とんでもカルテットの自警団任務 10
将官用住居の中でも特別大きな邸宅の居間にて、2人組が正座をしている前を小さな女の子が腰に手を置いて2人組を睨みつけていた。
「…まずはりっちゃんとヒナちゃん。私は花ちゃんと冬華ちゃんを平和に楽しく自警団体験をしてもらうと聞いたのです」
「メイちゃん、言い訳では無いのだけどさ…不可抗力で…」
「流石にあの場ではああするしかなかったんだよー」
芽衣の前で六花と日向は恐る恐るそう返すと、「じゃあなんで街中で銃撃戦に巻き込まれているの!」と2人を指さしつつ強い口調で言う。それを宥めようと間宮達が仲裁に入るも、
「お姉ちゃん2人も何をやっていたのです!これの大暴れを止めて欲しいと伝えていたでしょ!」
「うーん…それを言われるとねぇー」
「予想外なことがあったのよね…」
2人もここに正座!と言われ、こんこんと芽衣に怒られる年上3人プラスアルファ小学生を見ていた冬華は口の中にあるゼリーを飲み込むと、
「花ちゃんが悪い人たくさんボコボコにした…私、花ちゃんと絶対に喧嘩しない…決めた…」
「…詳しく教えてくれる?冬華ちゃん」
その言葉に冬華は反応してカバンからカメラを出す。そして、それをポチポチと操作してから芽衣に差し出す。映し出されるのは動画で、花が数人の大人を徒手格闘で打ちのめした後、その身体を表通りに投げている六花と何処かに連絡している日向だった。合間合間に冬華の気の抜ける一言が録音されていて、猿島の諦めたような笑みで締められている。
「今日は面白かった…六花ねぇねとヒナちゃんありがと…」
「これは私も予想外なのです…」
芽衣を見て、冬華はうんうんと悩みつつ、何とか組み立てた言葉を語る。
「花ちゃん、悪い人懲らしめるって張り切ってた…。そしたらかっこいいもの見て…うぉーってなったみたい…?」
自警団の人が犯人と撃ち合ってたり、小梅ねぇねがかっこよく倒したり…とか…?と言うと、芽衣はため息をついて、それなら仕方ないかもしれないのですと言うと、前の4人に頭を下げる。
「言いすぎたのです。ごめんなさい」
「止めれなかったこっちにも非はあるから気にしないで」
「いやー…花ちゃんが楽しそうだからって放っておいたのはダメだったかも」
姉妹は次からは気をつけると答え、年長2人は不思議そうに頭を傾げる。
「一体何処であんな徒手格闘術を習ったのかしら?小学生の腎力で大の大人…ましてや荒事に慣れている人物の気を失わせるか、抵抗出来ないくらいにダメージを与える方法が分からないのよ」
その間宮の発言に三姉妹揃って目を逸らす。間宮が訝しげに三姉妹を見つめていると、玄関が開く音と帰ったぞーという少女の声が聞こえてくる。
「誰もおらんのか…?って、六花に日向。どうじゃったか?花に仕込んだ組討術は」
「椿ちゃん?その組討術って何かしら?」
椿はえへんと胸をそらし、
「体格に恵まれぬ我が一族に伝わる熊のような武者であろうと討ち取る為の甲冑組討術なのじゃ!」
流石に殺めると問題であろうから、気を失わせる程度に済ませるがなと椿が言うと、間宮は本日の流れを椿に詳しく聞かせる。すると、椿は
「数多くの無法者を空手で打ちのめしたと!坂田金時もかくやな働き、これは褒めてやらねばならん!」
と言って、嬉しそうに台所に向かってしまった。そのまま嬉しそうに野菜を切り出した椿に間宮はダメだこりゃと肩を竦める。
「…流石は推定南北朝時代から安土桃山時代の人物、常識が違ったわね」
困った顔をして芽衣がため息をつくと、日向は慌てて玄関に走り出して戸を開く。そこには花が息を切らして立っており、その後ろから東城副司令が顔を腫らしてズタボロの状態で歩いてくる。
「芽衣お姉さん!今日はごめんなさい!六花お姉さんとヒナちゃんは悪くないんです!」
「すまないのだが…芽衣ちゃん。俺を治してくれないか…」
芽衣が東城に駆け寄ると、その腫れ上がった顔を戻しつつ問いかける。
「東城さんは何故花ちゃんと来たのです?」
「芽衣ちゃんに謝りに行くと娘が言ったから、何故だと聞いたらな…。有り体に言えば自分が暴れたことで六花達に迷惑をかけたと聞かされて、叱るためにげんこつを落としたわけなんだが…」
「…花ちゃんについうっかり叩き伏せられたのです?」
「…理解が速くて助かる…」
しっかり治し終えると、東城は「すまねぇな、うちの花がわがまま言って連れてってもらったていうのに迷惑かけたみたいで」と言うと、芽衣は首を横に振る。
