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日向の自警団体験 外伝 メイド芽衣ちゃんの1日

しばらく脇道の道草を食います

今日は髪をポニーテールにまとめて、耳に雪の結晶を模したマグネットピアス。前髪は水色とオレンジのヘアピンをクロスさせて留める。今日の戦闘服を身につけ、シワを伸ばす。スカートが長くて少し動きにくいけれどそれを含めて大人っぽく落ち着いた雰囲気で好みだった。少し身体を左右にひねり、スカートがヒラヒラと動くのを見て顔が緩むのを何とか抑えると、胸元の4種の花があしらわれたコサージュを整え、ホワイトブリムを頭に着ける。用意が整うと、今いた仮眠室と執務室を繋ぐドアに手をかけ、深呼吸してから入室する。


「ほわぁ…しゅごい…」


「芽衣ちゃん…本当にやらなくても良かったのですよ?」


本日の【先輩メイド】とその主人が一瞬目を見開き、それぞれの反応をする。八幡日菜子は頭を抱えて困った様に、三田弥生は手に持ったカメラを手から落として呆けている。


「お待たせいたしました。お嬢様、日菜子お姉様。本日に限り、黒井芽衣がお嬢様のメイドとして働かせて貰います」


「…本当にとてもこれ以上無く申し訳が立たないので口調を戻して頂けませんか?芽衣ちゃん」


「完璧なメイドより…見習いメイドさんを所望していたのだけど…これもこれで…いや!火力高すぎて辛いから戻って芽衣ちゃん!」


芽衣はぷくーっと頬を膨らませると、顔を逸らす。


「頑張って練習したのに無駄になったのです!!」


「本当に申し訳ないです…」


「うっぐ…!がゎい…」


今日は芽衣が約束してしまった『部屋が綺麗なままだったらヴィクトリアンメイド服を着てお手伝い』の日である。その為に六花を使い練習したのにこの結果である。ため息が漏れるのを咳で誤魔化し、芽衣は次の事に移る。


「仕方ないのです…。お仕事始めますか?」


「それがなのですが…ね」


「昨日勢いで終わらせてしまったそうで。…いつもそうなら良いのですが…」


まぁ、今日の演習記録とか目を通すだけの資料はあるのだけどねと弥生は言うとモニターの方を少し見る。


「あとは来客の対応ですが…まぁ大丈夫でしょう。本日は主に三田司令の話し相手としてよろしくお願いいたします」


「頑張ります!」


「あ゛あ゛がわい゛い゛」


机に突っ伏し、奇声をあげる上司に八幡が冷たい目線を向けると、芽衣にお茶の用意を頼み外へ出かける。芽衣は仮眠室にあった金属缶の中身が紅茶だった思い出し、ティーポットと茶葉、それにやかんの用意を始めた。


「〜♪〜♪♪」


「お嬢様、一息つかれてはどうでしょう?」


「ん〜?ありがとうねー」


芽衣から紅茶を受け取り、幸せそうに啜る弥生。それをニコニコと芽衣が眺めている。


「お茶を淹れるのすごい上手だね、芽衣ちゃん」


「練習した甲斐があったのです」


「これはもはや…おっと!お客さんみたいだね?」


微かに聞こえる足音で客を感知した弥生は紅茶をソーサーに乗せて、応接スペースのテーブルに置く。服装と姿勢を直すと紅茶を1口飲み、ノックを待つ。すぐに4回のノックの音がなり、芽衣は部屋の端に移動する。


「どうぞ?…芽衣ちゃん、紅茶もう1杯持ってきて貰ってもいいかしら?」


毅然と入室許可を出した後、静かに芽衣に紅茶の追加を頼む。芽衣は急いで仮眠室に入り、ついでに弥生の分も新しいものを用意する。カートにミルクと砂糖、一応レモン果汁も用意し、来客用とメモに書かれたお菓子類をスタンドに並べる。向こうからは微かに声が聞こえてきており


「いらっしゃい、座ってちょうだい。今お茶とお菓子を用意させるわ。のんびり話でもしましょ?」


「はぁ…いいですけど。あんまり女性と2人きりだと後々過保護な小姑に撃たれますので…」


耳をすまして聴いていると、弥生がノリノリで用意していたベルがなる。芽衣は急いでカートを押して執務室に入る。


「失礼いたします。お嬢様、お客様への紅茶とお嬢様の交換用をご用意いたしました」


「ありがとうね。助かるわ」


「あ、どうも…って芽衣ちゃん!!」


「お客様って栗原さんだったのです?!いつもお嫁さんにはお世話になってるのです!」


「…色々ツッコミたい所はあるけど丁寧にどうも。まずはお宅の妹さんのお陰でほぼ内勤となって、さらに中佐候補の少佐として将校にしてもらったんだよ。渉外役として働かせて貰ってるよ。妹さんからは『お気に入りをむざむざ失う趣味はないから』って事らしいけど…。ところでそっちは何故メイド服で三田司令の所に?」


「八幡さんから何とか弥生さんのお部屋を綺麗にしたいってお願いがあったのです。どうせ片付けしてもすぐに戻るから、部屋を綺麗にしていたらこれを着てお仕事手伝ってあげるって約束したのです。これはそのご褒美なのです」


