白薔薇の旗印 序章
暗い、重い、人が死ぬの回ですよ。多分この視察が終わればここまでの過去編を書きます
「ふぅ…これでよし!かなぁ?」
日向は何かやばそうな予感からラボを出ていた。先ほどまでは早川がついてはいたが、今は仮設トイレ内でお休みしているだろう。中々骨が折れたなぁ…と考えていたが、この後に訪れる楽しみに比べたらそうでもないかもしれない。
「早く来すぎちゃったかなぁ?まぁ…早いに越したことはないかな?早く来ないかなぁ~」
日向はある人を待っていた。かれこれ一年前からの友人であり、かなり大暴れしていたころを知る数少ない人。活発で好奇心旺盛、でもおしとやかさがある小さなレディー。そんなレディーが今日遊びに来るらしい。その為の準備はしっかりしておいた。パパごめんね♪そう心で呟いて日向は空をきょろきょろ見回す。レーダーでは確認したしそろそろ…。
以下会話文はめんどくさいので日本語表記になっております。
「ヘイ!日向!会いたかったわ!さみしかったのよ?」
無線機からの流暢な英語に日向の顔がぱぁっと明るくなる。彼女は相変わらずのようだった。
「リズ!最近行けなくてごめんね!お仕事してたからさ~。で、今どこ?」
「貴女の真上よ!風が気持ちいいわ!」
確かに真上にはタンデムでスカイダイビングしながら降りてくる少女と若者の姿があった。
「いつも大変だね~エドワード」
「お嬢さまの護衛の為でございます。しかし…」
元特殊部隊所属の執事兼護衛のエドワードが一言で返す。この人勘と動体視力はお姉ちゃん並だから気が付いているかな?
「あの塔の上は私の知り合いが抑えてあるから大丈夫!まぁ…邪魔が入っても『タンゴダウン』対応できる」
「ほう…。腕の良い方のようだ。安心ですね」
「ちょっと!!エドワード!私の友人よ!取らないで頂戴」
ブロンドの少女はプリプリと怒ったような顔で日向に抱きつく。
「お嬢さま…。誰も取りはしませんよ」
エドワードはあやすように答える。彼女は満足したのかニコニコと笑みを浮かべる。
「リズ~苦しいよ」
抱き着いている彼女はリズことレディー・エリザベス・ウィンザーことイギリス王国、ウィンザー家の3兄妹の末っ子で長女エリザベス王女殿下…のはずなのだが王族教育のストレスからか時折事件を起こす。今回も許可は事後承認なのだろう。
「あら?ごめんなさい。でもあの後、館に押し込められてお稽古事の連続でしたもの。私さみしかったわ」
リズが少しうつむく。最近行けてなかった私にも非があるだろう。思う存分発散してあげよう。そう考え、日向は抱き着き返す。
「うにゃ~。ごめんね。一応は私含めシチリア重工のみんな含む日本首脳陣との橋渡し役だっけ?本国もひどいねぇ…。何かあったら言ってね!対応するから」
「貴女に頼むと相手が行方不明になるのでしょう?シークレットサービスもびっくりね」
「リズの為ならお安いことさ~」
日向は少しおどけて言う。彼女には敵が多い。敵対している貴族や文官、更にはロイヤルスミス工業組合等々これでも減ったほうなのになぁ~。など考えているとリズは不機嫌そうな顔を見せた。
「貴女の手を汚してまで私の事などいいのよ…?貴女がつらいだけじゃない…」
どうやら彼女は罪悪感を覚えているらしい。優しい子だからこそ私はこの子に惹かれたのかもしれない。優しく子供らしい感性を持った危なっかしい清廉潔白なプリンセス。日向は彼女に興味を持った。まるで自分が反転したもののようだと。
「この手ならもう血に染まって薔薇のような赤色だよ。でもリズは知っててはいけないよ。貴方は白薔薇に穢れないでいて」
血なら浴びてきた。守りたいものの為、自分が求める平和の為。耳は断末魔で汚れ、口は噓と虚勢で染まった。目は汚らしい物を見て穢れた。よく考えたら全ては私のエゴの為だなぁ…なんて日向は自嘲しては、結局はあいつらみたいなクズと変わらないのかと皮肉を感じる。
「貴女は私の太陽よ。いつも私を明るくして、時には暖かく包んでくれるわ。そして自分に付く病原菌は消毒してくれる。そんなことよりここを案内してくれるかしら?ナイトさん?」
「リズお嬢さまにはかなわないね…。さて、エスコートいたしますよ」
リズは優しい子だ。だからこそ守りたくなる。誰を敵に回そうと。
