二階堂家アルバイト作戦 前編
お盆休みで旅行やゲームにいそしんでいたら投稿が…筆が進まんとです。
「申し訳ない…。あの人には俺もかなわないんだ」
司令室に集まった3人に謝る黒井司令。事の顛末はある司令の失言にあった。一昨日食糧生産プラントに視察した際、彼はプラント長から「ウチの店の店員がレジスタンス隊員になっていなくなってな。客引きできる存在がいないんだよ…。誰かいい見た目の子達を派遣してほしいくらいだ」という発言に「それならウチの娘達ですかねぇ?」と冗談で言ったのだが今彼が持っているのは正式な派遣嘆願書。それの中身は黒井家の娘3人の達の派遣である。これが一般の基地なら却下しただろう。しかしそこに書かれているのはどう見ても食糧生産プラント長兼航空母艦赤城主計長こと二階堂源一郎のサインと「断ったら分かってんな?」という一言だけの肉筆の文字。それを見せて話した後が冒頭の一行目である。
「二階堂家が僕達に依頼かぁ…。どうせ娘の事を聞きたいんだろうなぁ」
「依頼の中身は涼花ちゃん関係の事だと思うのです」
「だよねー…」
3人は涼花本人から「うちのお父さんが娘離れしない」と相談されていて大体は予想がついていた。どうやら今回の栗原の事も認めていないらしい。娘曰く「暑苦しくて筋肉だるまのゴリラ…かなぁ…?」らしく、多分ウチの父さんは立場と言うより純粋な力でかなわないのだろう。細いし。
「その件が絡んでいるのだろうが、答えてあげてくれ。そうしないと下手したら俺がなめろうかユッケになっちまう」
なめろうとはイワシやアジの身をミンチ状にしてみそなどと合わせた料理で、千葉県の郷土料理なのだが…つまりはミンチにされるのだろう。あっ…東城さんが震えている。そんなに強いのか…?東城さんは並の格闘家には負けないはずなんだけど…。
「涼花ちゃんのママは見たことあるけど小柄で可愛い人だよ!でもパパは見たことないや」
日向はあっけらかんと話し始めたが僕らはその後ろから感じる気配を感じて背筋が凍った。気配の主は僕らの前に来て、司令の執務机に腰かけて覗き込むようにこちらを見始めた。
「おう!お前の娘はこの子らか?中々いい面構えだ!これならウチの涼花とも釣り合うな!ガッハハハ!」
その姿は正に魔王…いや、ボディービルダーの体にヤクザっぽいこわもてを足してどすの効いた声とそれに似合わぬピンクのエプロンを付けていた。そして六花と芽衣を小脇に抱え、日向を肩に乗せて執務室から出ようとしていた。
「今日一日頑張ってもらうぜ!」
「よ、よろしくお願いいたします?」 「ひっ!りっちゃん…」 「高―い!わーい!」
初めて来たニカイ堂はきれいなカフェのような外観だった。レンガを模して描かれた壁に、小さな花壇、看板は猫のデザインの黒い看板。しかしそこのオーナーはこの筋肉だるまである。店前で下してもらえるのかと思えばまさかのそのまま入店だった。
「文香!新しいバイトだぞ!活きがいいだろ!」
キッチンに向かって源一郎が声を張り上げると、あらあらと文香と呼ばれた女性が入ってきた。そして肩の上の日向を源一郎から受け取り地面に降ろした。
「日向ちゃんひさしぶりねぇ~。元気そうで何よりよ~」
「文香ママ!お店はもう大丈夫?」
顔見知り2人は最近に話題で盛り上がっていた。そして一通り話すと本題に入っていた。
「栗原はどう?生きてる?」
「あの子はとんでもないわね…。あの人が無理言ってもそれをクリアしちゃうんだから」
やはりそこは栗原なので強すぎるメンタルと強靭すぎる肉体、鍛え抜いた情報処理の出来る頭脳と持ち前の行動力。そして何よりも涼花への愛で耐え抜いているらしい。あの人本当に万能型だなぁ…。戦闘以外。
「それでそこの2人がお姉ちゃんかしら?」
「六花お姉ちゃんと芽衣お姉ちゃんだよ!」
「よろしくお願いいたします」 「よっ、よろしくお願いします!」
「いつもうちの子がお世話になってるわ~。あの子はいつも一人の事が多くてね…訓練グループの子達は仲が良かったんだけど最近聞かなくなってねぇ。今ではあなたたちの事を嬉しそうに話してるわ」
ここに涼花がいたら「やめて…恥ずかしい…」などという可愛…困った顔をするのだろう。そしてさっきから芽衣がびくびくしているが、これが通常のいきなりこわもてのいかついマッチョに抱えられている少女の反応である。あっ…このクッキー美味しい!
