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日向の自警団体験 外伝 最高権力者

「…神無月司令、いくらなんでもトップが出張るのはどうなんだ?君に何かあれば機能不全となるんだぞ?」


到着して早々に言われた黒井の苦言に明らかに不服そうな顔をした神無月は怒気を孕む声色で答える。


「たかが飛行型のアイク数百でどうこうされる様な腕でしたら日本アルプス上空で散ってますよ…。それより自分は今日から生き甲斐が出来たんです。その楽しみを邪魔しないで頂きたい」


「…なんで上層部はこうも曲者揃いなんだよ」


バーサーカーに盗撮犯に無表情の引きこもりetc…。他にも一癖二癖ある人材が集まっている上層部は黒井と比較的東城がまともな立ち位置であった。


「神無月君、生き甲斐とはなんなんだね?わしは弟子の見本になる事だが」


老化による衰えを憂いた彼は、一縷の希望を賭けて葉月博士の没になった試作品である、身体中の細胞を意思あるとある細胞に置き換える身体強化薬の実験台になった。彼は今、愛弟子と一緒に、葉月博士の意図していなかった作用である一時的な筋繊維の増殖や思考速度の向上を使って楽しい老後を過ごしていた。それはもう海上を散歩したり、2人だけで房総半島へ渡ってアイクとステゴロしていたり、飛んでいる羽虫に槍を投げたりと東城があまりの羨ましさに泡を吹いて気絶した程の充実ぶりであった。当の東城は『あんな化け物を放し飼いにしているのは何処のバカヤローだ!!』と優雅な生活を営む彼等を今でも羨んでいると彼は思っている。


「妻が出来まして、男としてかっこいい所を見せたいなと」


「それはめでたい!わしも応援するぞ!」


変なの同士の通じ合いを見た件の妻は言語が分からないかの様に頭を悩ませたが、とりあえず向こうは好印象を持っているのだろうと思考を放棄した。


「神無月君、とりあえずおめでとう。仕事で引きこもっていた君が何処で出会ったんだ?」


神無月は黒井の方を向くと淡々と話し出す。


「アイクの襲来前にあった家同士の見合いです。亡くなったと考えておりましたがご存命でレジスタンスに所属しており、大変美しくなられてました」


黒井はそれを聞いて、興味を持ったのか続きを話すように求め、神無月はそれならばと説明を始めた。


「元々、大変お綺麗ではあったのですが、見合いの際には気が付かなかったとても可愛らしい内面に惚れてしまいまして。現在、恥ずかしながら浮かれてしまっています」


「ほぉ〜…そんな女性がうちにいたのか…」


そんな男同士の会話を聞いて意識を何処かに飛ばしていた弥生に悪戯心が沸いた芽衣は3人にお茶を渡すついでに一言呟く。


「…お相手はそこの弥生さんなのです」


「そういえば皆さんにその事を言い忘れておりました。ありがとうございます芽衣ちゃん」


表情が乏しいだけでかなり内心を読めてきた芽衣と元々表情豊かな人間だった神無月だけが気にせず好きな人がいる事の素晴らしさ等で恋バナをしていたが、他の人物は理解が追いつかずフリーズしていた。


「えぇ、分かります。今が一番幸せかもしれません」


「きゃー!!」


「…ちょっと待てぇ!!本当にそうなのか?三田司令」


弥生は先程から手で顔を隠し、ソファーの上で体育座りしていたのだが、黒井の質問に慌てて姿勢を正して一応そうだと答える。


「そうです、せっかく仲人になってくれそうな人がいるのですからこちらの書類に署名を頂いてもいいですか?」


弥生は渡された結婚届を即刻突き返すと、「今は嫌です!」

と答える。それを聞いた神無月は無表情で大粒の涙を流し、指揮刀を腰から外してビニールシートを要求すると片隅に座る。


「神無月司令?何をしているんだ?」


「ハーッハッハッハ!!こりゃー傑作だ!グフフ…気に入ったぞ!」


大笑いする園上の横の黒井が困惑しつつ聞くと、

「もう生きる理由が無くなりました…せめて最後に誠意を見せる為に腹を切らせて下さい…」とさめざめと泣いて指揮刀に白いハンカチを巻き出した。


「待て!早まるな!少なくとも仕事を引き継いでから汚れてもいい場所でやれ!」


「あーあ…可哀想なのです…」


黒井に急いで指揮刀を取り上げられ、めちゃくちゃな事を言われた神無月を見ていた芽衣が弥生を責めるような目つきで見て呟いた。しかし口角はヒクヒクと動いており、わざとらしく聞こえるように呟いていた。


