とんでもカルテットの自警団任務 6
基地の正門を超えて軍関係の施設が乱立する地区を超え、中心市街のメインストリートへ歩いて行く私達。パトロールというより少女達のお散歩についてきているだけにも思えてきたけれど、これでも治安維持にはなっているのだろう。道路脇の店から出てくる隊員らしき人はこちらを見て様々な反応をするし、知り合いでもある店の人達は桃香ちゃんが新入りちゃん達の初パトロールを見守ってるの?と微笑ましそうに見ている。
「初めてこの街に来た気がします!オシャレなお店がいっぱいだー…」
「花ちゃんは確かに来たこと無いかもねー?」
花ちゃんは目輝かせて楽しそうに辺りを眺めている。確かに高級将官の娘を中心市街に連れていくなんて、誘拐してくださいという様なものだとは思う。因みに自警団の子達を誘拐しようとしても、何故かその子を抱えた犯人が急に倒れ込んだり、車のエンジンが撃ち抜かれて動かなかったりするらしい。団員内では『凄腕スナイパーが私達がしっかり働いているか見張っていて、ピンチの時は助けてくれる』なんて話もある。そんな人を雇った覚えは無いけど…。
「治安は多少良いとは言っても、基地よりかは悪いから行くとしたら誰か同伴かな?」
「…人が多すぎて疲れる…、目が回る…」
今度一緒に行こうかという織音ちゃんがげっそりとした冬華ちゃんを背負いつつ返すと、花ちゃんは約束ですよ、と小指立てて織音ちゃんへ向けて差し出す。2人が指切りげんまんをしているのを見ていると、後ろから声をかけられる。
「すみません。流石にその年でこの街は…って、マジかよ…」
「どうしましたか?吉継さん…ってヒナちゃんの友達も…?」
声掛けてきたカップルは日向ちゃん達を見た彼氏さんはため息をついていて、後ろから来た彼女さんは不思議そうに4人を見ている。
「ヒナちゃん、この人もしかしてなのだけど、射撃は当たらないのに可愛い彼女を射止めた栗原さん?」
「うん!射撃は全く当たらないけど、涼花お姉ちゃんを射止めた栗原!」
あぁ…知り合いなのね…。そして栗原と呼ばれていた青年はあの子に教えたのはヒナちゃんか…と呟いている。そして、織音ちゃんはニコニコしながら2人に近寄っていき、声をかける。
「お久しぶり!ポン…栗原お兄ちゃんと涼花お姉ちゃん!」
「ふふっ♪こんにちは?織音ちゃん」
「あの時の女の子か…」
織音ちゃんも知り合いだったみたいで涼花お姉ちゃんと呼ばれている人物と仲良さそうに接している。
「今日はポン…お兄ちゃんは、おと…司令長官との会合は無かったの?」
「何で詳しく知ってんだ…?この子」
胸を張った織音ちゃんはフフン!と自慢げにしながら口を開く。
「よーく栗原…お兄ちゃんのことは知ってるよ!涼花お姉ちゃんにバレないようにメイちゃんの写真をカバンに隠していたり、射撃訓練で過去最低点の11点を出したり、最近涼花お姉ちゃんのアプローチが強すぎて理性がギリギリだったりとか!」
「ぜってえ情報元あの妹狂だな…!今度仕返しをしてやる…。そうは言うけど、六花お姉さんもな、実は妹観察日記を付けているらしいぜ?」
「うん!今は53冊目だよ!見る?」
織音ちゃん…というか六花ちゃん本人だと気がついていないのか、そう吹き込んだ栗原さんに、織音ちゃんはリュックサックから日記帳を取り出して見せる。後ろの涼花さんはそれをフフフと笑っている。…さては、涼花さん。中身に気がついているんだな。…って!サラッと言われたけど…ぇぇ…本当にただの姉妹ですか?
「じゃあ…実の妹を彼女にしているんだぜ?びっくりだろ?」
「メイちゃんはいとこだし、なんなら向こうから来たからのだから問題ないもーん」
えぇ…重度のシスコンの方?いや、向こうから来たと言っているから芽衣ちゃんもなんだろうけど…。そんなことを考えていたら、涼花さんがしゃがみこんで大笑いしている。すると、後ろの彼女を見た栗原さんが涼花さんに近寄って心配そうに声をかけている。
「涼花ちゃん?体調悪くなったの?」
「フフフ…!ふぅー…!本当におかしい…!吉継さん、本当に気がついてないの…?フフ…!」
何に気がついていないのかと問いかける栗原さんに涼花さんは笑いを堪えて話す。
「よーく見てよ…!どう見ても知り合いじゃない…?ほーら…フフ…!」
「本当にこんな鈍くて良くもまぁ、涼花ちゃんを射止めたことだね。クソポンコツ」
栗原さんがじーっと織音ちゃんを見つめると、織音ちゃんは気持ち悪いとビンタをする。
「…っ!てんめぇ!よくも叩きやがったな!妹狂のド変態!」
「気持ち悪いなら当然でしょ!このノーコンポンコツ佐官!」
ギギギと取っ組み合いを始めた2人に、日向ちゃん含めた少女達がやれやれと肩をすくめる。あぁ…そういうレベルの知り合いでしたか。そして織音ちゃんに投げ捨てられた栗原さんは彼女さんに問いかける。
「いつから、これが六花だって気がついてたの?」
「フフッ…、この前の銃撃戦の時からかな…?」
…おかしいな?銃撃戦って聞こえたような…。もしかして、紗奈の言ってた件の事?え?マジでやったのこの子?