「メーイちゃーん?どうしたの?」
「りっちゃんは落ち着き過ぎなのです!どうして抱えられながらテーブルの上にあるクッキーを食べてるのです!」
「ほらかっかせずにアーン♪」
「アーン♪…って、そんな場合じゃないのです!」
そう言いながらクッキーをもしゃもしゃ食べている芽衣を見て安心した六花だったが、流石に降ろしてもらうため源一郎に頼み込むと普通に降ろしてくれた。
「やっと足に重力を感じるのです…」
「ほら、口にクッキーのかすが付いてるよ」
六花はハンカチを取り出すと芽衣の口を拭き、店内を見まわした。そして今回の仕事内容を聞くことにした。
「今回は何をすれば?」
「今回は料理の提供とテーブルセットと清掃をしてくれればいい。しかし涼花は何処にいるんだ?」
現在彼女は三宅島に地熱利用施設の建設のための調査に行っていて、今日帰って来るらしい。きっとお土産はくさやか何かだろう。あの子のセンス的に。すると文香は青と黄色と緑の大きさの異なるエプロンを六花達に渡してきた。どうやら制服替わりらしくて日向は緑色のエプロンを着ていた。
「僕は青ですか…」
エプロンは青のシンプルなデザインで少しいいと思ったが、今軍服であるため中々なコレジャナイ感である。それを見たからか文香さんは二階のリビングに着替えがあるから着替えるように言った。
「うん!思った通りね!可愛いわ!」
「あの…これはメイド服とかいうものだと思うのです…」
用意されていたのは兵学校の制服としっかりとメイドの為に作られた実用的なメイド服だった。兵学校など行っていない六花にとっては初めて見るものであった。因みに六花は自警団時代に週2回教育訓練として中学校レベルは受けてはいるのである程度はできている。芽衣は周囲の医師などから多くの専門教育やその基礎を学んでいるのでこのような事態でなければ軍医学校進学もできているだろう。
「軍学校の制服もおしゃれですね。初めて見ました」
「あら?その年だと通っていてもおかしくないんじゃないかしら?」
涼花や黒井家姉妹は本当ならば徴兵後訓練師団に入るとそのまま兵学校に入学することになるのだが、現在彼女らは書類上繰り上げ卒業となっている。しかし少し前までは涼花は学生だった。その制服がこれなのだろう。そして2人は思った。
「「胸元が緩い」のです…」
「えっ?何かあった?」
「「何でもないです!」」
「それで初めて見たって…制服は変わっていないはずよ?」
着替えて店に戻って開店準備をしていると文香さんが僕たちに話しかけてきた。どうやら僕の初めて見たというのが気になったようだった。
「僕は旧日本軍の自警団に所属していてそこから今の部隊なので今の兵学校は通ってないんです」
「私は中央病院の皆さんから教わってきましたから兵学校の授業内容は全て終わっているのです」
「若いのに大変ね…。でもウチの涼花は自警団に入らなかったわよ?」
文香さんは怪訝な顔をして僕に問いかけてきた。まぁ僕の能力を考慮してあの年齢で入ったのだろう。他の二人は18才だったし。
「日向~?能力は見せたことある?」
「ううん?あの時は文香ママは買い物に行ってたから見てないかな?」
すると日向はおもむろに両手を拝むように合わせた。そして開くと手の中で放電現象が発生していた。
「これが私達が前線に行く理由だよ!私はまだいけないけど…」
「仕方ないのです…文香さん手をつないで欲しいのです」
芽衣が手をつなぐと文香さんが驚き始めた。
「肩も腰も痛くないわ!心なしか疲れも取れているし」
「これが私の力なのです!」
「僕のは分かりづらいので…僕は自分自身を強化します。ですので重い物も運べますし速く走ることもできますね」
「でも…怖い…ですよね…。分かってるのです。これは異常なものなのです…。だから大丈夫なのです。もし嫌ならもうこないのです…」
文香さんは驚いて固まっていた。しかしその後微笑んで3人の頭を優しくなでた。
「そう…だからあの子は貴方達が目標と言ったのね…。これからも涼花をよろしくね」
「「「ハイ!」」」 「でも!」
「無理は駄目よ。若いんだからたまには無理しちゃうかもだけどそんな時は一度落ち着くのよ。約束して?そしてもう一つ。もし…もしいいならまた遊びに来てくれないかしら?うちの子は家で一人が多くてさみしそうだから…私もいい友達が来てくれればうれしいのよ」