「一目惚れした相手に生きて会うために死にものぐるいで頑張ったのに…振られるなんて…」


芽衣は【今は】嫌ですという発言から弥生も満更でもない事はよく承知したが、それはそうとしていつかの誰かを思い出す遠慮ぶりに少し気分を悪くした。その為、少し悪戯をしようと演技を始めた。


「しかも理由はおそらくしょうもないのです。こんなに心を奪っといてサヨナラなんて…悲しいのです。神無月司令が浮かばれないのです…」


「ちょっと芽衣ちゃん!人聞き悪いこと言わないでよー!なんか悪者にされてない?!」


芽衣はわざとらしい泣き真似と声色で悲劇の語り手になると、弥生は誤解を解くように芽衣に叫ぶ。それに、そのまま芽衣は悲しそうに続ける。


「しかも無自覚なんて酷いのです…。女の子の盗撮をしていくうちに人の心を失って畜生道に落ちた外道の極み、救いようのない邪悪なのです。信じられないのです」


「なんでいきなり結婚届出してきて、突き返されたら切腹しようとする人の肩を持ってるのー?!正気に戻って芽衣ちゃん!」


芽衣はわざとらしく神無月を抱きしめて背中をさすると、弥生をニヤニヤしながら睨む。


「あー!もー!何とかしてぇー!六花ちゃーん!」


弥生が叫ぶと、勢いよく娯楽室のドアが開いた。そこには六花が立っており、芽衣を一瞥してそばに寄ると一言言う。


「やめなよ、メイちゃん。見合い相手の顔が弥生さんと違って化粧して無いから分かるはずなのに何度も顔を合わせても気が付かない程度の貧弱認識力で不義理のお手本みたいな所業をしたどうしようもない盗撮魔だからっていじめちゃダーメ!」


「う゛わぁぁん!!姉妹揃って意地悪ー!!」


姉妹揃って、しまったと顔を見合わせたが、六花がウィンクをして目にも止まらぬ速さで立ち去る。芽衣はそんな恋人に抗議の声を上げつつ、困ったように弥生を見た。


「…ごめんなさい、弥生さんが…いつかの自分みたいで意地悪したくなったのです…」


芽衣は弥生を抱きしめると、よーしよしと言いながら謝罪をする。未だにおいおいと泣き続ける弥生に芽衣は申し訳なさそうに息を吐くと、弥生の耳元に顔を寄せる。


「それと、弥生さんが可愛い反応ばかりするから少しイジメたくなってしまったのです。お詫びならなんでもするのです」


弥生は少し泣き止むと、芽衣の顔の横で呟く。


「…アイドル衣装も着てくれる?」


「その代わり曲と衣装とステージは用意して欲しいのです」


「…2人でデートでもいい?」


「りっちゃんに許可は貰っておくのです。反対したら今回の件で黙って貰うのです」


「…わかった。許す」


ホッとした顔で芽衣は今より少し力を入れて抱きしめると、優しい声で囁く。


「その代わり、健介お兄ちゃんに釣り合わないなんて考えないで欲しいのです。見た目より完璧でもなければ真面目でもないのです。…表情が抜け落ちているだけで感情豊かな面白いお兄さんなのです」


「…わかった。頑張る」


芽衣はそれに嬉しそうに頷くと、深呼吸した後、真面目そうに語りかける。


「頑張る弥生さんに私からいい呪文を教えてあげるのです」


「?」


芽衣は弥生の顔を両手で優しく包むと、目を合わせて呪文を唱える。


「…私が保証するのです。弥生さんは可愛くて綺麗な心の持ち主で、仲良くなったみんなが夢中になっちゃう位の愛嬌の持ち主なのです」


「え?でも「でもじゃないのです。弥生さんは可愛いリピートアフターミー」えぇ…弥生さんは可愛い「もう1回!」弥生さんは可愛い!「よく出来ましたなのです!」えぇ…」


顔から手を離した芽衣は弥生の鳩尾の上に人差し指を1本立てて、軽く突くと本人が考える不敵な笑みを浮かべる。


「…自分を卑下するのは敵の付け入る隙を生じさせるのですよ?そんな余裕があるのなら味方を作り出すのです。りっちゃんに教えて貰ったのです。もし平和を望むのなら戦う準備をするのです」


