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日向の自警団体験 3日目 遺されたもの

「ただいま〜。およぉ?弥生さんじゃん」


「御用はまたコスプレの依頼かしら?写真はよろしく頼むわね」


小梅は弥生の前に置いてある善哉の器を見て、いいもの食べてますなぁと台所へ向かって行く。日穂は元々冬華がいたが、何処かに行ったので空席となっている座布団に座る。弥生はそれとは別件でねーと返す。


「ふーん…別件って何かしら?良ければ教えてくれると嬉しいわ」


「先ずは私、お隣さんになるからよろしくね」


日穂はあらあらと嬉しそうに言うと、弥生さんも高級将官ならば当たり前よねと納得して流す。


「ついでに結婚したから夫婦共々よろしくね」


「えぇ、私達も芽衣ちゃんの護衛の時に知ってしまったのよね…申し訳ないわ」


気まずそうに顔を逸らす日穂に対して、弥生はどうせバレるし、日穂ちゃん達なら言う予定だったしいいよーとあっけらかんと言い放つ。あとねーと弥生が言うのを日穂はふんふんとにこやかに聞いている。


「日向ちゃんのママになったらしいんだー。よく分からないけど日穂ちゃん達もママって呼んでもいいよー?」


「呼ばないわよ…って!!ヒナちゃんのママですって?!」


日穂は周囲を見渡して六花に飛びついて肩をブンブンとゆする。六花が気分が悪そうに顔を青ざめると芽衣は日穂を後ろから組み付いて止めようとする。そんなところに器を2つ持ってきた小梅が合流する。


「日穂さーん?どうしたのー?」


「弥生さんが『ママ』になったらしいのよ!!」


「ほーん…件の『ママ』ですかー」


2人して大丈夫かしら…?大丈夫じゃないの?とコソコソ会議を始めたのを弥生は不思議そうに見つめる。それに日穂は不安そうに、小梅は苦笑いを浮かべてそれぞれ口を開く。


「初代ママはそのね…言いにくいのだけどね…亡くなってて」


「ヒナちゃんに殺られたっぽいんだよねー」


弥生が端末を取り出した時に動いたせいで眠りが浅くなったのか、自分の名前に対してピクっと身体を動かした日向は、目をこすって違うよー…と呟いて起き上がる。目を薄めて眠たそうに日穂達に向き合うと、話し出す。


「初代ママは私が認めたママじゃなくて向こうが勝手にそう呼べと言ってきたんだもん。…一応殺してもないし」


注射は嫌いって言ってるのにあの時も持ってきたから、囮にしたけど…。と続けた日向に分隊員全員がため息をついたが、弥生は六花より預かっていた端末を読みながら


「うーん…多分何かの薬品を打ち込まれる所だったから正当防衛かな?まぁ…どの道私はこの人が亡くなっていることに感謝してるよー?」


と呟く。それに姉妹が何を言ってるのかと考えていると、弥生はだってさーと言い、


「何故か開いていたけどパスワード入力必要箇所の先よく読んだら計画された実験が書かれていて、その1つに芽衣ちゃんと六花ちゃんを殺害させるって書いてあるし、私はこの人に怒りしかないよ?」


姉妹はそれに不快そうに眉を顰めると俯く。小梅は端末を受け取って確かにとを指でなぞって読み上げる。間宮はその横から覗き込んで目を見開いてから憤慨する。弥生はぽかんとしている日向を強く抱きしめると辛かったねと囁く。


「ママ…どうして…?」


日向が目をうるませて抱きしめられつつ聞くと、弥生は実はねと前置きして答える。


「レポートの方じゃなくてパスワードが必要なファイルの方は日向ちゃんと芽衣ちゃんの生年月日を芽衣ちゃんから日向ちゃんの順で打ち込んだら開いたよ。その後何故か日向ちゃんと芽衣ちゃんに関するクイズを出されてね。まぁー、日向ちゃんのママならいける問題だったから出来たけど、その先にあったんだよね。追記閲覧用のパスワードと…日向ちゃん達の両親が遺した謝罪文」


小梅から端末を取り上げ、弥生が姉妹3人を呼ぶと近くに座らせて読み上げる。


『芽衣と日向の母親もしくは父親となった方へ、きっとあなたは軍経由でこの手紙を受け取って、今私達に怒りを覚えていると思います。自分の子供をモルモットにし、殆ど世話もしないであの家に放っておいた私達に。その点は弁解のしようもありません。しかし、そんな私達なりに娘達を愛していました。芽衣は何とか時間を作っては交流をとってきた…つもりです。それと芽衣の学校生活について、学校と緊密に連絡を取り合ってました。当たり障りの無い事しか聞けませんでしたが、夫と私からしたらそれが1番の心の支えだったのです。日向には接近禁止命令が出ていた為にあまりやれることはありませんでした。日向には可哀想な事をしてしまいました。私達から出来たのは潜入先に溶け込むかの試験として、姉の2人と生活する環境だけでした。報告の度、あの子が年相応の、試験体なんかじゃない1人の女の子として過ごせている事に2人して安心していたのを覚えています。これを読んでいるでしょう新たな親の方へ、もう虫の息の夫といつか扉が破られるだろうこの講堂にいる私からのお願いです。どうか、私達の代わりに愛情を教えて頂けませんか?よろしくお願いいたします。 五月美由紀』


