白薔薇の旗印 2章
過去編というかリズ視点での話です。今作のイギリスは、アイク襲来のどさくさにてしばらくの間、議会が機能してないため、生き残った現王が実権を握ってやりたい放題しています。アメリカとロシアがかなりの被害でほぼなくなってヨーロッパ連合に併合されている上にフランスやドイツも攻勢に出る海軍力がないのでイギリスがかなりヨーロッパ連合の実権を握っています。日本はそこらへんとは関わらず自給自足して経済的に独立した国といった考えで良いです。
ちょうど一年前のこと。私、エリザベスはウィンザー家の館にいる箱入り娘だった。毎日習い事とお勉強を行う毎日を過ごしていて、その度に教師からは渋い顔をされていた。理由はきっと正妻の子で第一王子のオリバーお兄様よりも物覚えが良かったからだろう。そして側室の子である私と第二王子のカーターお兄様よりも、お父様はオリバーお兄様を溺愛していた。そのせいか、オリバーお兄様はかなり好戦的な性格になってしまっている。しかし…私たちが幼い頃のオリバーお兄様は優しかった。はずなのに…。
「おいリズ!お前も王位を狙っているのだろう!」
「何を言ってるのですお兄様!私はそのようなものには「うるさい!クソ…皆揃って馬鹿にしやがる!どいつもこいつも…クソ!」
今日もお兄様は荒れていた。きっと何かささやかれたのだろう。その度にお兄様は私達や給仕に当たる。しかし…何故お父様は早くオリバーお兄様に王位の確約をしないのだろう?そんなことを考えながら、その日も私は部屋に戻って日課の小鳥へのエサやりをする。
「全く…ああなる前のオリバーお兄様が懐かしいですわ…」
いけない!口に出てる!なんて考えてはっとした時、不意に庭のリンゴの木の上に少女を発見した。王国民らしからぬ身なりの整った少女は上に実っていたリンゴをむしゃむしゃ食べながら寝ころび、芯を下へ投げようとした際に私と目が合ったようだった。しかし…この館にどうやって入り込んだのやら…などと考えていると彼女は木から降りてこちらに来た。ここ三階なのだけども…。
『こんにちは!お姉さん!こっちを見てたけど何の用?』
彼女はあたかも普通の事の様に話しかけてくる。これはジャパニーズかしら?多少は分かるけど…。リズは困ったように軽く眉間にしわを寄せると、彼女はしまったと言うように小型のヘットセットを付けた。
「お姉さん?これで通じる?」
そこからは機械音声の英語が聞こえた。どうやら彼女の取り出したのは通訳機らしい。
「えぇ…わかるわ。でもどうやってこの屋敷に入ってきたのかしら?」
「うぇ?ここは何処?言葉は通じないし、浮遊の試運転で飛んでたはずなんだけど」
彼女は慌てたようにキョロキョロした後、小声で言う。そして笑顔になり話し始める。
「私は妖精だよー!リンゴによって来たんだー!お陰で力がたまったよ」
「あら?妖精さんにしては大きいですわね?お嬢さん」
彼女はギクッとした後、あきらめたように告げた。
「ごめんなさいリンゴに誘われて…すごいお腹がペコペコだったから…」
「いや、リンゴはいいのです。何故貴女はウィンザー家の屋敷にいるのか教えてもらいたいのですが…」
リンゴについてはいいのですが…。何故警備のものに見つからなかったのか知りたいのだけれども…。
「飛んで」
「なるほど…飛んでですか…。噓おっしゃい!警備の者はどうしたのです!?」
この子は何かしらの手段で見つからなかったらしい。しかし…どこの子なのかしら?英語が通じないなんて。
「知らないよぅ!ここは何処なの!日本語が恋しいよ!」
初めてリンゴを持ちながら踊る子を見ましたわ…。まぁ…その話はいいでしょう。
「ここはイングランド王国のウィンザー家の館ですわ。貴女は何家の子で?」
「う~ん一応、家名はサツキ家だよ…」
サツキ家ですって?どこの家なのでしょう…多分ジャパンかしら?
「取りあえず見逃してあげるから帰りなさい。見つからないうちに」
「お腹が空いて飛ぶ気力がないよ~!何か食べ物!ご飯!お姉さ~ん!」
あんなにリンゴを平らげておいて…!?取りあえず部屋に置かれていたお菓子類を急いで与えると目を輝かせてむしゃむしゃと口にするとものの数分で平らげた。一体その体積の食べ物はどこに入るのかしら?
