風呂に入れに行く。それを黒井の妻、亜希は微笑ましそうに見守る。
遥はお姉ちゃんとしてふるまうのが夢だったようで、昨日はルンルンでいた。相性は良さそうだし…。いいよな?
風呂から上がると、きゃいきゃいと騒がしく娘2人は出てきた。意気投合したようで、こちらを見るなり二人して大笑いしている。
「黒井の親父さん!今日からお願いね?」
「バカ親父さん?ぷぷっ!」
何で親父さんなんだよ…。ほらお父さんとかパパとか…。まぁ…いい感じに緊張もほぐれたようだしいいか…。
「二人共~ご飯よ~!降りてきなさい」
「「は~い」」
上からドタバタと足音がして、二人が下りてくる。如何やらもう姉妹になったらしい。観察から分かったのだが、きっと、素直じゃない世話焼きな遥と、案外ポンコツで間合いの取り方が上手い六花がガッチリはまったんだろう。今も急いだからか、六花の乱れた服装を亜希が直している。
「フフッ♪随分食い意地の張った娘ができたようね」
「はんほほほはら(何のことやら)」
六花はつまみ食いしたであろうハンバーグの付け合わせらしき人参を口に頬張りながらすっとぼけている。あまりの白々しさに夫婦で大笑いしたが、とどめは遥に頬を引っ張られて痛がってはいるが遥が抑えられるくらいに暴れている六花だった。
「お行儀がよくない!悪さをしたのはこの口かしら?えぇ?!」
「痛い!痛い!離してぇ!」
「それって何時ものヒナちゃんとりっちゃんのやり取りなのです」
「血は争えんか…」
「いつも思うけど…いい食べっぷりねぇ」
「そうかなぁ?普通じゃない?おかーさん」
預かってから1ヶ月してから、緊張もほぐれたのか、最近、六花はよく食べる子だと分かった。それこそダイエットと言い始めた遥が残すと言い出す前に平らげてしまい、ペチペチ叩かれているくらいには。
「太らなくて羨ましいわね」
「訓練してるからね。一緒に「やらないわよ」え~」
六花はブーイングしながら、横の遥の皿に盛られているサイコロステーキを盗もうとしたがばれて頬を伸ばされていた。ここ一か月、けんかというのを見たことがない。大体六花がねだって、遥が仕方ないと折れているからだ。けんかではなくこんな感じでお仕置きはされているが…。
「全く…妹じゃなくて弟みたいよ」
「そうだ!せめて俺のことをパ「親父どうしたの?」とは言わんよな」
「だってお父さんはお父さんしかいないもん」
未だに親父は…娘なはずなんだけど…。
それから2か月もすると俺の徒手格闘の限界が来た。だから多少の好感度を使って時間稼ぎをすることにした。剣術なら…1年は持つだろう。そう言えば、数日前から六花が料理を亜希から習い始めた。彼女が言うには「自分でも作れればいつでもおいしいものを食べれる」とのことだった。
「今日からは軍刀術も教えようと考えてるんだが…」
「本当に?黒井の親父!」
「いい加減にお父さんと呼べ」
六花は少し葛藤してから「仕方がないなぁ…。おとーさん」と小声で言うと、急かす様に俺の腹を叩く。こうなれば可愛いものだ。六花に用意してきた木刀を渡すと、握り方から教えることにした。
「先ずは握りからだ!右手をここで軽く握って…そうだ。その後左手を柄頭の所を包むように握るんだ。いいぞ!それを忘れないように軽く振ってみろ。少しぶれてるぞ」
「おとーさん、流石に難しいよ」
とは言ってはいるが、気に入ったのかこの日は夕食以外の余暇の時間を素振りに費やしていた。1週間もすれば、木刀は同じ箇所に振り下ろせるようになり、2週間もすれば技を覚えられるまでになっていた。休日の昼には打ち合いもした。
「おとーさんよそ見は厳禁だよ」
「相変わらず凄い反射神経だなぁ…。これをよけるとは」
ここまでくると、徒手格闘の身のこなしなども交えて回避しながら打ち込んでくるようになった。しかし…意図せずして試合に出るようなおしとやかな剣術ではなく、本当に殺しにかかってくる泥臭い剣術に仕上がっていた。先ほどなんか足払いから喉を狙ってきたぞ…。そんな試合というかじゃれあいを終えると何時ものように亜希と遥が軒下でお茶と煎餅を持ってきて休んでいた。
「六花、それ楽しい?」
「楽しいよ?」
遥はやれやれと肩をすくめると、またお茶を片手に持った。
「男の子ってわからないわね」
「妹っていうこと忘れてたの?お姉ちゃん…。記憶力…」
「知ってるわよ!どうしてこうなったのかしら…?」
何時ものように掛け合い漫才をしている二人を眺めていると、玄関から聞きたくない声が聞こえた。
「たいちょーう。来ました。森永です~」
部下の森永の声だった。今日は飯をたかりに来たのか?それともナンパ梯子旅が中止になったのかもしれない。
「何だ森永?飯か?無いぞ」
「水無月少将の娘を預かったということで冷やかしに」
「帰れ」
今ドアを閉めようとしたときに、件の人物が割り込んできた。
「この人が森永さん?まんねんはつじょうき?でなんぱしのどくず?の森永さん?おとーさん?」
「お嬢ちゃん…?どこでそんなことを…?」
「お父さんか言ってた!女性を見るときだけナメクジが這うような、ぬめっとした目をしたやらしい?人だって!」
「隊長…?本当ですか?」
「俺は言ってないぞ」
森永はジトっとした目線を黒井に向ける。それに対して黒井は慌てて六花に向き直る。
「お父さんの名前は?」
「幸一郎だよー!」
二人して頭を抱えた。あの腹黒、とんでもない爆弾を置いて行ったらしい。幸運なのは意味が分かっていないところだろうか。
「隊長!とても度胸があるので一日借りてもいいですか!保護者会作ってきます!」
そう言うと森永は黒のスポーツカーに六花を乗せて、どこかに行ってしまった。
次回!森永が連れて行くのは、可愛い子にはだだ甘なおじさん達の集まり。無自覚で剣術、会話術、愛嬌を兼ね備えた軍幹部&男気溢れる中年政治家のメタデッキの六花の運命やいかに。