「小物は私物らしいけど服可愛くなーい?作った労力が報われるわー!」


このままうちの子になってくれないかしらー!とのたまう弥生に苦笑いした吉継は答える。


「コサージュは上向き、水色とオレンジのヘアピン、挙句に雪を模したピアス。三田司令、高速で振られてるじゃないですか…」


「な!何を根拠に!」


動揺しつつ強気に返す弥生に目を伏せ、やれやれと語る吉継。


「…コサージュが上向きの意味は既婚者だからアプローチしないでください。自分を示すオレンジと誰かさんの水色のヘアピンをクロスさせて留めた髪。おまけに雪のピアスなんて…どっかで見たアピールですよ」


「元祖はこっちなのですけどね」


「…ご教授のおかげか涼花ちゃんはいつも俺を苦しめてくれます」


「セリフは涼花ちゃんから教わってからこちらも好感触なのです。よろしく言っといて欲しいのです」


サラッと返す芽衣に、困惑したように芽衣を見る吉継。吉継が芽衣ちゃん変わったなと言おうとした際に芽衣はそれを遮り、話す。


「これまで猫を被って自分の気持ちに我慢と言い訳をしてきただけなのです。…こんな図太い私は…嫌いに…なっちゃいますか?」


ねだる様に前で手を組み小首を傾げた芽衣を見たその時、弥生は気絶し、吉継は本家本元は火力が強い!!と顔を逸らし、六花はメイちゃんが今日もメイニウムを振りまいてるなぁと考えた。


「…あー!わかったわかった!!六花が羨ましいぜ…」


「ふふっ♪羨んでも私はりっちゃんだけのお嫁さんなのです♪」


「…ただでさえ暴力的な可愛さだったのに、この本性はずるいだろ…」


前から六花よりわかってないねと後方腕組みをされていた吉継はその正体を知り、顔をおさえる。


「でもりっちゃんには及ばないけど涼花ちゃんがしてもらった事は少しかっこいいと思うのですよ」


「なんかしたかな?」


それを聞いた芽衣は何を言ってるのです?と言った後、


「コンプレックスの射撃をマンツーマンで教えて出来るようにして、涼花ちゃんが限界になると見計らった様にデートに誘って、数年会えなかったお父さんを家に帰してくれて、極めつけに、それも涼花ちゃんが迷惑をかけられないって言ったから、初対面の時の射撃教官さんに言った事と同じように『それは肯定と判断しますってね?』って!!かっこいいのです!!」


「…まじで?」


吉継視点はただ、射撃が下手な見覚えのある美少女がいたから教官を振り払って指導の体裁で接触したら仲良くなって、日々の疲れを癒すためにスイーツを奢ってそれを眺め、悩んでそうだったから父親の源一郎に聞いたら、知らんと言われたので娘が苦しんでるのに助けないなんてそれでも父親か!と喧嘩になり、何とか吉継が勝ったら、毎日家に帰れるようにすると、源一郎が司令部施設に乗り込み、上官2人を叩きのめして急遽食料プラントの長となった。仕方ないので当たり障りない事を言ったらガチの目を向けられたのでカッコつけただけである。しかも叩きのめされた後も反対していた2人をとある幼女が賛成するまでしばき倒していたのであまり自分の手柄の感触は無かった。


「余所見しないで涼花ちゃん一筋なのが高評価なのです。芽衣ポイント1000点プラスなのです」


「…美少女の中でも上澄みの涼花ちゃん見て大分可愛いのライン上がってしまっただけなんだよな…」


朝起きたら目の前に愛を囁く国宝級美少女、ご飯食べても、仕事しても、恥ずかしがって入って来ないお風呂の時以外は涼花がいる生活はある意味、涼花の作戦通りの結果をもたらしていた。


「ところで芽衣ちゃん。女の子が俺に仕事以外の会話をしようとすると、涼花ちゃんが威嚇するようになったのだけど…知らない?」


例を挙げると、ある時、2人が実質婚約済みの関係というのは広く知られていないため、高給取りの吉継を狙って休日の予定を聞いたとある女性事務官がいたが、涼花は吉継の後ろで拳銃の薬室を確認し、ブルーシートを女性事務官の後ろに用意し始めていた。他にもナイフを抜いて刃先を触っていたり、後ろに忍び寄っていたりしていた。


「…それは涼花ちゃんの個性なので愛してあげて欲しいのです。…あの時、随分言ってくれたけど涼花ちゃんだって愛が重くて、自己肯定感が地面スレスレで、引っ込み思案の癖に強がりのガラスメンタル妄想癖なのです」


それら全てを優しそうな笑顔で芽衣は言うと、


「でも頑張り屋で一途でロマンチストの可愛い子なのです。…なーんて栗原さんはわかってるよね?」


そう楽しそうに芽衣は言う。それに吉継は軽く笑うとコクコクと縦に首を振る。


「うちのお嫁さんと是非とも仲良くしてね」


「…それはいいけど、りっちゃん口説いたら尿管に結石作るのです」


「ぜっっってえ有り得ねえ!!誰があんなのと!!」


「りっちゃんに魅力がないというのです!?」


「あぁぁ!!めんどくせぇ!!」


弥生は床に転がされながら思った。

【てぇてえな…】


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