白薔薇戦争 襲撃
トラブルも終わり平和になった所に不穏な影が…。と言うのはさておき。まぁ…ご都合主義ですので
ヒッカム航空基地内 司令部施設棟 総合司令長官室
「黒井司令長官、コーヒーお持ちしました」
執務室内にノックの音が響き、コーヒーをお盆にのせて女性が入ってくる。
「森永は不調か。頂こう」
そのコーヒーを則道が受け取ると、女性は背を向けて退出をしようとする。
「所でだ」
「何ですか?」
「君はウチのものではないな?コーヒーに砂糖がないし、私が何時も飲んでいるのは娘ブレンドのエスプレッソなんだ。そして何よりこの基地に私の給仕はいない」
則道はそう言い終わると拳銃をスッと出し、3発どもった音が聞こえる。それから数秒後にノックもなしに入ってきたのは森永だった。
「司令いかがいたし…ネズミでしたか」
「森永か、早速麻酔銃を使うこととなるとはな…。何故か給仕に化けてたぞ」
ここに給仕に来る人間なんて娘か森永しかいない。更には海に放り投げられて「流石に寒いから勘弁して欲しい」で済まして帰ってくる森永が『不調』などと訴えるなどありえないからである。その前にノックして入ってくる人間なんてほぼいない。
「給仕係なんていましたっけ?司令」
「どこぞの馬鹿が執事服を着てうろついてるのが悪いんじゃないか?お前中国でいつも横にいて補佐してくれた森永少佐だよなぁ?」
「そうですよ?一応執事服じゃなくて防弾チョッキと拳銃やナイフを隠すために改造したスーツなんですけどね」
森永ことと森永綱三少佐は東城と黒井と衛生兵兼苦労人の如月と共に中国大陸で通商破壊任務に就いていた部隊の隊員で、ノリは軽くて主任務は得意のトークセンスを用いた懐柔と扇動である。黒井が計画を立てて、森永が現地の協力者を確保し、東条が罠の設置をするのだが結果的に、プランC(ゴリ押し)を使う羽目となる。原因は3人があまりにも自由に動き過ぎているから。その為、ソ連・共産党軍に捕まりかけるなんていつものこと。ある時は頭の上を銃砲弾が飛び交い、ある時は対地攻撃機に付きまとわれ、ある時は方面軍総軍まで動員されて追いかけまわされる。その為か、4人そろってゴキブリ並みの生存能力を備え持っている。
今2人は日向に時折追いかけまわされ、あるものは医師不足を補う為に昼夜問わず働かされ、森永は…その三人の愚痴を聞かされ続ける。
その後、執務内容の確認と修正をしていると、勢い良くドアが蹴飛ばされて開く音がした。
「司令殿~。交代ですよ~」
「今さっき打った鎮痛剤のせいで気分が高揚してしまっているだけです。気にしなくていいです黒井隊長」
如月に肩を借りて豪快に入ってきたのは東城秀人副司令…なのだがどうやら治療を受けて来たらしい。
「どうした東城?お前が怪我なんて珍しいな」
「うちの娘に関節を外されましてね…。お宅の芽衣ちゃんがいれば痛くなかったんですがね」
東城は執務室に置かれている応接用のソファーにドカッと座ると、肩や肘を腕で触る。
「そう言えば花ちゃんが言っていましたね。如何やら黒井隊長のお嬢さんの内、1番と3番が鍛えているんでしたっけ?これでお父さんはボコボコだ~とかなんとか」
「「バカ娘どもが…」」
如月が思いついたようにつぶやくと、東城と黒井はため息交じりに呟く。それを見て森永はにこにこしながら答える。
「いいじゃないですか!私には生憎子供がいませんので…」
「毎日殺気を浴びせかけられてみろ…。きついぞ」 「俺なんて末っ子に追い回されてしびれさせられて口にチリソース1本流し込まれたぞ」
如月は考えた。「全て考えなしに行動するからでは?」と。東城は娘を鍛えると言いレンジャー隊員レベルの運動を1年前からやらせている。よくぞ彼女は生きているものだと感心まで覚える。そのツケが今日の肩から腕までがだらんとしたまま運びこまれたと言う事だろう。司令に至っては約束を破る。そしてとぼける。開き直るという具合である。この前の姉たちの出陣の際は地面から生えてるのかと錯覚を覚えるくらいしっかり頭から埋まっていた。あ~あ…。こいつらいくつになっても変わらねぇ…。
10年程前 中華人民共和国 内モンゴル自治区某所
「今回我々に下されたのは何と!ソ連軍の補給線の破壊任務だ!」
「「なんだってー!」」
「頭痛い…」
軍医だった俺こと如月浩二がこの無法者部隊の配属となったのは、負傷兵の救助で上官と揉め事を起こしてしまったからだ。お陰で頭は切れるが最前線で指揮をしようとする命知らずな参謀将校と、単独突撃で敵機関銃陣地を攻略した脳筋工兵と、腕はいいのだがナンパと奇行の目立つ諜報員と共にこんな辺鄙なところで輸送機から落下傘降下をして、どう見ても無茶な作戦に参加する羽目となっている。
