日向の自警団体験 3日目 功績
居間の扉が勢い良く開くと、芽衣が尻尾が生えていれば外れる位に振っていそうな顔で六花に飛びつく。六花が胸元に擦り付く芽衣を撫でると、芽衣はきゃー!と嬉しそうに声を発する。その光景に椿含めた3人は苦笑いを浮かべ、花は手のひらで目を隠しているが指の隙間からそれを眺め、弥生は白目をむいていた。
「おかえりメイちゃん。お疲れ様」
「そうなのです!お疲れだからりっちゃん分を補給しないとダメなのですー!」
その様子を見た椿は『私は渋いお茶を取ってくるが…いるか?』と聞いて、誰も手をあげないので立ち去る。弥生と花は唖然とし、妹達はまたやってる…とため息をつく。椿は予め用意していたのか、すぐにお茶を持って来ると困ったもんだのぉと苦笑いを浮かべる。そんな椿に意識を取り戻した弥生が近寄る。
「椿ちゃん…私に芽衣ちゃんの内心を教えてくれる?」
「…わかったのじゃ。はぁ…仕方が無いのお…」
椿は弥生に触れると、弥生の脳内に音声が再生される。
『えへへー♪りっちゃん大好きなのですー♪』
『りっちゃんのここは私の…これは花ちゃんの匂い…?浮気…?』
『りっちゃんの事だからどうせ私みたいに口説いたんだろうなー。わかってるけど…なんかヤダ!』
「花ちゃんの匂いがするのです…。もしかして…浮気?なのです?」
「花ちゃん抱きしめたからかなー?いい匂いだよね」
『むー!この無自覚タラシぃ!こうなったら上書きするのです!』
「メイちゃんくすぐったいって!」
弥生は『なんか…お疲れ』と椿に囁くと、椿は嬉しそうに弥生の手を強く握る。そして、毎日こんなのじゃ…微笑ましいを通り越して腸がむかつく程なのじゃ…と嘆く。数分後、六花に匂いを付け終わった芽衣はいつも見慣れない花の姿を見て、目を輝かせる。
「花ちゃん、今日は一段と可愛いのですけど何かあったのです?」
「かわっ…!?こ、これは六花お姉さんにやってもらいました」
「照れた顔も可愛いのですー!」
花に抱きついた芽衣は本当なのです、これはりっちゃんの編み方なのですと三つ編みを見ながら呟く。そんなとんでも発言に弥生が理解が及ばす固まっていると、ようやく気がついた芽衣が不思議そうに首を傾げて弥生を見る。それを察してか、限界だったのか花は「失礼しましたぁ!」と玄関に走りだす。椿は耐えられないと買い物に出かけてしまい、いつの間にか消えていた。
「弥生さん?何かここに用があったのです?」
「え?あ〜…その〜ね?」
歯切れの悪い台詞を吐く弥生に、芽衣はライブならきちんとやるので安心して欲しいのです。約束は守るのが私なのですよと声をかける。そして、弥生は覚悟を決めるとたどたどしく言う。
「いや〜…実ほ…日向ちゃんのママ…?になったみたいで〜…?」
「へー…そうなのですか…。…って!ママァ!?」
ふーんと聞いていた芽衣が飲んでいた六花分のお茶と内容を飲み込んだ瞬間に固まり、叫ぶように復唱する。その時、手から外れた湯のみは六花が素早く受け止めており、日向は照れくさそうに笑っていた。
「な、何をしたら…え?」
芽衣が混乱して二の句が継げないでいると、日向が、ママにママになってもらった!と嬉しそうに芽衣に伝える。芽衣はそうだ!と、弥生の肩を掴んで問いかける。
「命令権はどうなってるのです!?あの脳機能の低下を引き起こしている催眠は解かれているのです!?」
「うわっ!それは解除出来てるよ!だから今は何の命令を受けていないと思うけど…」
日向はその言葉に首を振るとママから受けた1件だけあるよと嬉しそうに言う。芽衣は弥生を訝しげに見るが、弥生は手と首を振って否定する。
「私の心の赴くままに元気に過ごす事が、今の最優先命令だよ!」
弥生が嘘ぉ!あれでぇ!と驚いていると、ニコニコとした芽衣はポケットをゴソゴソと探って何か探す。そして1枚の銀色のカードを取り出す。それを弥生に差し出すと、弥生はなにこれと言いながら受け取る。
「弥生さんの偉業に対してこのカードを贈呈するのです!」
「…カード?」
六花は予想通りにそうなるんだと呟く。
「これこそメイズプラチナカードなのです!」
「なんかさっき聞いたような…何か特典あるの?」
芽衣は嬉しそうにフフン!と胸を張ると、もちろんなのです!と自慢げに話始める。
「言うなれば、私の最高級の信頼の証。回数無制限で私への要望を無理の無い範囲で叶えてあげるのです!…というのは元々出来るので、特別に可能な限りパパさんへの要求を私経由で出来る様にするのです!」
「…海軍部への予算増額も?」
「いくら欲しいのです?」
「嘘です…勘弁してください…」
自分で言った適当な事に対して本気の回答が返ってきたので、弥生は頭を抱えて撤回する。そして、弱々しく芽衣に可能な範囲を聞き出した。
「…弥生さん」
「なんでしょう…?」
芽衣は何を言っているのというような不思議そうな顔をして諭す様に語りかける。
「私のお願いをパパさんは拒絶できると思ってるのです?」
寧ろ拒絶しても今の弥生さんは誰かさんのママなのですから無理にも叶うと思うのですと言うと、日向は弥生の膝上でうつらうつらとしながらコクリと頷く。六花は弥生の横に移動すると、メイちゃんの方が穏便に終わりますと囁く。
「っで、予算は足りてるから!いらないよ!?」
「まぁ…弥生さんはなんだかんだ善人なので、そういうお願いはしないとわかってるのです」
弥生は目を閉じ、口元に拳を当ててしばらく考えるとそうだ!と叫んで芽衣の方を向いて合掌して頼む。芽衣は一瞬目を見開いたが、すぐに優しい眼差しで弥生を見る。
「今度発行する週刊の広報誌に見開き1ページの芽衣ちゃん写真集の掲載を広報課の人にお願いして欲しい!」
「…別にパパさんを経由しなくても直接伝えるだけで可能なのです」
弥生はそっかー!!と頭を抱えると、またいい事思いついた!と何かの書類をポケットから出す。それを芽衣に渡して、これの受理する様にお願い!と頼む。内容は海軍部敷地内の公園に小規模の野外劇場を建設する計画だった。
「これがあれば慰問公演とか有志音楽隊の演奏会も堂々とできるんだよねー。黒井総司令長官にはNG食らってたし丁度いいかなって」
芽衣は胸を張って得意げにすると、おまかせあれと快諾する。芽衣としてもステージがある方がやりやすいので渡りに船である。弥生が「これであとは昨日三宅ちゃんに依頼した曲が出来れば…ぐふふ」とにやけていたが、それに気がついたのは六花だけであった。日向は安心して夢の世界に旅立っており、弥生が大きな声で話していても目覚めない程であった。
「ふふっ…♪ヒナちゃん本当にママとして認めたのですね?」
「ようやく…安全基地を手に入れたってところかな」
そんな和やかな空気を玄関が開く音がリセットする。それに続くように玄関方面から部品が擦り合うようなガチャガチャという音が響く。足音が近寄ってきて、開いた居間の扉から姿を表したのは日穂と小梅の2人だった。