楽しい交流
台風続きで気が滅入っております。
ヒッカム航空基地 屋内運動場
「あ~…聞いてもいいか?」
「何でしょうか?」
屋内運動場には、東城秀夫副司令官とその娘の花が隊員と一緒に格闘術訓練の予定だったが、今は六花がしれっと参加している。秀夫としては嫌な予感がしているのだが、一縷の望みをかけ、話しを続けた。
「何故参加しているんだ?ウチの教育大隊の所属じゃないだろ?」
「そうですが?別に参加するなとは言われてないですし」
「何するつもりだ?」
「東城さんとお手合わせ願おうと」
東城はプルプル震えていた。六花は武者震いだと考えて準備体操を始めた。
「お前らは逃げろ!死ぬぞ!」
「駄目です教官!足が動きません!」
東城と古株の隊員は逃げるための準備をして、新人達はワクワクとしていた。
「ひどいですよ。たまにはいいじゃないですか~」
「そうですよ教官!やってみたいです!」
六花は東城の肩をつかんで引き留め、新人達はワクワクしながら参加を促していた。
「仕方がない…。かかってこいや!」
「ありがとうございます!」
それから10秒せずに、新人達は先ほどの発言をした隊員を恨んだ。何故ならば、東城が地面に転がり気を失っており、それを真ん中まで引きずり頬を叩いて起こしていたからだ。
「おーい、起きてください」
「はっ!同期が川の向こうで呼んでいた!」
「じゃあ、もう一回」
「待て!今どういう攻撃をした!」
「ただ右掌底を防がれたので素早く蹴りを加えただけですよ。骨は折れてないはずですよ」
六花は東城と同じレジスタンス式徒手格闘の攻撃をしただけである。ただ速さが違うが。
「パパ…私は隊員さんとやってるね」
花は六花が気が済むまで父親に押し付けておくことにした。多分大丈夫だろうという思いといつも大人げなく技をかけてくる父への仕返しを兼ねて。隊員達は憐れみを込めた目で東城を見て離れていった。
「待て!花!こいつを説得してグハァ!」
「よそ見厳禁です」
運動場が少し静かになると六花は東城を引きずりながら隊員達に話しかけた。
「僕も体があったまったし僕と皆さんで組み手しませんか?」
隊員達は思った。「あの鬼東城がボロ雑巾にされる奴とやってられるか!」と。そんなところに花が手を挙げて答えた。
「私…技教えてもらいたいです!そうすればパパをボコ…強くなりたいんです!」
「よーしやっていこっか
「先ずは僕に打ち込んできて」
「はい!えい!とお!」
花の攻撃は一般隊員レベルではかなり良い方だった。しかし前にいるのはアイクとインファイトする猛者。これでは満足しなかった。
「もっと踏み込むときに勢いを付けて。もっと早く」
「はい!」
先ほど隊員達は花に勝つことはできなかった。その理由は攻撃してからわかる。
「いい感じだよ!じゃあ僕も攻撃を挟むから対応してね」
「はいっ!」
「いくよ!」
六花が攻撃を加えると打撃は受け流されてその勢いを脇腹に受けることとなった。蹴りは避けられた後、懐に入られカウンターを食らう羽目になった。それに六花は驚き一旦攻撃を中止した。
「何そのカウンター技…?そんな技あったっけ?」
「師匠に教わったんです!」
「師匠?誰だろう」
すると外から日向と椿が話している声が聞こえた。そして椿は屋内運動場の扉を開けて入ってきた。
「花はいるかのぉ…?なぜここに六花がいるのじゃ?」
「師匠!」
「椿?何でいるの?」
「私は最近、花に五月流の武術を教えておっての。…そうじゃ!六花もやるといいのじゃ!」
「へ~!やってみたい!」
「これの基本は相手の力を使うことにあるのじゃ。そして攻撃は急所に当てることで隙を作り、そこに打撃を加えるのじゃ。本当は小刀で刺すのじゃが…」
「なるほど…古武術か…。道理で軽い一撃でダメージが来たのか…。あれ?何で五月流なのにメイちゃんは習ってないの?」
「これはお主の3代前の当主以来途絶えてしまってのう…。元は効率良く殺すための武術じゃからあまりよく思われなかったのじゃろう。まぁ…今は継承者がいるから忘れられることはない。それよりも身体で覚えてもらうぞい」
「はい!」
「了解!」
数時間後…。東城が屋内運動場に戻ると花が近寄ってきた。
「パパ!私もパパと戦ってみたい!」
「おーし!いつでもいいぞ!」
「じゃあパパから攻撃して来て!」
その言葉にどれどれと打撃を加えようとすると、その打撃は受け流されてしまい、お返しとばかりに腹部に当たった掌底から内臓を揺らすような衝撃が来た。
「うっ!」
続けてみぞおちや脇腹に子供とは思えない鋭い打撃や蹴りが飛び、東城は目を見開くこととなる。
「パパ!どう?強くなったでしょ?」
「あぁ…これなら本気で言ってもよさそうだ」
東城は手加減せずに花の顔に向かって掌底を加えようとしたが、次の瞬間、その勢いの数倍の打撃が顔に当たった。それをもろに受けて東城は地面に崩れ落ちることとなった。
「馬鹿な…。かなり早く打ち込んだはずだが…。花、どうして見切れた?」
「六花お姉ちゃんの攻撃の方が速いから、パパのなんて簡単だよ?」
「悔しいが…。よく頑張った。偉いぞ花。…所で隊員達はどうした?」
「パパみたいにそこに転がってるよ」
花が指さす方向には山のように重なる気を失った隊員達が転がっていた。
「…芽衣ちゃんを呼んでくれ」
「やっぱりそうなると思ったのです!」
後日、芽衣に叱られて身体を縮める3人の姿があった。
日向のその後の行動はペンキ缶を設置していました。