弥生は座っている足元を濡らし、俯いている芽衣の顔を胸元に寄せる。そして端末を操作してつづ続けて書かれている文を読む。そして、六花に渡すと読むよう伝える。


『六花ちゃんへ、妹から貴女を預かった時は驚いたわ。妹に私達も中々家には帰れないと伝えたのにあの子ってば多分私達よりは家に帰れるでしょ?って返してきたのだもの。あの時は何を言っているのか分からなかったけど、あの時日本軍の撤退作戦で命と引き換えに国民を救う覚悟を決めてたのね。思い出したら腹が立ってきたからあっちに行ったら説教してやるわ!だからしばらく来ちゃダメよ?貴女のお母さん達が叱られているのを見せたくもないしね。アイスブレイクはこれくらいにして、貴女には本当に大変な仕事を頼んでしまったわね。でも最後に見た芽衣があんなに幸せそうに笑っていたのだからきっとうまくやってくれたのね。そんな六花ちゃんにお願い。五月家の最年長として、いいえ芽衣と日向のお姉ちゃんとして支えてあげて欲しい。六花ちゃんも実の娘同然に愛してるわ。さようなら 五月美由紀』


「任せてください。おばさん」


六花は端末を弥生に返すと、目を伏せて呟く。弥生はそれをまた操作して目を通すと、胸元で涙を流している芽衣に読むように伝える。芽衣は端末を両手で掴むと読み上げる。


『芽衣へ ごめんね、あまり家に帰れなくて。ごめんね、お話聞いてあげられなくて。ごめんね、辛い目に遭わせてしまって。ごめんね、愛してるって言ってあげられなくて。こんな時まで芽衣に謝ってばかりなママでごめんね。私達があんなことをしなければいっぱいお友達がいて、かっこいい男の子と仲良くなって、皆に愛される人生だったのかなと思います。中学校の入学式に仕事を優先したせいで行けなくてごめんね。次の日に写真を見せてもらって2人して号泣したのを覚えてます。今の芽衣は何歳になったかな?きっと高校の制服も似合っていて可愛いんだろうな。芽衣は賢いから大学も行ったかしら?結婚式行きたかったな。きっとパパと一緒に周りから冷たい目で見られるくらい泣いちゃうのだろうけど、芽衣の花嫁衣装は綺麗だろうなー。パパったら色々準備してたみたい。全く気が早くて困った人よね。それじゃあ、ママはお空の上に先に行ってるから、貴女はおばあちゃんになってから来てちょうだい。 五月美由紀』


芽衣は無言で端末を抱きしめ、六花は芽衣ごとそれを抱きしめる。芽衣は六花の胸元を涙で濡らし、今はしゃくり上げる様に声をあげるのみであった。六花は端末を操作し、最後の文を軽く読むと日向に渡す。日向は驚きつつそれを手に取ると読み始める。


『日向へ 貴女が生まれた時、私は実を言うと後悔したの。日向のこの先が残酷で悲しい事ばかりあるなら、この場でこの手で終わらせてあげた方が正しいんじゃないかって。でも、できなかったの。貴女が産声をあげた時、手が震えて身体が石になったみたいに動かなかったの。それからは陸軍研究所の人達が貴女を連れて行ってしまったから貴女が私達にあった事は無いけれども、貴女の事を考えなかった日は無かったわ。何とか芽衣と六花ちゃんと一緒にあの家で暮らすとなった時、私達は初めて神様に感謝したわ。2人は庭を見て貴女の名前を付けてくれたのかしら?芽衣を喜ばせようと珍しく六花ちゃんと芽衣、私達夫婦の皆が勢揃いで植えた向日葵。丁度あの頃綺麗に咲いていたわね。本当は999本植える予定だったの。でもそんなお願いしなくても何とかママ達は帰ってきます。今度はちゃんとしたママとパパとして帰ってくるね。きっと賢い貴女の事だから計画の内容も知ってて、芽衣達への加害を含んだ内容が組み込まれている事もわかってるでしょうね。そしてそれを何とか阻止しようとしていることもママはお見通しです。そんな頑張り屋さんに私達からの最後のプレゼント。この言葉を繰り返してね。それは』


「「祓い給え清め給え、祖なる海柘榴の君よ。悪しき理を斬り払い子らを守りたまえ」」


文言を呟く日向の後ろから、いつの間にか帰ってきて近寄っていた半透明の椿がやれやれと肩を竦めて文言を重ねて読み上げる。椿はお福の奴ここまで考えて私を呼び寄せたのか?と呟きながら日向の頬に手を伸ばしその続きを読み上げる。


「はぁ…『我が名をもってここに契らん。悪しきもの我が子孫に忍びよれど桃木の元に斬り捨てん』それでは私は買い物中の身体に戻るからの?もう唱えるでないぞ?ちなみに芽衣。お主にはしなくとも随分と強い加護が与えられているようじゃからな。主にその指輪からの」


そう告げた椿は空気に混ざるように消えると、その場所には元よりいた6人しかいなくなった。


「えぇ…椿ちゃんいつ帰ってきていつ消えたの?」


「あたしに聞かれても知らないわよ…」


弥生の問いかけに日穂は困惑しながら返事をすると、南は面白そうに微笑んで呟く。


「五月家の方々は随分と変わってらっしゃる」



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