「道理で射撃当たらないのにって言われるし、容赦ねぇと思ったぜ…」
「あの場で気が付かないなんて…お兄ちゃん、お目目節穴なんじゃなーい?」
「止めろ気持ち悪い」
そう言うのと同時に栗原さんが足の甲を踏みつけられて悶絶するが、涼花さんはそれを見てもケラケラと笑っている。そして、ゴロゴロと転がりながら栗原さんが織音ちゃんを睨みつけて言い放つ。
「お前の身体に対して興味が尽きないぜ…ってぇ!涼花ちゃん!そういう意味じゃない!マジで!」
その言葉に今度は涼花さんが背中を踏みつける。…確かに他の女の人を彼女の前で考えるのはご法度でしたか。栗原さんが起き上がりながら弁明していると、冬華ちゃんに落ちていた棒でつつかれる。そして、棒を手放すと背中を叩いてから背中に飛びつき、背負えとばかりにしがみつく。
「ん…いい広さ…。私の乗り物になる…」
「栗原、今日からとーかちゃんの馬だよ!」
栗原さんは仕方ないと頭を掻きながら立ち上がると、冬華ちゃんから感嘆の声が上がる。それに対して、栗原さんは困った顔をしつつ冬華ちゃんの太ももの裏に手を回して支える。
「冬華ちゃんが1番誘拐されるリスクが高いから、栗原が通りかかったのは良かったかもしれないね」
「涼花からここに出かけないかといきなり言われたからいるんだけどな」
「うん、芽衣ちゃんから六花ちゃんとヒナちゃんの監視をお願いされたから…」
ほらこれ、と涼花さんが携帯電話を取り出してチャット画面を見せる。乙女同盟とルーム名が書かれた画面に芽衣ちゃんからの連絡が書かれている。
「つまり…俺はなんの為に連れてこられたの?」
「何となく…だけど。嫌なの…?」
逆に私と離れて何をする気なのかと副音声が聞こえそうな問いかけに、栗原さんも気がついたのか、そんなことはないと返す。
「…むー怪しい…」
訝しげな涼花さんに睨まれてタジタジな栗原さんへ助け舟を出したのは、まさかのさっきまで喧嘩をしていた織音ちゃんだった。
「このポンコツはそんな器用じゃないよ。…浮気をしたら多分バレバレだろうし」
「お前なぁ…。むしろこんな美少女に好意を向けられておいて、他の女の子に魅力を感じて浮気するとでも思うのか?」
確かに涼花さんは清楚なお嬢様然としていて、芸能人の様な容姿を持っている。そんな婚約者に言い寄られているのならそういう考えは浮かばない…のかなぁ?私には分からないや。
「というか…浮気などしようものならおやっさんに半分に千切らそうだ」
少女4人はコクリコクリと首を縦に振り、冬華ちゃんに至っては背中から雑巾絞りのジェスチャーをしている。そんな中、日向ちゃんが口を開く。
「源一郎おじちゃんに千切られるのが先か、日穂お姉ちゃん達に蜂の巣にされるのが先か…いや、その前に私が消し去るか。楽しみだねっ!栗原!」
「…そんな事は一生起こらないから楽しみにしないでくれるか?」
「介錯は任せて。みじん切りなら得意だから」
「やめろ!」
そんな様子に涼花さんは可笑しそうに笑っている。ケチだと抗議されながら少女2人に足元をぐるぐると回られている栗原さんは「腹立つ頭を鷲掴みにしてやりたいけど、こいつら確実に反撃してくるからな…」と渋い顔をしている。
「ふふっ♪冗談です…信じてますよ?吉継さん…♪」
「本当に…、勘弁してくれ」
涼花さんは栗原さんに近寄ると、肩に手を置いて頬にキスをする。…わぁお、大胆。そして、「これはからかったお詫びです…」と栗原さんに言い、いたずらっぽい笑みを浮かべてその顔を覗き込んでいる。それに栗原さんは顔を赤らめて困った様に頭を搔くと、ため息をつく。
「これなんだけどなぁ…、六花。そっちもこんな調子か?」
「…異性だからこそのライン引きがまだあるだけいいじゃん」
織音ちゃんの顔が諦めた様な笑みになり、日向ちゃんと冬華ちゃんは苦笑いをしている。…一体何があったの…?私が思い浮かべた疑問の答えは涼花さんから話された。
「毎日同じ布団で寝て、起きたらおはようのキスに一緒に朝のシャワー…羨ましい…」
「おぉ…、悪ぃ。良くやってるよ、本当に」
ただの姉妹なら仲がいいで済むだろうけど…、文脈からして、芽衣ちゃんはそういう意図なんだよね…?多分。
「ははっ…身体も心も中学生から変わってないから…。距離感の近い妹と思えば…ね」
そんな2人をじとーっと見ていた日向ちゃんは呆れたと言わんばかりに話す。
「六花お姉ちゃんのことは好きだけど…あそこまでボディタッチはしないし、あんなことはしないかなーって。というか…2人とも自業自得じゃないの?」
「「…ははっ」」
痛いところを突かれたからなのか言い返さない2人に日向ちゃんは追撃を加える。
「六花お姉ちゃんは芽衣お姉ちゃんの事をかっこよく救ってきたし、栗原に至っては…言わずもがなでしょ?」
「2人とも漫画の主人公みたいでかっこいいです!」
花ちゃんの言葉に、小さくぐふっと声を漏らした2人。そして、諦めたようにため息をついてから話し始める。
「実際、アプローチに満更でもない自分もいるのだけど」
「こんな可愛い子に好かれて嬉しいんだけどなぁ…」
「心の姉が邪魔をする」「涼花ちゃんが20歳になる誕生日まで耐えないと殺される」