とんでもカルテットの自警団任務 7
…ご愁傷さま。確かに涼花さんも栗原さんも私より年下位だもんね。そう思っていると、涼花さんがふくれっ面になっている。
「お父さんは、吉継さんが制服組だからって言いがかりをつけるのをやめて欲しい…!」
制服組…えぇ?!つまりこの2人は将校?!いや、目の前にいるちびっ子達はそれの子供達だけど、流石に現職の方は…失礼なことしてないかな?慌てて敬礼する私を見ていたのか、栗原さんがしまったという顔をして答礼しつつ話し始める。
「すみません。自己紹介を忘れておりました。私は栗原吉継、階級は特務少佐です。こちらが婚や「妻です」…の二階堂涼花です」
「はっ!はい!私は自警団生活安全クラスの長をしている猿島桃香と申します!…って、二階堂さん…ですか?」
二階堂と聞くと、海軍部の誰もが逆らえない程に強くて料理上手なムキムキマッチョが浮かぶのだけど…。そう思って涼花さんをよく眺めると、涼花さんは何かを思い出したように問いかけてくる。
「もしかしてですけど…こう、ムキムキマッチョの大柄なゴリラみたいな人間をご存知ですか?」
「洋食は美味いのに和食は不味いとボヤいた隊員を海に投げ込もうとするムキムキマッチョのゴリラみたいな主計大佐でしたら…」
すると、顔を隠した涼花さんは「それは父です…」と呟く。えー!!あんなゴリラからこんな可愛らしいお嬢様が生まれるのですかー!?…確かにあの人ならそう簡単に結婚を認めなそう。
「…私としてはこの4人を連れ歩いている猿島さんにとても疑問があるのですけどね」
「六花ちゃんにヒナちゃん、東城副司令の娘さんと黒井総司令の実子…。背景知らなければ誘拐を疑われる…?」
この中で大人しく誘拐されるのなんか冬華ちゃん位か?と栗原さんが言う中、ちびっ子達は苦笑いをしている。…さっきの話からして、誘拐したら犯人は相当不運な事に巻き込まれるのだろうけど。でも、ただ隊員達から恐れられているだけの日向ちゃんもまずいのではと栗原さんに伝えると、カップルに揃って信じられない様な目で見られた。
「冗談…だろ?いいや、冗談でしょう?」
「あの…お熱ありますか…?」
そんな2人に日向ちゃんは分かりやすく憤慨して文句を言う。
「私!今日は大人しくしていたんだからね?!流石に花ちゃんととーかちゃんの前だもん!」
花ちゃんと冬華ちゃんは日向ちゃんのことをなだめつつ、納得した様に口を開く。
「あはは…私は慣れてるから気にしないよ?ヒナちゃん」
「というか…常日頃使っているのに、なんで今日は使わないんだろうと思ってた…」
それに日向ちゃんはそれもそうかと呟くと、運悪くスリが通りかかって涼花さんの持っていたカバンに手を触れる。しかし、晴れているのに空から雷がその人物に落ちると、スリは立った状態から膝が折れて、その勢いのまま地面に倒れ込む。
「なら使う!」
「これでこそ…ヒナちゃん」
「あーあ…、死んでねえよな?」
はしゃぎ回る日向ちゃんに、少し前に聞いた一言を思い出す。『ヒッカムの嵐』『すぐに雷を落とす』…もしかして、こういう事…?そう思っていると織音ちゃんに腰をつつかれる。横を見ると、織音ちゃんが日向ちゃんのリュックサックを開いて持っていた。
「猿島さん、そこではしゃいでる普通の小学1年生のリュックサックの中身です」
カバンの中には自警団手帳やおやつ等に混じって拳銃らしきものや、数々の臭そうなものが入れられた密閉容器、無線通信機器にとおおよそ小学1年生の持ち物とは思えないラインナップが詰まっていた。それを一点づつ取り出していた栗原さんがぼやく。
「これは…スタンガン、これは…気絶している人間にのせる用。あとは…これは葉月博士が作った多用途通信端末、こっちは海軍部の三田司令が写った写真…。日向ちゃん、ちょーっと身体まさぐるな?」
栗原さんに頼まれた涼花さんが日向ちゃんの自警団制服を探ると、くすぐったそうにモゾモゾ動く日向の各所からライフル弾頭に分厚い黒いテープ状の何かとそれの付属品の部品、電球や伸縮式の警棒等が出てくる。
「恐らく電磁投射用の弾頭にテープ爆薬、懐中電灯代わりの電球かな…?」
「日向にしては軽装備かな?」
すると、お姉ちゃんも見せなきゃふこーへーだよ!と訴えた日向ちゃんによって織音ちゃんのカバンが奪い取られる。織音ちゃんはそれに対して苦笑いを浮かべつつ大したものは入っていないと言う。そして、受け取った栗原さんがそれの中を探る。
「まずは、アサルトカービンとその弾倉4つ…馬鹿じゃねぇの?…まぁそれはいいとして、拳銃二丁とそれぞれの弾倉3つと姉妹お揃いの警棒…。2リットルのスポーツドリンクに、背負う形の通信機と大量のスナック菓子…」
他にもドサドサと出される隊員でなければ違法な武器類。それに対してお姉ちゃんの方が悪だよ!と訴える日向ちゃんに、出てくる品々に引き気味の栗原さん。
「…なんで武器を携帯しているの…?」
「名目上はこの3人を護衛している事になってるからね」
織音ちゃんが後方に手を振ると、栗原さんが渋い顔でそちらを見る。後方を見ても基地の建物が並んでいる位で誰もいないのだけど、2人には何か見えているのだろうか…?すると、隣に来た涼花さんが耳打ちしてくる。
「自警団の子に黒猫お姉さんと飼い主って呼ばれている人があそこから見ているみたいですね…。いつもは暇つぶしですけど今日は正規任務でいるみたいです…」
黒猫お姉さんとは自警団の子達が高い所で座っていたり昼寝していたりしている正体不明のお姉さんにつけた名前だったと思う。由来は小脇に黒猫の抱き枕を持っているからだそうで、その横にいる女性が飼い主と呼ばれているらしい。
「個人的にはいつものヒナちゃんと六花とイカレポンチスナイパーコンビが護衛しているって考えると嫌ですけど、とりあえず冬華ちゃん達の安全は保たれていそうですね。それでは自分達は戻ろうと思います」
「もし良ければ、ニカイ堂にお越しください…。父は洋食ならとても美味しいので…」