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日向の自警団体験 3日目 降り積もった心

「という訳で家に連れてきた以降は知ってるよね?」


「それはもう…素晴らしい日々でした」


うっとりとしている弥生は現在日向を膝に乗せて頭を撫で回していた。日向はそれにやめてやめて〜と言いながら目を細めてくすぐったそうに息を漏らしていた。六花と神無月はそれを微笑ましいものを見るように眺めていたが、すぐに六花はやれやれと肩をすくめる。


「弥生さん、この光景って結構凄いことなんですからね?」


「いやぁ…?日向ちゃんって何時もこうだからなぁ?」


弥生は自身に懐いている日向のその姉からの一言に不思議そうに返す。六花は呆れたように目を細めて呟く。


「そうやって興奮状態でない日向が心の底から年相応に振る舞うのは分隊員と日の出孤児院組以外だと片手で数える程度しかいないんですからね?」


ちなみに該当者は東城、則道、弥生、涼花、栗原である。それを聞いた日向は人を見る目はあるんだよ〜と胸を張る。


「弥生お姉ちゃんはー、変態だけど100パーセント善人だから好きー!」


妻((仮)が日向と親子のようなスキンシップをしているのを見ていた神無月が口を挟む。


「…僕は?」


「下僕」


項垂れた神無月に日向は戸棚からお菓子を取ってくるように言うと、弥生の膝から降りて神無月の背中をぺしぺしと叩く。神無月は不承不承とした顔で向かうが、ふと見た弥生が苦笑しながら口だけがんばれーと動かしているのを見ると急いで取り出して皿に盛って弥生の前のテーブルに置く。


「うんうん!それでいいんだよ!」


そう日向が言った瞬間に目にも止まらぬ速さでデコピンをされる。悶絶する日向を後目に六花がいつも妹が申し訳ないと謝る。それに神無月は可愛い従姉妹の我儘位どうって事は無いと返す。そして、真面目そうな顔になると六花に近寄り


「その代わり…従兄弟を助けると思ってプレゼントの案を出してくれないか…?」


と囁く。


「はぁ…これ、メイちゃん行きつけのアクセサリーショップの住所です」


「…助かる」


ため息をつきながらメモを渡す六花に神無月は相も変わらず真顔で礼を述べる。それを弥生はニヤニヤとして眺めつつ昨日と今日、口説かれ続けた羞恥の分揶揄う事とした。


「健介さん?浮気ですかー?」


「…例え浮気でもお嫁さんへのプレゼントを何にするか相談してくるのはちょっと無いですね」


六花が呆れた様に言う横では神無月が小指を切り落とそうと軍刀を抜いていた。しかしすぐに日向による『弥生お姉ちゃんの悲しむ事はダメー!!』という意味合いを込めた雷撃により軍刀を落とし、床でピクピクと痙攣していた。


「あと…何でしょう、同族を感じるのでタイプじゃ無いです」


「ふぅー…あぶなーい。まさか高速で指詰めようとするとは」


六花は床に倒れ伏せて、現在日向に気持ち悪いや馬鹿じゃないのと罵倒を受けている同類に哀れみの目を向けつつ答える。日向は軍刀を床に寝かせてから、鞘に納めて部屋の隅に立てかけるとため息をつく。


「…なんかごめんなさい」


反省したような弥生に日向は神無月が可哀想だと頬を膨らませると、小学一年生の渾身の力で神無月にローキックする。神無月は痛みに呻いた後にゆっくりと起き上がる。


「…日向ちゃんは是非とも自分の行動を振り返っていただきたいのだけど」


「うるさい!正座!…次に弥生お姉ちゃんを悲しませそうな事したらコックピットにくさや液を流し込むからね!そういえばこの前も…


小学一年生に正座をさせられて説教を受ける神無月が痛む全身を丸めて俯いていると、弥生が日向をなだめすかす。不服そうに矛を収めた日向は代わりに弥生にも一言言うように伝える。弥生は困った顔で上を見てからおずおずと神無月に近寄る。


「次からは誠意より…私への愛を見せて欲しいなぁ…と思います…」


それに目を輝かせて神無月が弥生に抱きつくと、何かを耳元で囁く。そこから弥生の顔がグラデーションの様に赤くなってゆき、比例するように姉妹の呆れた顔が完成した。


その後、神無月が目に見えて嬉しそうに部屋を去ると、室内は床で頬を手を当てつつ女の子座りで立てなくなっている弥生と悪い顔をする六花、そしてその2名に呆れている日向の3人が残された。


