とんでもカルテットの自警団任務 3
受付で何かを伝えていつの間にか立ち去ってしまった森永局長と入れ替わりにやつれた30代位の男性が現れた。彼は案内すると言うと、フラフラとした足取りで前を歩く。患者はそちらではと思わなくもないけれど、そのふらつく足取りに着いていくと、診察室に到着した。4人は外で待機するとベンチに走り出し、残された彼が中を開けると、そこには小さな可愛い女の子が座っていた。見た目は小学校高学年位で、水色のナースウェアを着ている。よく見るとあまりにも可愛らしい顔の彼女はこちらをまじまじと見ると、目を見開いて柔らかい笑みを浮かべる。
「こんにちは、今回治療する黒井芽衣です。…って、伊豆大島で助けたヘリコプターのパイロットさんではないですか?お久しぶりです」
その子はいきなり自警団制服の下に着ているワイシャツの裾をめくると、右脇腹近くをさする。次にスラックスの上から左太ももの付け根をさすると、いくつかの部位をペタペタと触る。ちょっと待って!?しれっと言ってたけどあの時の部隊の人?!ってか!レジスタンスのアイドル芽衣ちゃんじゃん!
「とりあえず、怪我自体は塞がってるのです。ハリネズミみたいになってるパイロットさんをりっちゃんが見つけた時は驚いたけれど、あの時何とか生きていてくれて良かったのです」
…もしかして、今触れた所は全てあの時何か刺さっていた?よく生きていたな…私。
「…もしかしてだけど、あの時助けてくれた衛生兵さん?」
「あの時、意識あったのです?!」
「いや…うっすら覚えてるだけだけど?」
彼女は良かったと肩を撫で下ろす。その中で呟いていた『意識があったなら大変申し訳なかったですからね…』との一言に引っ掛かりを感じて、何故か質問すると、彼女は言いにくそうに目を逸らして答えた。
「…瓦礫に挟まれて見るに堪えない状態だったから…麻酔無しでりっちゃんに左足を切断して貰ったのです。その後治したけど…結構パイロットさん出血して消耗していたから…まぁ止血して、その後足として機能すればいいやって筋肉の生成まで気を回していなかったのです。…しかも、塞ぎながらとはいえ…刺さっていたものも…適当に引き抜きましたし。でも!モルヒネ打つと血圧下がっちゃうし…」
天国のお母さん、私がそちらに行きかけた時に私は普通だったら死んでいる筈だったそうです。それをこの子が無理やりこちらに戻したみたいです。どうやったかは不明だけれども。もしかして癒しの女神的な存在でしたりします?
「今回は…その応急処置の続きとなるのです。今なら筋肉の生成も関節をきちんと作るのも可能です!今回はパイロットさんも血液が沢山ありますし、瀕死でもないですし!」
「…あの時の私どうなってたの?」
「出血性ショック起こしていて、12箇所に金属片が刺さっていて、おまけに左足と右肺がぺちゃんこだったのです。普通なら墜落から3分以内でお陀仏だったのです」
そんな壮絶な状態を想像したのか、横に立っていた男の人が引きつった顔をして彼女を見ていた。それを気にしていないのか、彼女は腕まくりをすると私の左太ももに触れる。
「わぁー…当時の私相当慌てて治したのですね…。神経すら最低限しか治していないのです」
徐々に足先の感覚が戻ってきて、靴下に足の指が触れている感覚を感じる。数分して彼女が私の左太ももから手を離す。そして、私に立ち上がる様に声をかけてくる。…確かに左足がきちんと動く。ジャンプも出来るし、片足で立つこともできる。
「うん、成功なのです。…そうだ!おーい!りっちゃーん!元の姿になって入ってきてー!」
すると、隣の部屋からドタドタと音がしてくる。そして、診察室のドアが開いてボーイッシュな女の子が入ってくる。
「何ー?メイちゃん」
「りっちゃん、この人伊豆大島の時に死にかけていたパイロットさんなのです」
「知ってるよ。ここまで一緒にいる限り元気そうで、すごく安心したからね」
あれ?この子に会ったっけ?4人組の後ろに監視で着いていたのかな?すると、彼女はこちらを向いておどけたように自己紹介する。
「僕は黒井六花です。…というか、『六道織音』ちゃんでもあります。今日一日妹達共々よろしくお願いしますね?」
…え?六道織音ちゃん?確かに似てるけど…どうやってこの背丈になったの?頭を悩ませていると、六花ちゃん?は笑いながらそれに答えをくれた。
「少しばかり若返って自警団の子達のトラウマを掘り返さないようにしてたんですよ。そのまま日向に付いていくと新人ちゃん達はさておき、おたくの紗奈ちゃんが「水無月の鬼ぃ」って言って確実に気絶するので…」
話には聞いた事のある自警団員同士の心得らしきもの、『悪い事すると水無月が来る』。そして、おっきい方の妹分の言っていた『六花さんには会いたくない。誰にあの人について聞いても頭おかしい事しか言わない』。紗奈ちゃん…私の前に今、そのご本人いるんだけど…。
「…誰だって拳銃で撃ったのに、ピンピンしている人が襲いかかって来ればトラウマにもなるのです」
「体制が新しくなってから入ってきた第2世代の子達は、話しかけてくれるんだけどね…」
うちの団員達も基本はパトロール中にムキムキのお姉さんからお菓子貰ったり、猫みたいなお姉さんにピンチを助けて貰ったり、武道家を名乗るおじいさんとその弟子と稽古していたりと楽しく過ごしているみたいだけど、その殆どは第2世代と呼ばれる体制が変わってからの子達で構成されている。第1世代こと、あの事件以前からいる団員は私の様な指揮する側か特殊部隊に配属されている。元々半ば強制的に入団していたから、大半は脱退して別の道に行ったらしいけれど。…って、今拳銃で撃たれてピンピンしてたって言わなかった?
「まぁー猿島さんが自警団にいるのはきっと、あの人の力だろうけど」
「弥生さんの謎の人脈様々なのです」
三田司令が何故自警団本部へのコネクションを持っているのかは知らないけど、除隊を宣告された時に今の肩書きを推薦してくれた。本人の話によると自警団団長と友人になったからと言ってはいたけど、あんなに出来る人がそんな理由なんて…絶対違う気がする。
「とりあえず、心残りが解消して良かったのです。治った事を是非とも心配していそうな式根さんに教えてあげて欲しいのです」
「式根さん?」
「この前摩耶の艦橋クルーと機関長と仲良くなったのです」
式根飛行長…何時もと違って、あの時は必死でこっちに通信してきていたっけ。なんて思っていたら目の前の芽衣ちゃんが部屋の隅に移動して通信機らしきものを操作して、どこかに通話しだした。いくつか相手に伝えると、上陸中なら中央病院に来て欲しいと伝えて通話を切った。
「面倒なので呼んだのです」
「芽衣ちゃん、どなたを呼んだの…?」
「摩耶の艦橋クルー全員なのです」