文香さんは優しく僕らを撫でながら諭すように語り掛けた。その手は少し懐かしい気がした。
「フフッ♪大丈夫よ…。だってそこにはすべてを筋肉で解決する人がいるもの。能力者の話は聞いているしそんなことなんて怖くないわ!むしろいきなり筋トレを始める源一郎さんの方が怖いわ。さて!開店よ。準備はいい?」
開店から2時間程して席が埋まってきた。初めは常連さんが入ってきたのだがそこから今になってどっと客が増えた。多分メイちゃんの力だろうな…。客層もよく見たら隊員中心だし。
するとお客さんの「スミマセン」と言う声が聞こえた。すごく聞き覚えのあるカタコトの日本語だなぁ…。テーブルに行くとやはりカールであった。カールとは駆逐艦睦月の水雷長で、アメリカ海軍の生き残りである。カタコトの日本語と井原さんの制御が得意であり、日向の遊び相手でもある。
「お久しぶりですカールさん」
「オウ!リッカサンデスヨネ?ヒナタチャンノオネエサンダッタンデスネ!オヒサシブリデス!キョウハパートタイムジョブデスカ?」
「えぇそうですね。しかし覚えていてくれてありがとうございます」
カールはポカンとした顔をした後、不思議そうにこう答えた。
「リッカチャントイエバ、ワタシタチネイビーノイメージキャラクターデスヨ?ホラ」
おもむろに海軍部の加入ポスターを取り出したカールが僕にそれを渡すとそこにはいつぞやかのセーラー服姿の僕がいた。や~よ~い~さん!!そんなことを思っていると海軍部の制服を着た男性がこちらに来ていた。
「待たせたなカール。ここの店員が可愛いっていうから呼んだんだが井原さんに絡まれてな…」
そう言うと座って一息ついた後こちらを向いて固まっていた。それを知らずかカールは僕に話しかけてきた。
「ボクハコレヲキニイッテルンデスヨ。デモキョウノフクモカワイイデスヨ」
「あまりこういう格好しないので慣れてなくて…。そう言われると恥ずかしいですね」
「カール!!」
男性がカールの肩をつかんで揺らし始めていた。うへぇ目が回りそう。
「その辺で許してあげてくださいお兄さん。カールが目を回しているので」
「ひょえ!ボ、僕は海軍部の!睦月航海長の!シ、志村といいます!」
「司令部直属44分隊所属黒井六花です」
いつの間にか社交性も上がっているのね…。恐ろしや能力。
そう考えている時も握手をしているところにこれは社交性じゃなくて人心掌握術が上がっているのだが知らぬが仏である。
「…この手絶対洗わない」
「?」
「何でもないです!!」
それからしばらくして店の扉を慣れたように開ける人物がいた。彼女は店の盛況具合に驚いたが、多分パーティーの予約が入ったんだろうと考えていた。しかし目の前の店員を見て驚き固まっていた。
「涼花ちゃん!お帰り!三宅島はどうだった?」
「あぁ…うん。綺麗なところだったよ、六花ちゃん…。で、何で家で働いてるの?」
「これが一番断りにくい依頼だったから司令部から下されたんだよ…」
僕の言葉に納得したように頷いた涼花ちゃんは店の奥に行って赤いエプロンを着て帰ってきた。
「よく見たら芽衣ちゃんに日向ちゃんまで…。だから大人気なのかな…?」
そう言うと涼花は接客に向かっていった。その姿は慣れていてやはり僕等よりスムーズだった。
「流石は慣れてるね…。僕には難しいや」
「六花ちゃんはファンがすごいだけ…。普通に比べたら異次元級に速い…」
「あっ、写真撮るのです?はいチーズ♪」
「あれはアイドル性がある…。たまに来てほしい」
いつの間にかアイドル性を身に着けてるなぁ…。というか警戒心がないだけかな?
その後海軍部に招待されたり、芽衣ファンクラブが来店したり、尊さで数人浄化されかけたが、平和にその日の営業を終わらせた。
「今回の売り上げだけで数か月分よ…。貴女達何者よ…」
「さぁ?お姉ちゃん達は人気者だから」
「おーい!今日は家で食べていきな!リクエストは聞くぞ!」
「おじさーん!オムライス!」
「同じくなのです!」
「じゃあオムライスで」
「ただいまお父さん…」
「おう!お帰り!」
to be continued…///