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日向の自警団体験 外伝 弥生の聞きたいこと

「…やっぱりこれは聞かないと気が済まないな…」


一通り芽衣に六花を口説かない事を説明した吉継は辛抱たまらない様に絞り出すように声を出す。


「芽衣ちゃん…」


「何なのです?」


「…その指輪は何?」


ようやく芽衣の左手薬指に光るものについて説明を求めた。目立たない様つや消しをされているが、薄い水色の宝石が嵌った指輪は丁寧に石の周りが花の形となっており、指輪を1周する様にένα για πάνταと彫刻されていた。


「恐らくりっちゃんの血液由来の貴金属で作られたりっちゃんからの結婚指輪なのです。詳しく言うならりっちゃんの血液由来のプラチナリングと思われるものなのです」


「もしかしてだけどこれもか?」


吉継は同じ箇所につけている指輪を見せると、


「素材は同じですけど作ったのは葉月さんと平賀さんなのです」


「これに比べたら人間離れした彫刻がされてないか?」


「宝石自体も見たことないものなのです…」


芽衣は手元に光る不思議な指輪を見るが、六花に聞けばわかるだろうと大事に撫でてから見るのをやめる。吉継は時計を見ると急いで荷物をまとめて立ち上がる。


「もうこんな時間に…」


「あ!お仕事邪魔してしまったのです?」


吉継はそれに首を横に振ると、元々確認の為に来たと伝える。そして、服を整えるとドアに手をかける。


「三田司令、芽衣ちゃん、黒井司令長官との会合が遅れてしまうので失礼いたします」


「弥生さん!起きて欲しいのです〜!」


「ん〜?…ごめんなさい!栗原君またねー」


床から手を振り、弥生が吉継を見送る。そして弥生はのそのそソファに座ると芽衣に手招きする。それを見た芽衣が弥生の横に座ると、弥生は抱き抱えて揃えた自身の足の上に乗せた。


「う〜んいい匂い。自画自賛ながら芽衣ちゃんに似合ってるね〜」


「くすぐったいのです〜!」


芽衣の髪に顔を埋めて芽衣吸いをした弥生は、そうだ!と呟くと芽衣に質問する。


「芽衣ちゃんって六花ちゃんが好きなのは何時から?」


「7年前の7月で一目惚れなのです。もっと詳しく言えるのですけど…」


「…本当によく覚えてるわね」


ふわっとした答えかと思っていた弥生は即答で具体的に帰ってきた芽衣の発言に少し呆れる。そして詳しくは聞かない事として、1番聞きたいことを聞く。


「芽衣ちゃんってさー、…いつ六花ちゃんと女の子同士でも…なんていうか…そういう関係になろうと考えたの?」


弥生はかなり気を使って恐る恐る聞いたが、芽衣は微笑みながら懐かしそうに少し目線を上に向ける。


「…最初に芽生えたのは小学生3年生の頃いじめから助けて貰った時なのですが…その時は諦めるしかないと思っていたのです。諦められなくなったのは小学6年生の頃なのです。その日は…



芽衣12歳の夏…



六花が中学生になって、取り巻く環境の変化が起こった事から来るストレスで芽衣は反抗期を迎えていた。親はほぼほぼいない為、六花にその矛先が向いた。今日も不機嫌な芽衣を見た六花は何とか笑顔になってもらおうと声をかけた。


「メイちゃん大丈夫?プリン冷やしておいたよ?」


「…りっちゃんはプリンで機嫌を取ろうとするのをいい加減やめて。私りっちゃんの1つ下なんだよ?」


「む〜…メイちゃんが苦しそうにしてると僕も胸が痛くなるんだよね…」


少し膝を曲げた六花が不機嫌な芽衣の頬を撫でるが、芽衣はそれをはたいて拒絶すると芽衣が自分の部屋に入っていく。それを心配そうに六花は見つめ、廊下からは日向が天真爛漫な姉の変化に戸惑いつつ、リビングを覗いていた。そして芽衣がいなくなると六花に駆け寄り、困惑しつつ抱きつく。


「…芽衣お姉ちゃん…どうしちゃったの?」


「メイちゃんはね、少し疲れてるんだと思うんだ。しばらくしたら元のメイちゃんに戻るから…気にしなくていいからね?」


それを聞いてしまった芽衣は大変面倒な状態になっていた。


「…」


『やっちゃったー!どうしよう…りっちゃん怒ったよね…?でも、りっちゃん頼りの状況は変えないとだし…でもぉ…』


事の発端は1ヶ月前クラスメイト2人の話を盗み聞きした時聞こえた一言、

【この歳になって何でも頼りっぱなしは不味いよね…】

というものだった。クラスメイトが発言した真意は家事の手伝いをしないとというものだったが、芽衣はそれを大変悪い方向に誤解した。その為、甘やかしてくる六花を突き放して迷惑をかけないように自立しようとしたのだが…芽衣は六花に姉妹愛を超えた愛と幼少期から鍛えられた顔色を伺う癖を持っていた。その結果、


「あぁー…!りっちゃんのあの顔が離れなくて罪悪感で死にたい…!誰か殺してぇ…」


という自爆ダメージを受け続け、自己嫌悪で体調が悪くなっていた。しかしやめてしまっては中学生として新たな交際関係を築いているだろう六花にまた迷惑をかけてしまう。あの甘やかしの天才兼悩みの種から自立する方法が会話の回避しか思いつかないので、心をすり減らし今日も頑張っているのである。