「まぁいつもの流れは終わったから作戦説明だな」
それだけ言うと地図を地面に広げて説明を始める。
「それじゃ今回の作戦を説明する。今回の通商破壊任務だが…ちと手が足りない。そこでこの前の反省から何か条件を出して農民を蜂起させて手伝ってもらおうと言うわけだ。この前は…確か機甲部隊の足止めだよな?なら今回は楽勝だな!」
その後話されたのは、森永が事前に調べ上げた地理や人々の暮らしのまとめての総評である。
「まず、補給路と考えられるのは、トラックの通れる道をピックアップして3本。その内2本はこの村を経由している。もう1本は山道を通ることになるから大方避けると思われる。そこでこの村と思ったが…森永の偵察からこの村は前線基地になっていることが分かったため、その2つの道に挟まれたこの村を押さえたい。そこでだ、何かいい村民への土産はあるか?」
それを聞き森永が提案する。
「食料品が最も受けがいいと思います。しかし…持ち運ぶにも本国から支援物資は届きませんから無理ですかね?」
「私が医療行為はできますから、無償で提供すればどうでしょう?」
黒井隊長が悩み果ててる所に先ほどから黙っていた東城がいいことを思いついたと言い隊長に耳打ちをする。それに対して「その方法が!」と言わんばかりなその顔を見ればろくでもない事は分かった。
何故か4人はソ連軍の基地となっている村にいた。警備は物々しく、自動小銃や機関銃座、探照灯に迫撃砲まで完備の完全武装状態である。兵数は森永が持ってきた小型ラジコンヘリコプターでの偵察で80人はいるだろう。何故か3人ほどワクワクして2式小銃を抱えているが、何故だろう。嫌な予感がする。主に視線の先にあるのが糧食を積んだトラックなのが更に最悪である。
「まさか…。奪うんですか?」
「「「それ以外にあるか?」」」
やだ、この人達…。すると東城はいつのまにやら見張りの兵士の後ろにいた。あっ…首を絞めて暗がりに運んで行った。すると東城はこちらにジェスチャーをしていた。こっちに来いの事らしい。
「ここに4両トラックがあるだろう?」
「えぇ…」
それは立派な6輪の大型トラックが4両ありますけど。
「乗れ」「乗るんだ如月」「あきらめも大事です」
そんな調子で数か月にわたり、糧食をあの手この手で奪い、近隣の村などに渡していった。ある時は移動中のものを乗り移って奪い、ある時は休憩中のドライバーを拘束して奪い、基地から乗り込んで奪い、ある時なんかは基地で騒ぎを起こして奪った。お陰で南部の前線では食料品で仲間割れが起こった部隊もあったらしい。因みに俺らの撤退後は近隣住民からの略奪が多発したと聞かされた。
「そう言えばこの4人が集まるなんて懐かしいですね」
森永がしみじみと言う。
「そうだなぁ…あまり如月はここに来ないもんなぁ」
「俺は良く交代で来るからこの2人とは会うけれど、如月は病院で忙しそうにしてるから来ないな」
2人はそれに同意して答える。如月はいつも病人の診察や救急搬送の対応、カルテ作成などあっちこっちに動いて働いている。芽衣が来ればそのうちの怪我人の対応がなくなるのでいくらか楽にはなるようだが…問題は深刻な医師不足である。
「今日は新人20人に対応できる程度の事をやってもらっているから少しはここにいられますね。平和なもんです」
そんな如月の休めると言う考えはある伝令によって潰れてしまう。それは息を切らしながら入ってきた職員が発した一言だった。
「大変です司令長官!東南アジア諸国連合から宣戦布告が来ました。ワイキキビーチ沖合5キロに戦闘艦艇多数確認!所属は東南アジア諸国連合と思われます。現在当ビーチは艦砲射撃を受けています!国境沿いからは陸軍らしき集団が進撃中との事です!」
「何だと!被害報告はあるか!?」
東城がその職員に詰め寄る。それと同時に黒井の無線に着信が入る。
「それが…」
「被害はこちら側にはなく、進撃してきた戦車集団と歩兵がことごとく撃破されているとだけ」
『団長~なんか見覚えない戦車師団が自警団の訓練中に攻撃してきたからさー。吹き飛ばしたけど、大丈夫?訓練にちょうどよかったから使わしてもらったけど…実弾でやったから合同演習とかだったらまずいなって』
次回!吹き飛ぶ戦車、沈む艦船、恐れおののく兵士。黒井司令長官の頭は今日も痛い。