「汝、平和を欲さば戦の準備をせよ…強さを通じた平和論ね」


基本はほわほわとしているイメージの芽衣から出た処世術に園上が「そういえば、六花に言ったか?」と思案しているのを除き男性陣は驚いている中、芽衣は嘆息する。


「まぁ、私にはりっちゃんみたいに圧倒的な力で押さえつけるのも、ヒナちゃんみたいに賢く立ち回るのも不可能なのです…。…それなら敵対勢力が勝手にいなくなれば解決するのです」


「…そんな無茶苦茶な」


弥生は何を言ってるのかと顔を背けて苦笑するが、芽衣はそれに簡単だと胸を張って答える。


「良く相手を調べてから、自分の使えるもの全て使って末端から餌で釣って崩していくのです。人物像、価値観、何が好きで何が嫌いか…こちらの方が利のある様に感じてもらえばいいのです」


その場の軍人達はとある事を思った。力や恐怖による制圧を行う姉妹に隠れているが、相手取ると面倒なのは芽衣のやり方ではと。集団内の裏切りやそれらへの疑念で起こる不和に染み込むように構成員へ芽衣の影響が入り込む。そして内部闘争を起こさせて芽衣派閥を作り出し、それを取り込む。そしてきっと本人は気がついていないか見ない振りしているが、芽衣の意図を汲んだ仲間…信者によって残りの排除が行われる。これでめでたく平和になるという寸法である。皆が芽衣を愛し、芽衣が皆を慈しむ。さながら、


「…まるで宗教だな」


園上の呟きに軍人達に頷く。あの姉妹にいつも振り回されている数人はこれを発動しない様に抑えている2人に感謝をした。ちなみに、これは既に行われた事で芽衣が研究して完成させてしまったものである。その際、芽衣が卒業するまで『全校生徒が皆仲良し』(すうひゃくにんのきょうしんしゃ)の『諍いのない平和』(そうごかんししゃかい)が出来上がっていた。


「…六花には感謝しておこう」


黒井が頭を抱えて呟くと、神無月は少し考え込む。そして、首を素早く軽く振ってそれを言うのは野暮だと口に出す。そして芽衣はワゴンを押してコーヒーを各人に運ぶと、


「弥生さんの邪魔者になりそうな人物は対応済みなのでさておき、今日から私たちのシンポジウムに参加してもらうのですよ」


芽衣はポケットからメモ帳を取り出し、ニカイ堂への行き方と開催日時を書くと八幡に渡す。それに八幡が頷くと芽衣はニコリと笑い、時計を眺めてから弥生にそろそろりっちゃんが帰ってくると伝える。


「あぁ…もうそんな時間か…」


「意外と楽しかったのです。今度はアイドルとして海軍部に来させて貰うのです」


そして、弥生の耳元に近づいて肩を軽く叩いてから顔を寄せる。


「またね♪弥生ちゃん」


顔を赤くして固まる弥生を心配そうに見ていた神無月には、一言だけ


「弥生さんを幸せにしてね?健介お兄ちゃん」


と言う。

そして、園上に飴のお礼とハグをすると最後に黒井に近づいてゆっくりと抱きしめると、


「今日は頑張って私もお料理作るからすぐ帰ってきてね?…パパ♪」


と上目遣いで言い、そのまま扉に向かう。扉前で振り返りスカートを摘み、膝を曲げてカーテシーをすると失礼しますと言い立ち去る。


「…流石は日本レジスタンス最高権力者です」


「心臓に悪い…!」


「次は最中でも用意するか…?」


「それでは皆!迅速に解散!」


それぞれの大人達が芽衣に翻弄されるのを遠くからとある人物達が見ていた。


「すごーい。芽衣ちゃん最強じゃな〜い?」


「ヒナちゃんから聞いた限りほぼネグレクト家庭からああなったのは、姉による教育の賜物ね…」


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