三女と台所とプラント
椿サイドの話です。桁がおかしいことはありますが仕様です。
昨日の六花と芽衣の養子縁組の話の後に、芽衣が「台所が使いにくい」という私も考えてたことを言うと、どこからか大工が来て作り直していったが、あれは相当金子がかかるんじゃろうなぁ…。そう椿は使いやすい台所を見ながら考えていた。棚が壁に収納式になって、背が小さい芽衣含める3人が料理を作りやすくなった。まぁ…日向は気が向かないと作らないだろうが。その為、これからは基本的に椿が料理を主に行うこととなった。それまで4人の留守中は日向は基地内の隊員食堂に通っていたが、これからは椿と共同で毎日作ることとなった。本人は「これでめんどくさい移動をしなくていいね!」と乗り気だが、椿は洋食勉強中で日向はイタリア料理の一部しかできない。そう、毎日和食かスパゲッティとイタリア菓子祭りになるのだ。
「しかし私も洋食はさっぱりじゃからのう…。おーい!日向!今日は何が食べたい?」
そう呼びかけると、寝室からドタバタと動く音とドアを勢い良く開ける音がした。どうやらお腹が空いているらしく、台所に入るなり少しやかましい声量で質問してきた。
「夕ご飯作る?豚の生姜焼きがいい!え~と、冷蔵庫は…調味料しかない!購買部に行かなきゃ!それとも七面鳥狩ってくる?」
「購買部に行くかの。日向も行くじゃろ?」
日向のことなど手に取るように分かるからの!ここまで顔に出るとむしろ話さずともわかるわ。まぁ幼い頃から人の考えてることが分かったからのぉ…。日向は目を輝かせてこちらに目を合わせている。尻尾が見えてきそうな位に行きたいという思いが伝わってきた。そして冷蔵庫の中のものはお主のせいじゃろう?そう椿は思った。
「用意はできておるか?一応財布と背嚢はもっておるから後は小遣いを持っていけばよかろう」
椿は台所の引き出しにある買い物用のカバンを取り出して言った。財布とは勿論電子マネーが詰まったカードだが、姉たちによる講義の結果、財布のようなものという事になった。背嚢とは、ただの身体に合わせた(子供用の)サイズの大きめのリュックサックである。
「ついでだしお菓子の材料も買っておこっと!後は…リンゴジュースかな?全部芽衣お姉ちゃんが飲んじゃったし」
黒井三姉妹にはダイエットという概念はない。いくらカロリーを取ろうが、能力のエネルギーとして使ってしまうため、逆にどんどん痩せていく。芽衣でも隊員の2倍のカロリーを摂取してギリギリ体形を維持している。その為任務中の砂糖の塊みたいなクッキーもメープルプリントーストでも砂糖たっぷりミルクチョコレートなどを食べても任務に出ればげっそりして帰ってくる。ちなみに六花は更にとんでもないこととなっている。
房総半島
「へっしょん!!」
「大丈夫なのです?」
「誰かが噂してるのかな~。多分」
「相変わらず素材が取れた後のアイクは水無月君…いや、六花ちゃんのおやつなのね…」
「おいしいの~?」
「マグロの刺身みたいな味ですね」
ヒッカム航空基地
「さて、行くかの」
「今日は何作るの?」
「そうじゃな…どうせなら豚の生姜焼きにしようかの」
買うのは豚肉と生姜とサラダとやらの材料のレタスとトマトとキュウリじゃな。これくらいなら紙に書かんでもよかろう。傍から見ると2人は仲良く手をつないで歩いていた。実際はすぐに走り出してしまう日向を椿が抑えるという構図だが…。今回向かうのは食糧生産プラントのある北側区画。歩いて20分位の距離だが二人は子供なのでさらにかかる。
「しかし不思議じゃのう。地面の下で野菜や果物、家畜などを育てているとは」
「太陽と同じ光を出すものを付けているんだって!」
食糧生産プラントは地上ではなく地下深くに広大な農地を持っていて、作物や家畜に合わせて温度や湿度光量や酸素濃度を変えれるようになっている。地上には配送センターと購買部しかない。その為、地上での広さはそれほどでもない。しかしほとんどの食材は揃えられていて、これによって基地や居住区で食材に困ることはない。