「…とりあえずお姉ちゃん、芽衣お姉ちゃんに同じ事しても無駄じゃない?少し前と違って…ほら、振り切れてるから」


日向は少し前の六花に無自覚に口説かれて内心アワアワとしていた可愛い例の姉が今や、所構わず好意100%製の大型榴弾で周囲ごと六花を撃ち抜こうとしている現状から進言する。分かりきっていた難題の答えをようやく受け入れて少し大人になった小さな姉を頭に浮かべて、日向は頬を緩めた。それはそれとして冬華の教育に悪いからやめて欲しいが。


「…わかってるよ日向。それはそれとして弥生さんも割と満更でもないですよね」


焦りと面白くないという顔が混ざった表情をする六花の発言に腰が抜けたまま、赤面しつつ涙目で弥生が六花を睨む様に顔をあげる。


「しょうがないじゃん!!声が良いし、かっこいいし、優しいし、意外と…その…としてるし…」


「結構前からモテるために身体も心も鍛えているはずですからね…実際モテてましたけど神無月さん鈍感なんで…」


「弥生お姉ちゃんのむっつりスケベ〜!」


それに対して日向と追いかけっこを始める弥生は、あからさまに逃走の手を抜いている日向を捕まえると頬を伸ばしたり頬を摘んだりする。


「どこでそんな言葉覚えたの〜!!」


「うへへ〜ほえんははーい!」


六花はそのお仕置き現場を微笑ましくかつ嬉しそうに眺めると、日向に良かったねと一声かけて頭を撫でる。それに日向は一瞬ポカンとするも、すぐに恥ずかしそうにうん!と答える。


「何〜?姉妹の秘密会議なのー?」


「弥生お姉ちゃんには秘密〜!」


教えなさいよ〜!と後ろから抱き抱える弥生に、秘密ったら秘密ー!とニコニコとして寄りかかる日向。きっと芽衣がいれば、この景色に涙を流して喜ぶだろうと六花は考えると目を伏せて呟く。


「…日向をよろしくお願いしますね弥生さん」


「んー?任せてよー。何かよく分からないけど」


今の弥生に甘える日向の顔は姉達が望んでいたが見れずに終わったもので、姉妹には補えないものであった。そして日向も初めての感情であり、それを自分が知っている似た感情で代用して自身に納得させていた。

そして六花はあの時やり過ぎてしまったのはきっと何処までやっていいか試していたのだろうなと推察して嘆息する。


「えぇ!?分かってないとそんなにダメなこと!?」


「気にしないでください。弥生さんが引き起こした事の規模が予想以上にとんでもないなと思っただけですから」


私そんなに不味いことしたの!!と叫ぶ弥生に六花は呆然とし、日向は恥ずかしそうにはにかむ。そして、日向は思い切ったように目を強くつぶってから開くと弥生に微笑みながら言う。


「大丈夫!私が絶対ずーっと守るからね♪」


「弥生さん…勧誘に乗ってくれて本当にありがとうございます…!」


「ありがとうねぇ〜!日向ちゃん!って、六花ちゃん!?どうして泣いてるの!?」


アワアワとしている弥生が六花をなだめていると、日向はあの時はごめんねお姉ちゃんと六花に抱きつく。六花は日向をずらして自分の胸に抱き込むと、本当に良かったと囁く。


「えぇー…本当に私何したの…」


困惑している弥生に六花は日向を胸に抱きながら答える。


「強いて言うならメイズブラチナカード貰えるくらいのことでしょうか…」


「何そのえげつないプライズ!!」


メイズプラチナカード、それは六花にあげる予定であったキラキラと輝く出した途端にとんでもない影響を与えそうなたった1枚のカード。しかし、六花には『私をあげます!』したので無用の長物である。特典は芽衣になんでも相当嫌でない限りお願いを叶えてくれる。


