とんでもカルテットの自警団任務 5
芽衣ちゃんに追い出された私はこの子達の付き添いなのか、この子達が付き添いなのか分からないパトロールを再開すると、相も変わらず前から歩いてくる隊員は横に避けて敬礼をしている。4人への隊員の対応が違うのが見ていてすごく面白い。ミニ六花ちゃんこと織音ちゃんは、頑張れよー!と頭を撫でられて、日向ちゃんはそそくさと避けられて、花ちゃんへは東城教官が本日していたことを伝えていた。そして、冬華ちゃんへは…
「冬華嬢、チョコレートいるか?」
「うん…いただきます…」
何故かお菓子を貢がれて拝まれている。男女問わず取り敢えず拝んでおこうといった形で顔を合わせると貢がれて拝まれる。しかも本人は気にしていないのか、お菓子を頬張りながら大人しくしている。そして疑問に思ったので、今拝んでいる女性隊員に聞いてみることとした。
「あの〜、すみません。お姉さんは何故拝んでいるのですか?」
「なんか知らないけど、冬華ちゃんと会うといい事あるからさ?なんか拝んでおこうかと」
…なるほど?一応私も拝んでおこう。いい事あるらしいし。すると、何故か冬華ちゃんは嬉しそうにしていた。
「おぉー…信者増えた…。いい事あるよ…きっと」
その言葉に苦笑いしていると、同じように織音ちゃんの顔と日向ちゃんの顔も苦笑いになる。それに対して冬華ちゃんは気だるげに立ち上がると、女性隊員と私に向き直って両手をバンザイとあげる。
「少しは頑張る…。いい事起きろ〜…!」
可愛らしいと隊員の方と笑いあっていると、日向ちゃんと織音ちゃんが程々で抑えるようにしつこく伝えていた。すると、冬華ちゃんは分かってる…と呟いてから手をペチッと合わせた。そして、満足そうに今日は大成功…!と呟くのと同時に生活安全クラスの子が何かを片手に走ってきた。
「猿島さーん!前に言っていた海軍部のお姉さんお手製のシュークリーム!ぼーっとしていたら作りすぎたみたいで、一箱、猿島さんに渡して欲しいと言われましたー!」
「…むふぅ」
…確かにいい事あったけど、どういう理屈なんだろう…?そして、何故2人はよく抑えたと褒めているのだろう…。
「前は落ちてた宝くじが2等だったから、それより成長してる!偉い偉い!」
「でも、少し望みを込めたみたいだね…」
「うまうま…」
いつの間にか私の膝元にいた冬華ちゃんは、2人に撫でられつつ呑気にシュークリームを食べていた。とりあえずいい事あったのは本当だし…深く考えていても分からないでしょ。私も箱を開けて中のシュークリームを食べると、丁寧に作られたカスタードクリームのバニラが香るハイクオリティなものだった。箱の中にあったシュークリームはみんなで分け合って食べ終わったので、一応お礼のために製作者の人に連絡をする。プライベート用の携帯電話を取り出して番号を押してから通話すると、数コールの後に繋がる。
『はーい、三田ですー。御用をどうぞー』
「お忙しいところすみません、猿島です。シュークリームのお裾分けありがとうございます」
『おー、良かった。いやー、材料の注文数間違えと芽衣ちゃんの件でぼんやりしててねー。気がついたら山のようなシュークリームを製造していたんだよね』
聞こえる声色と苦笑いから本当に間違えて作ってしまったようだった。うっすらと女性がこれをどう処理しようと頭を悩ませる声が聞こえてきて、美味しいのです!と声を上げる少女の声もする。
『そうそう!可愛いリトルレディーズはどう?大暴れしていそうだけど』
「あはは…日向ちゃんと織音ちゃんはしてますけど、残り2人はいい子ですので」
すると、電話の相手が弥生さんの声から少女の声に代わって、その相手がこう聞いてくる。
『先程ぶりなのですけど、何時もと違う気がする事とかってありますか?』
何時も違う事しかないけど、全体的に言えるのは…
「今日はツイてるなって位?」