「お姉さんありがとう!そうだお名前聞いていい?」
「エリザベスよ。サツキ家のご令嬢」
「私はヒナタだよ!またお話ししようね!バイバイ!」
そう言うとコンパスを取り出して方位を確認して文字通りに飛んで行ってしまった。
「…あり得ないわ」
どうやら妖精だったようねとその時は感じた。お菓子恵んでよかったとも。
「私は幻でも見てるのかしら?また妖精が見えるわ」
次の日、いつもの日課を終わらせて部屋に戻ると、窓にいたのは小鳥ではなく件の妖精だった。
「お姉さん!また来ちゃった♪」
「貴女どうやって入ってきたのよ…。これでも警備は厳重なのだけど」
彼女は首を傾げていて、理解していないようだった。
「ヒナタ…だったかしら?貴女見つかったら死罪案件よ?何でまた来たのよ…」
「お姉さんと話すため!」
ヒナタは屈託のない笑みで言った。この子は…。
「あのねぇ!私これでも王女なのよ!偉いの!だから貴女は不審者扱いなのよ!」
ヒナタはその言葉にふ~んと反応すると
「だからどうしたの?」そう一言で返してきた。
「もういいわ…。入りなさい。世間話くらい聞くわよ」
「それでね!私は今研究所のドクターハツキの世話になってるの!」
彼女は私に身の上話をして来た。どうやら彼女は能力と呼ばれるものを持っていて、それを解析するため研究所にいるらしい。しかし…あまりにもつまらないからここまで遊びに来たらしい。
「貴女がここまで来た理由は理解したわ。でも!どうやってオアフ島からハワイ島まで来るのかしら?」
「だーかーらー飛んでだよ!」
彼女が言うのは能力の応用で飛んでいるらしい。…気になるわよ!どういうことなのかしら!
「お姉さん声出てるよ~」
ヒナタはのんびりと紅茶を飲みながらカップケーキをひょいぱくと食べている。
「コホン…どうやって飛んでいるのかしら?」
「お姉さんは超伝導体って分かる人?」
「えぇ、電気抵抗が完全になくなる超伝導を起こす物体でしょう?詳しいわね」
理科の授業で言ってたことよね…それが何なのかしら。
「あれにはマイスナー効果…えぇっと…外部磁場の影響を受けて誘導電流を引き起こして外部磁場を誘導電流の磁場が打ち消す現象があって、それを応用して地球を一つの磁石と考えて地軸の磁場と反発する力を作り出して重力その他もろもろを加味して飛んでるよ!」
訳が分からないわ…。
「あちゃ~…。私は電気…いや電子の流れを操作できるんだよね~。だから雷もそこの給湯器も動かせるよ!」
「取りあえず人間業じゃない事は分かったわ…。で、そんな方が何の用なのかしら?」
「今日は遊びに来たよ!」
頭が痛いわ…。
それからしばらくしていつも決まって5時過ぎに彼女は来る。それも私と世間話をするだけで何かすると言ったことはないが、彼女と話していくうちに私は悩みを打ち明けるようになった。
「やあ!リズ。今日は一段と暗いね。どうしたの?」
この頃になると彼女はリズと私を呼ぶようになった。そして彼女が流暢な英語を使って話しかけてくるようになった。たくさん勉強してここで使っているらしい。
「またオリバーお兄様が当たってきたし、勉強したくないし習い事なんて知らないわよ!」
「大変そうだねぇ…」
「聞いてよ!お父様がオリバーお兄様を早く王太子にしないの!全く…いつになったら決めるのかしら」
するとドアからノックの音がした。どうせエドワードでしょう。彼にはもうばれてて、ヒナタと私で説得してから見逃してくれるようになったし…そ。う思い入室を促すと、入ってきたのはなんとカーターお兄様だった。お兄様はびっくりしたのか固まっていて、二人であわてて扉を閉めて椅子に座らせた。
「お兄様!どうしてここにいるのですか!」
「はっ!そ、そこの令嬢はどこの方だい?」
ヒナタの方を向くとビリビリと放電していた。
「この人は優しい方のカーターお兄様よ!ほら!抑えて」
ヒナタは放電をやめるとニコニコと微笑んだ。