「…予想すると中々良い事した?私」


「うーん…多くの人が求めたらしきものを無意識に持っていくのは相当ですね…」


その立場になる為に多くの死人と精神崩壊者が出たくらいにはとんでもない立ち位置を無意識に得た弥生は惚けた様に言い、六花は頭を抱えて回答する。


「で?教えてくれてもいいんじゃないかなーって」


「はぁ…日向がきちんと言いなよ」


それまで、沈黙を保っていた日向は六花から離れると、弥生に近寄って耳元で囁く。


「あのね、弥生お姉ちゃん…その…お願いがあって」


「うんうん!どうしたの?」


弥生は優しそうな笑みを浮かべているが、内心何が言われるか戸惑っていた。そして日向は意を決して耳元で言う。


「あのね…出来たら…毎日ハグしてもらっても…いい…?」


弥生はそのまま固まると、ブルブル震え出す。それに対して日向は目を見開いて慌てるも、弥生はそれを手で制してから六花に近寄る。


「…聞き間違いかな?」


「…あーあ。全て弥生さんのせいですからね?」


その会話の後ろでは悲しそうに日向が俯いており、弥生はそれに気がつくと抱きしめて背中をさする。


「やっぱり…ダメだよね…ごめんね…」


「…っ!日向ちゃん大丈夫、大丈夫。ちょっと嬉しくてびっくりしただけなんだ〜」


その言葉にパァーっと顔を明るくした日向は弥生に思い切り抱きつく。弥生は困惑しつつも頭を撫でてから、六花に向き直る。六花はため息をつくと弥生に語りかける。


「今まで姉妹だけしかしなかった『恐喝を含まないおねだり』を弥生さんにしている意味はお分かりですか?昔、日向を手中に入れようとした人も結局その立場になる前に母なる大地に還ってる様ですので。メイちゃんを見れば分かりますが…その…五月家女子は少しばかり愛が重いので…えっと、つまり、弥生さん。こっち側へようこそ」


目を逸らしつつ、誤魔化す様に笑う六花は固まる弥生の心境を伺う。


「…正直に言えば未知に対する恐怖と謎の母性と使命感に溢れてる。今」


そう形容しがたい顔で答える弥生に、六花はおずおずと新居の案内を渡す。そこは空いている44分隊屯所の隣、つまりは


「ここならとても広いので神無月さんと暮らせる筈です。おめでとうございます。これで実質最高権力者です。…素直な日向はとても可愛いですよ」


「これからずーっとよろしくね!!」


将官専用の居住区、その中の本来東城副司令長官に与えられている予定の物件だった場所である。当の所有者は家族との生活にこんな広い土地は要らんと引き続き佐官に割り当てられる住居に住んでいるため、そこにあるのは隣にある家の離れとまだ余っている日向用の仮設ガレージが置かれた空き地である。


「新居なら心配しなくてもどうせすぐに建ちます。…警戒心強いメイちゃんと日向もおとすとは…まぁ、弥生さん人に好かれそうなオーラありますから仕方ないのかもしれませんが」


弥生は少し嬉しそうになんだかんだと語る六花を見て、少し困った様に微笑むと、目を伏せてから口角をあげて笑い声を零す。


「ふふふっ、まぁーったく!!自分の才能が恐ろしい!」


「うわっ!びっくりしたぁ!」


驚く日向を片手で抱き上げると、六花に向かって素早く駆け出して同じく抱き上げる。六花は弥生の頬を両手で押して抵抗するも、嬉しそうに顔が逸れるだけで効果は薄かった。


「流石にこれは…!僕、これでも来年で入隊年齢なんですけど!」


「幼女の姿で言っても説得力無ーい!」


日向は拒絶しつつも幼女化を解いていない姉を笑いながら撫でられている。そして、何かを小さくつぶやく。六花はそれに気がついて動きを止めると、微笑ましそうに日向を伸ばした手で撫でる。日向は弥生の顔をしっかりと見ると嬉しそうに言う。


「大好きだよ!ママ!」


弥生は何かと葛藤すると、ブツブツと呟き始める。六花がまさかと驚愕すると、弥生が口を開く。


「お姉ちゃんの仲間入りだと思ってたのに…!」


「…嘘ですよね?」


「ママ…?」


そんな弥生が下を向いたので、日向はしょんぼりとした顔をしてその顔を見る。弥生はプルプル震えると、また笑い出す。


「ひゃっほい!!神様ありがとー!今日から姉妹まとめて私の娘にしてあげる!!」


「うわぁ!目が回る!」


「ママ大好きー!!」


日向は憑き物が落ちた様に純粋な笑顔で抱きつき、六花は少し照れつつなすがままにされていた。


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