『…メイちゃ〜ん?一緒におやつ食べようよ〜?』


「…!いらない!」 『うぅ…辛いよぉ…』


「今からダイエットは身体に良くないよ?」


「太ったって言いたいの!」『うわぁーん!りっちゃんごめーん!』


「ごめんね…ご飯出来たら呼ぶから…」


「ふん…!」 『胸が痛いよぉ…ごめんねぇ…すぐにきちんとした子になるから…』


芽衣は部屋の端でうずくまると、自己嫌悪から声が漏れないように泣き出す。そして泣き疲れるとそのまま床に倒れる。


「メイちゃん!!一体どうしたの…?原因も分からないし、日向も珍しく戸惑ってるし…。僕なにかしちゃったのかなぁ…」


芽衣が倒れた音を聞きつけた六花が駆け寄り抱き抱える。六花は芽衣の変化後から情報を集めているが、マスコットとして学校全体から保護されている以外問題は無いし、何か言われた等もない様だった。しかし現に芽衣は変化しているし、隠しているが僅かな表情からあれが芽衣がやりたくてやっている訳では無いであろう事は確かである。


「何か僕らには言えない事に巻き込まれた!?…のかな…?」


…結果を言えば、甘やかしを受け止めつつ【六花に子供扱いはやめて欲しい】ときちんと伝えれば良かったのだが、変に頭を使った結果これなのである。


その後起こされて、日向と六花に心配した目で見られ、内心泣きそうになりながら芽衣は夕ご飯を食べると、いつも通り部屋に籠る。


「…もう嫌…こんな時はあそこに行こうかな…」


芽衣は大きめのリュックサックを背負うと、山の中にある神社の社にこっそりと向かう。芽衣はこの1ヶ月で掃除と片付けをし続け、そこを秘密基地としていた。


「…今だ」


廊下に2人が居ない事を確認すると、足音を立てないように靴を履いて外に出る。蔵の横を通り、懐中電灯をつけながら茂みに隠れた細い山道を進む。少し離れた所で周囲の確認をするも追跡されている様子はなく、芽衣は山道を辿り中腹にある社を目指した。


「んー?なんか動いた様な気がするー」


「鹿じゃないかな?ヒナちゃん」


「鹿かもー」




山中


「はぁ、はぁ、相変わらず険しいなぁ…」


芽衣は体力増強を心に誓いながら必死に登山をする。もうすぐ社に着く事がわかっている為、芽衣は数分前から休憩しつつの移動をやめ、勢いで登っていた。


「相変わらず細い道…。しっかり照らしながら安全に進まなきゃ…」


納屋から拝借した懐中電灯は足元を照らすが道の先に向けてもうっすらと木の幹が見えるだけである。照らされた道も砂利が混じり滑りやすくなっていた。芽衣は一歩一歩慎重に歩き、来る事につけていた赤い紐の目印を懐中電灯で照らして辿っていた。




「ようやく着いたのです…」


芽衣の持つ懐中電灯が社の壁を照らし、芽衣は安心して一息つく。そしてそこに向かって歩みを進める。しかし、この時芽衣は社に気を取られて足元の確認が疎かになっていた。足元の土を固めた道が崩れ、丁度そこに乗っていた芽衣は軽い浮遊感を感じる。


「へっ?!きゃぁ!!」


芽衣の身体は重力に従い、道に面する急斜面に落ちる。芽衣は手足でブレーキをかけようと試みるが、転がる身体が都合よくどこかに引っかかることは無かった。そのまま芽衣は転がり続け、少し跳ねた後、強く地面にぶつかり止まる。


「…痛たた。酷い目にあったなぁ…」


木にぶつかることもなく、落ちた高さもそうでも無かったようで芽衣は見た限り擦り傷だけで済んでいた。キョロキョロと上体を起こし見回すと、そこは見覚えのないところであった。


「ここは何処なのです?よいしょ…っ!!」


立ち上がろうとする芽衣が感じたのは右足首の激痛であった。すべった際に捻ってしまった様で歩けなくはないが山道を下るのは不可能と理解出来る位の痛みであった。


「…りっちゃんが言っていたよね…?出来るだけ山で遭難したら安全な場所に避難して助けを待つのがいいって…」


何とか周りを見ると自分が跳ねて落ちたのは古い廃トンネルの入口だった様だった。とりあえず雨風をしのげそうな廃トンネルに足を引きずりながら入ると、中は人が数人入るくらいの洞穴になっていた。


「きっと防空壕かなぁ?外よりは風が吹き込まないし、いいかも」


中を照らしつつ壁に手をついて進むと、1番奥に積まれていた箱に腰を下ろす。リュックサックから蚊取り線香を取り出すと容器に入れて火をつけ、水とお菓子類を取り出す。それらを箱の上に置くと、痛む足を見る。骨は折れていない様ではあったが、腫れており熱を持っている。


「…本当についてない」


ガッカリしてため息をつくと、お菓子の袋を開き食べる。大人しく六花の助けを待つことにしたのである。


「待つしかないよね…すぐ来てくれるかな…」


次のお菓子を取ろうとした時、ふと胸元に目をやる。その時、いつもつけている六花に渡されたお守り(GPS)が着いていないことに気がつく。


「…きっとバチが当たったのかな」


芽衣は小さく笑いながら上を向く。そして体操座りになり、顔を組んだ手に埋める。


「…助けて、りっちゃん…ごめんなさい…」


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