「日本人居住区は綺麗ね!ニューロンドンなんて住める最低限度の住宅よ。鋼材や木材、プラスチックが不足しているのよ。でも日本の管轄には油田や鉱山なんかはなかったわよね?シチリア重工ではプラスチックが多用されているけど」
「リズ。これは本国には秘密だよ?」
そう言って日向はエドワードやリズの服に着いたものを破壊した。
「これは…盗聴器ですか…」
エドワードは心底不機嫌そうに言う。彼は数少ないリズの支援者であり、この様な事には不快感を示していた。他にも第二皇子と少数の貴族が支援者についている為、対立を正統派VS革新派と呼ぶ人もいる。
「大体犯人の予想は出来るけどね。あのクソ公爵の入れ知恵で第一王子が指示したんでしょ。もうつながりから企みまで調べ上げてるしいつでもいいんだよ?」
それでもリズは首を横に振る。
「あれでも昔はよいお兄様だったのです。きっと戻りますから。きっと」
「駄目な時は気兼ねなく言っていいよ。いなかったことにするから。まぁいいや。とりあえずこの素材はアイク由来の代用品だよ。金属の様にもできる物やプラスチック代わりもある。欠点は倒してすぐ回収してこないといけないところだけど長所は多いから使われるよ。まぁ…ほとんどお姉ちゃん達が回収して来てるけれども」
「姉?まさか貴女の姉は戦闘員なの?まだお兄様くらいでしょう?」
「私を見たら分かるようにみんな能力持ちなのさ。正式には司令部麾下多目的対応部隊44分隊だけど生物兵器班なんて言う人もいるね」
「最近日本軍が日本列島に上陸したのって…」
少しひきつったような顔でリズが呟く。
「日本軍じゃなくてレジスタンスと呼ぶのが正しいね。今そこのところでごたごたしてるんだ。だからそっちに行ってなかったの」
日向はここまでやってきた仕事の数々を思い出し、軽くため息をついた。
「しかし…何故我が国では出来ていないのでしょうか?討伐の成績は上がっているはずですのに」
エドワードの疑問。そこにはイギリスと日本の違いがある。日向は知りえる限りを言った。
「まず討伐数の違いかなぁ?こっちでは一日百数匹分持ち込まれるから。お姉ちゃん達は数千とかだけど…。あとは加工技術が無いからじゃない?日本としてもウチの会社グループで独占してるし」
「百匹!!うちでは一日数十倒せればいい方よ!」
「そっちはオセアニア州の小さい島を抑えてるようだからねぇ。オーストラリア大陸に上陸したらどうなるんだろう?」
日向は少し疑問を持った。何故彼らはオーストラリア大陸に上陸しないのか。あの大陸はヨーロッパの国々が東南アジア諸国連合から攻略を引き換えに支配権を貰い、分割統治となるはずだった。まるでかつてのアフリカみたいに。
「我が国を主力とした連合軍がオーストラリア大陸に上陸したのだけどね…」
「へ~すごいね!どのくらいの被害で?」
「たったの一割でございます」
エドワードが呟く。一割…。死傷者が少ないなぁ…確か第一次房総半島上陸作戦の損耗率は4割だっけ?オーストラリアはアイクが少ないのかな?それにしては
「生存率一割未満で、指揮系統は壊滅。兵器類も多数喪失してしまったわ…。私達、王室の命令のせいで…!」
リズは悔しそうに泣いていた。この子の性格上、悔しく感じているのはその結果ではなく、それによって亡くなった国民を守れなかったことだろう。優しい彼女ならきっとこう言う。
「「何故私にはみんなを守る力がないの!?」かな?」
「仕方ないさ。リズは人間で神なんかではないから。それとも神の御業の一つでも見せる?」
日向はあっけらかんとした態度で言う。それに対してリズは不満げに呟く。
「でも、あそこで私が止める力があれば…」 「どうなったっていうの?死人が出なかったって?ジョークはよしてよ。どうせリズが言った所でエレメンタリースクールに通うような子供の話なんて聞かないよ」
「でも!」
リズは悔しそうに日向の発言にかみつく。
「貴女みたいな強ささえあればお父様を止められるかも「無理だろうね」えっ…」
「リズお嬢さまはあの王と王子が国民の事を考えて戦争するとでもお考えで?私はそうは思わないね。彼等の考えはただ一つ」
「栄光なる日の沈まないイギリスの再興だよ。その為なら何人死んでも構わない」