「しかし遠いのう…」
「飛んでく?」
「あれは怖いから結構じゃ!」
椿が少し食い気味に拒絶すると、日向は不服そうに頬を膨らませた。飛ぶ飛ばない論争をしているとようやく購買部に着いた。購買部と言いつつ小さな商店街のような感じで、肉担当や野菜担当の販売員がそれぞれの区画で売っている。ただし魚の販売員は海軍部の担当になっている。
「まずは野菜からじゃの。生姜とレタスとトマトとキュウリかの」
「ほいさっさ~!」
入り口に近い方から野菜、魚、肉、乳製品、その他とブースが分かれている。野菜のブースに行くと今日はかなりの数の野菜があった。
「今日は大量じゃのう」
「あら!椿ちゃんじゃない!最近新しい品種を作ってね。お陰で収量が上がったのよ」
ここには遺伝子組み換え作物が良く並んでいる。勿論安全性が確保されているので、食べるのには問題ないが、やたらと大きかったりするのが難点でもある。
「とりあえず生姜1つとレタス1つとトマト3つとキュウリ3本はあるかのぉ?」
「新鮮なものがあるわよ!サラダでも作るの?」
「今日は豚の生姜焼きとサラダとわかめの味噌汁にするのじゃ」
「なるほどね!はい!5ドルね」
大体1ドル=100円位の値段であり、ここの食材は大量生産しているので高くはない。ただし時価での販売なので多少は差が出る。
「これはトマトなの?南瓜位の大きさだけど…」
「トマトよ?」
「キュウリは大根サイズじゃのう」
「生姜は普通だね」
「レタスはすごく重いのじゃが」
こんなことがあるため、力に自信のない人は真面目に交渉するのだがここにいるのは日向の為、力は気にしなくてもよい。いつもの荷物持ちを呼べばいいからである。それよりもこのでかい野菜をどうするかが悩みの種だった。
『あー。あー。東城のおじさん!購買部に来て!』
無線でのお願い(脅してパシリ)作戦である。
「だろうと思ってもうスタンバイ済みだぜ…」
「流石ぁ!優しいなぁ♪」
東城さんは買い物用と書いてあるリュックサックを見た隊員から連絡をもらって急いできたのだが、これには遅れると鬼ごっこの相手にリストアップされかねないからである。ついでに訓練よりも優先度が高い。
「いつもすまんのう…」
「鬼ごっこよりはましだよ…」
今度は肉ブースに行って豚肉を買うことにした。ここの店主にはかなりお世話になっていた。主に狩りに行くときの保護者として東城さんと一緒に来ているからだ。因みに元軍人の中年ナイスガイである。
「椿と日向じゃねぇか!東城と一緒ってことは買い物かい?ならうちの肉はどうだい?」
いつも成人男性でもビビりそうなどすの効いた声で売り込みをかけている為、奥様がたはひやひやしながら買い物をしているが、ここの2人は気にも留めずに品物を見ている。
「元々豚の生姜焼きの予定じゃから来たのじゃ」
「いいねぇ!ならロースでいいな?」
すると椿の無線機に「椿ちゃん?いきなりで悪いけど、あたしたち帰ってくるからご飯頼めるかしら?」という連絡が入った。椿は野菜の消費のメドが付いたのでほっとしていた。
「1ブロックで頼むのじゃ」
「毎度あり!10ドルでいいぞ!」
「ありがとうなのじゃ」
そして顔のひきつる東城さんにブロック肉を渡して、のんびり家まで戻ることとした。
「で?このやけに多いサラダは何かしら?」
「トマトがやけに大きいなぁ…」
「キュウリスライスが何か大きくない?どこの野菜?」
「こんなに豚の生姜焼きは食べれないのです~!」
「「「芽衣ちゃんは小食だなぁ」」」
「こんなの食べきれる方がおかしいのです!」
目の前にはトマトとキュウリが所狭しと敷き詰められた10kgはあるサラダと一人10枚ある豚の生姜焼きの山があった。結果的に芽衣ちゃんの食べ残しは仲良くみんなで完食した。
「日向よりも小食だったのです!」
燃費順は日向>六花>日穂>芽衣>小梅です。日向は常に使用しているので燃費がすごく悪いです。