それに対して、やっぱりなのですとため息が聞こえてくる。何がやはりなのかと聞こうとした時、目の前で慌てていたのか横を走り抜けて行った隊員が冬華ちゃんにぶつかる。冬華ちゃんは織音ちゃんに抱き止められたから無事だったが、隊員の方はそうではなかった。まず、店の小さな看板が落ちてきて当たり、頭をおさえていたらそのタイミングでこむら返りを起こして座り込んだらズボンのお尻部分が音を立てて裂けた。
『…冬華ちゃんに都合良く悪い人に不運が訪れて無いですか?』
「今目の前で起こったけど…?」
おそらく芽衣ちゃんらしき相手は深くため息をつくと、
『冬華ちゃんは幸運体質なので一緒にいるといい事があるだけだと考えていて欲しいのです…』
…きっと、本人もいい事起きろと言っていたのでその延長なのだろう。深く考えたら良くなさそうな事だけはわかった。すると、先程からシュークリームを届けてくれた団員の子が、耳を押さえて不思議そうな顔をしている事に気がついた。
「どうしたの?何が無線で報告があったの?」
「いえ…、 空き巣犯を追っていた団員から『犯人がいきなり吹いた風に煽られて海に落ちたけど、しぶとく泳いで逃げていったから予測した上陸地点に先回りしたら犯人がその場にいたおじいさんを押しのけたせいなのか、そのおじいさんに殴り飛ばされて数メートル跳ね飛ばされてボロ雑巾みたいにされている』みたいで…」
『今日の猿島さんが得た幸運分のとばっちりが空き巣犯に当たったみたいなのですね…』
「うーん…絶妙に可哀想な位運のない犯人」
「何でよりによって師匠を押しのけるのだろう…?」
そう呟く日向ちゃんと織音ちゃん。そして、織音ちゃんは通信機をリュックサックから取り出すと、操作してから通信を始める。
「師匠ー。その人空き巣犯らしいです。目の前にいる子に引き渡してあげてください」
『おう!仕事が多くてイライラしてた時に、丁度こいつが押しのけてきてな。罵られたから走って殴ってみたら…こいつが遅いせいで少し強く殴ってしまった。ああ…勿論、殺してはないから安心しておけ。しかも、悪人ならいい薬になっただろう』
通信機越しなのに目の前で話している位に大きく野太い声がこの場に響く。
「師匠ー?普通の人間は師匠の拳は見切れないですからね?あと、犯人が無事で良かったです」
「殺さなかっただけでも感謝されるべきじゃないか?」
…随分と物騒なおじいさんだなぁ。師匠とか言ってるし何処かの道場の師範なのかな?それだけを告げて織音ちゃんは通信を終えると、冬華ちゃんを見る。冬華ちゃんはのほほんとお菓子を食べながら呟く。
「本日の成功は不運を渡せる相手がいたから…」
「もしかして、とーかちゃん…。悪い人に不運を押し付けた?」
日向ちゃんの質問にこくりと頷き、いつもそうしようかなと返していた冬華ちゃんに織音ちゃんと日向ちゃんからため息が漏れる。
「今頃重罪を犯した人が、相当奇天烈な目にあってるんだろうね…」
「無線を傍受する限りだと、すごいのは武装強盗犯が転んだらズボンとパンツの後ろが破れて…これ以上は言えないや…可哀想で」
…本当に悪い人に不幸を押し付けられているなら、その犯人達がだんだん可哀想になってきた。すると、無線越しに芽衣ちゃんが『おしりの穴に人参が突き刺さっている患者さんが搬送されてきたのです?!…一体何があったらおしりから人参を生やして…うわぁ、聞くだけで痛そう…』と何処かに話す声が聞こえてくる。
「…私は悪くない…�����様が悪い…」
誰かは知らないけど、原因扱いされている存在に思いを馳せながら芽衣ちゃんに何となくわかったよと伝える。芽衣ちゃんからそれなら大丈夫なのですと返答がきて、そのまま通信が切れる。向こうも忙しそうだし、4人に声をかけてパトロールを再開しようと促す。4人はそれぞれ了承の意を示すと、4人で私を囲んで歩き出す。