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とんでもカルテットの自警団任務 8

苦々しい顔でそそくさと立ち去ろうとする栗原さんとニカイ堂という場所の地図と割引券を手渡してくる涼花さん。見たところ涼花さんのご実家でやっている洋食店のものらしく、そこまで言われると行きたくなるのが人ってものだと思う。2人と別れてしばらく市街のメインストリートを進むと、道中にあるスーパーマーケットの前に人集りが出来ている。よく見ると自警団の治安維持クラスの子達3人ががガードレールや自動車の後ろに隠れていて、犯人と睨み合いを続けている。


「あっ!自警団の方!助けてあげてください!この先の銀行を襲って逃走途中だった2人組が中で銃を持って立てこもっているんです!」


その言葉に慌てて応援を呼ぼうとすると、4人と共通周波数に設定しているインカムからノイズがなる。そして織音ちゃんが頭上に掲げる様にピースサインをすると、目の前で柱の影から自動小銃を乱射していた犯人が崩れ落ち、その相方が慌てて近寄った瞬間に同じく倒れ込む。それを見て、不審そうに自警団員達が恐る恐る犯人2人組に近寄りつつ拳銃を向けて大人しくしろと叫んでいるが、犯人達は銃を取るどころか身動き1つできないと言うかのように床で呻いている。そんな最中に無線から声が聞こえてくる。


『目標沈黙、我慢出来て偉いわね』


「2人の護衛が仕事ですから」


『それじゃー、何かあったらよろしくねー』


不明な人物からの無線通信の声に驚いていると、日向ちゃんが不満そうにスパークを飛ばしながら頬を膨らませる。


『あらあら?可愛らしい電気フグちゃんがいるわね?』


『ごめんねぇー、緊急事態以外でヒナちゃんを暴れさせると芽衣ちゃんに怒られるからさー』


「あのー…あなた達は?」


そう相手に問いかけると、向こうの2人は困った様に何かを話し合ってから答えた。


『芽衣ちゃんと弥生さんに雇われた護衛スナイパーの黒猫さんでーす』


『はぁ…あたしは間宮よ。黒猫とか言ってるのは私のパートナーの南。基地内の建物から低致死弾で狙撃支援するからよろしくね』


基地内の建物からって言ってもここからはかなり距離があるし、普通は止まっている標的相手でも難しいと思うけど…。でも、縛られている間ずっと呻いていた犯人2人はお腹を押さえて担架に乗せられている。


『おー?その顔は信じてないねー?ほら、地面に転がっているオレンジジュースの缶を見ててよー』


周囲を見回して、少し錆びているオレンジ色の缶を見つける。それが誰も触っていないのに跳ね飛び、歩道の端に転がっていく。よく見ると大きな穴が空いていて、穴の周りが凹んでいる。


『どうよー?』


「すごい…」


正直どういう理屈かは分からないけど、少なくとも銃声の聞こえない距離から狙撃しているのは分かる。


『こちらから援護可能なら合図するわね。それ以外は六花、任せたわよ?』


「はい、何とかします。…日向冬華ペアの被害が出ないうちに」


その言葉に日向ちゃんが不満げに抗議をするが、それが正当なものなのかは周りの顔が物語っていた。



とりあえず、さっきの雷の件は置いておくとして、私は初めて人が浮かんで移動している様子を見た。というか、さっきからふよふよと浮かんでいる。


「ふぅー、楽ちん!」


「ヒナちゃんそれで移動できるんだね…」


花ちゃんが言及してくれているけど、違うそうじゃない。まず人は浮かばないし、身体にスパークを走らせない。…あのー、もしかしてSF出身の方々なの?いや…花ちゃんと織音ちゃんは純粋に戦闘技術だから違うだろうけど。


「猿島さん…あまり考えない方が気楽…」


「まぁ…世界は広いって事ですかね?」


冬華ちゃんを背負っている織音ちゃんは諦めたように苦笑している。確かに言われた通りに、あまり考えると頭が痛くなりそうな事象だと納得し、あまり考えないようにした。すると、誰かにちょんちょんと裾を引っ張られる。横を見ると、花ちゃんが前方を指さしつつ猿島さんと問いかけてくる。


「あれ、手を繋いでいるのかと思ったら、女の人が男の人に腕を掴まれてます。どうしましょうか?声掛けますか?」


「うーん…一緒に行こうか。一応ね?」


近寄ると、件の男性はこちらを見つけた瞬間に女性を引っ張る様に走り出す。まずいと思った時、花ちゃんが小学生1年生とは思えない位に素早く2人を追いかけ、女性を男性から引き剥がす。男性は花ちゃんに拳を振りかざし殴ろうとするが、花ちゃんがその拳を避けてから腕を掴んで背後に回りつつ何かをすると、男性は大人しく地面に倒れ込む。


「猿島さん!捕まえました!」


すごいと思いつつ駆け寄ると、男性は押さえつけられている訳でもないのに呻きながらモゾモゾと動くだけで、先程とは打って変わって大人しくしていた。


「すごいじゃない!どういう方法かは分からないけどすごい技術だね!」


私の後ろから近寄ってきた織音ちゃんは男性の脱力した腕を掴むと、苦笑しつつ呟く。


「花ちゃん…関節外しちゃった?」


「あー!どうしましょう!芽衣お姉さんに怒られちゃいます!」


慌てる花ちゃんに落ち着く様に言う織音ちゃんはその男性の腕を掴みつつ、花ちゃんを近くに呼ぶ。そして、こうすればいいと思うと言いつつその肩と腕を掴むと、勢いよく肩に腕をぶつけるように押し付ける。男性は喉が枯れんばかりに叫ぶと、何とか保っていたと思われる意識を失う。そのまま気を失っていれば良かったのだが、恐らくもう片方の腕も治す過程で発生した激痛でまた目覚めて…を繰り返すこと数回、彼は死んだ目で口の端から涎を垂らして時折痙攣するだけとなってしまった。


「…よし!」


「多分良くないと思うのですけど…」


結局、「こりゃダメっぽい」と日向ちゃんが手配した自警団員に担架で運ばれる男性。それを見送りつつ2人が話しているが、私は一応、彼の無事を祈ることとする。そして、2人して頭を抱える少女達に声をかけてパトロールを続ける。


「仕方ないよ…メイちゃんには上手くいっておくから」


「うぅ…芽衣お姉さんと約束したのに…」


しゅんとしている花ちゃんを織音ちゃんが慰めていると、突然閃いたように織音ちゃんが手を打って花ちゃんに耳打ちする。それに花ちゃんは何かを覚悟したように「それなら1人も2人も関係ないですもんね!」と元気を取り戻す。


「そうそう!やっちゃったものは仕方ないし、1人も2人も変わらないさ!」


「次は関節を外さずにやればいいんです!」


絶対まずいと思うのだけどなぁ…。初めて会った時から予想はついていたけど、花ちゃん結構純粋と言うか…常識が歪んでいるというか…。そんなフィジカルコンビは楽しそうに手を繋いで私達の前を歩く。大丈夫かなぁ…この先これ以上にいると思うのだけど…。


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