「ごめんなさい!オリバーお兄様と言う人かと思って!」
「カーターお兄様、彼女は私の友人ですわ。少し変わってますけど」
「なるほど…私の妹が世話になっている。私は第二王子のカーターだ。貴女は?」
「サツキ・ヒナタ…いや、ヒナタ・サツキだよ!よろしくね!」
お兄様が自己紹介をするのに合わせてヒナタも行う。お兄様は瞬時に気づいたようで話し始めた。
「黒みがかった茶髪…そして黒目…日本の方ですか?」
「そうだねぇ…。お兄さんはレイシスト?」
「いや、兄上のようなレイシストではありませんよ。肌の色位気にしません」
ヒナタはふ~んとつぶやくと「それじゃ今日は帰ります!そうだ!多分明日にはまた会えるよ!じゃあね!」と言い残し飛んで帰っていった。
次の日、お父様に私とお兄様達が呼ばれたのはある企業との会議を行う玉座の間だった。それはシチリアインダストリアルという資源やそれを用いた工業製品を売り出している会社グループで、めきめきと今力を伸ばしてる。資金源は主に日本との取引で、お父様も同じように取引するらしいが。お父様は日本との取引をやめさせて王家に下らせると仰っていた。
「どうだね。今からでもわが王国の一員にならないかね?」
交渉している綺麗な女性はにこやかに口を開く。
「お断りします」
その口調は斬り捨てるようであり、全くそんなことは考えていないようだった。
「何じゃと!!わしに逆らうか!!」
「ボスから、国王からそのようなことが言われるだろうから一言くそくらえと伝えてこいと言われてましてね」
お父様プルプル震えて怒りをあらわにして、大声で張り上げた。
「近衛!この者をとらえよ!殺しても構わん!」
近衛兵たちが剣を持って彼女に突きつけると彼女は一言日本語で、
『だそうですよドンソーレ』
そう言うと剣を突き付けていた近衛兵が一斉に倒れて煙をあげていた。
「だよね~。ここの王がクズなのは知ってるからねぇ~。第一王子も」
不意に聞こえたのは少女の高い声と聴きなれた英語。つかつかとお父様に近づくのはあのヒナタだった。
「何者だ!誰がここにこのおなごを連れ込んだ!」
「これはこれは!失礼いたしました。私はシチリアインダストリアルの元締めの五月日向でございます。今日はお日柄も良く、このような日には汚らしい蛆虫2匹の顔よりエリザベス王女殿下のご尊顔やカーター第二王子の凛々しい顔でも眺めたい気分です。しかし…そうですか…」
「何を言い出すかと思えば!!おままごとはたいが「おっと!手が!」
その手には拳銃が握られていて、その銃弾はお父様の膝に当たっていた。
「あぁっ!!クソ!何の真似だ!」
ヒナタは役者の様に高らかに語る。
「この国は貴方そっくりです。面構えは綺麗でも中身は汚いドブのようです。この国はメスを入れて膿を出す必要がありそうですね。全く…残念で仕方ありません」
「父上に何という狼藉を!」
オリバーお兄様が剣を抜いたがその剣はどこかからの狙撃で吹き飛ばされた。
「ヒュー!ナイスだねぇ…」
そう言うとヒナタはお父様とオリバーお兄様に電撃を加えた。
「そうだ!命が助かって良かったですねぇ。本来であればこうしたのですが…」
そう言うと後ろで忍び寄っていた近衛兵が文字通り消し炭になった。
「麗しい第二王子殿下と王女殿下の顔に免じて許しましょう。ではまた。今度会うときは心を入れ替えていることを願います」
そう言ってヒナタとその部下は館を後にした。お父様とオリバーお兄様は動けない体に悔しそうにうめいていた。
「なんてこともありましたわね」
「?何の事」
「何でもありませんわ。何の話だったかしら?」
「本題はねぇ、あの二人はかなりの好戦派だから多分王国民がいくら死のうと徴兵するよ?」
ヒナタは呆れたように言う。そして
「クーデター起こしません?今ならレジスタンス最強の部隊も動員出来るよ!」
正にその姿は天使の皮を被った悪魔の様だった。
長々と書きたいです。