「東城さん、私は花ちゃんが怪我しなくて良かったと思っているのです。元をいえばりっちゃんの責任ですし、何事もなく体験させるという約束を先に破ってしまったのは私達なのです」
「芽衣ちゃん…」
「それに、医官候補生用のモルモッ…大切な実習相手が増えたので有難かったのです!きちんと約束通り骨折とか脱臼はいなかったですし、今日の採血と注射の実習をする為に丁度良かったのです」
芽衣は最近何しても文句を言わないボランティアの人数が減っていたので助かったと花の手を握って言う。東城は度々日向や花によって気絶した教育隊員の搬送をしている、白衣の若者集団を思い出して顔を青くして身体を震わせる。花はキョトンとした顔で尊敬するお姉さんの言動に戸惑っていた。
「それに実習が終わった後に全員の対処に困っていたら、犯罪者が大量に捕まったと聞いた内藤中佐が全員引き取ってくれてたのです。その時、捕まえた人に渡してくれとお小遣い貰ったので花ちゃんにあげるのです」
芽衣が制服のポケットからポチ袋を出して花に渡している後ろでは、東城と間宮と南が頭を押さえていた。
「内藤中佐って…募兵局のか?」
「冥福をお祈りしておこ〜…」
「前線に懲罰部隊一丁上がりね…」
その内の数十人程度を生み出した2人は呑気に丸く収まった事に安心していた。偉い偉いと撫でられる事で芽衣を懐の大きい人物と思い、芽衣への尊敬ゲージが上がっている花に対して、この場の成人済み3人組は恐らくあらゆる所に注射針を刺された後に子供のお小遣い程度のお金で売り飛ばされた犯罪者達に祈りを捧げていた。
「でも、危ないからもうやらないで欲しいのです。やる時はそこにいる間宮お姉さんとりっちゃんの2人を連れていくこと!わかった?」
「え?あたし?」
「…悪ノリしたりっちゃんを止められる人物が必要だから」
ヒナちゃんはダメ、涼花ちゃん達は忙しい、小梅お姉ちゃんは面倒だからって放っておくので日穂お姉ちゃんしかいないのです。と芽衣が言うと、間宮は納得して了承する。それに対して、間宮と六花だけでなく憲兵科の精鋭連中じゃダメなのか?と東城が口を挟むと、芽衣は首を振る。
「その人達と花ちゃんを組手させたらわかると思うのです。というか、何人運び込まれたかわかってるのです?」
「いや…詳しくは知らないな」
「あたしが確認した限り…20は超えてると思うけど…」
「約100人なのです。りっちゃん達の仕業らしき電紋と意識がある小さな内出血がある人が60人、後は拘束されつつ痛みに呻いているか、頭部を強く打った事による軽い脳震盪と迷走神経反射での失神だったのです。つまり、40人は鈍器での打撃と絞め技で無力化されていたのです」
自警団の制式警棒であるスタンガン機能付きの警棒を用いたのかと花に聞く芽衣。すると、花から落ちてたものを使いなさいって椿師範が言ってたから落ちてるものを使ったと返答される。
「確か…鉄パイプと木の棒と悪い人が持ってた野球バットです!」
「…確実に一撃で気を失えなかったのは確実ね…」
「小学生女子の全力とはいえ立ち上がらなくなるまで殴られていますからね。勘弁してくれって言っていた人も『そう言って後ろから襲ってくる事がよくあるって椿師範が言ってました!』って追撃されてますし」
仲間を救おうにも飛びかかれば投げ飛ばされ、殴りかかれば吐き気を催す程の打撃を受ける。そんな中でひたすらに掌底や蹴り、そして首を絞められたり鈍器で殴り続けられている仲間の様子を見て数人は降伏を申し出たが、その無防備な側頭部にフルスイングを受ける結果に終わった。
「うちのがすまん…」
「いえ…椿ちゃんが教えた結果こうなってるのです…」
よく死人が出なかったもんだと呟く東城に、六花は簡単なことですよとその真相を言う。
「花ちゃんはずっと、倒れたまま動かなければ追撃しなかったんです。ですので、その条件を理解した人から気を失った振りをしていたんです。そんな人から可哀想なので拘束して病院に運んで貰ったって訳ですね」
まぁ、本当に気を失うまで殴られてしまった人も多いですけど…と言う六花に、東城はため息をついて頭を押さえる。
「もっと早く止められなかったのか?」
「一応向こうから襲いかかって来てましたし、それに頑張ってお仕事しているのを止めるのも悪いかと…」
芽衣と間宮はなんとも言えない表情で六花を見て、日向も無理に止めても次に突っ込んで行っちゃうし…と苦笑いを浮かべていた。