日向の自警団体験 2日目 最下層
翌朝 自警団本部
「~♪」
「おねーちゃんご機嫌だね!」
「アレをメイちゃんにこっそりやったんだよね」
「えぇー…確かに喜ぶだろうけど…」
日向は姉の色々考える事のある行動に引きつつ、ノックをして治安維持クラスの部屋へ入る。中には嫌そうな顔をした凛と机から顔半分だけ出した紗奈がいた。
「…もうアクション映画みたいなのは勘弁だから!」
「今日は2人とも特別捜査部に配属されたのでよろしくお願いしますぅ…」
机の下からそーっと机の上に書類が置かれ、そこには地下の地図と特別捜査部への異動届が置かれていた。六花達はそれを受け取って読むと、凛を2人で抱えて部屋を出る。
「ちょっと!!私を攫うんじゃないわよ!!」
「残念ながら凛ちゃんは一緒に行く側だよー?」
「うーん…問題児への生贄かな?」
紗奈姉助けて!と凛は叫ぶが、非情にも机の向こうからひょこっとレジスタンスの手旗が振られるだけだった。
「おぉ!凛!元気…は無さそうだな」
「景信お兄ちゃん…助けて…」
それに「そいつは日頃の行いのせいだな。帰ったらみんなと仲良くするんだぞ」と言い、目をそらす。そして六花達を見て自己紹介する。
「俺は特別捜査部部長の上高地景信だ。部長でも景信お兄ちゃんでも好きに呼んでくれ!」
「黒井日向でーす!」
「付き添いの六道織音です!よろしくお願いいたします!」
降ろされたがグロッキーな凛を腕で引き寄せだけ景信が耳元でヒソヒソ話す。
「…日向ちゃんは分かるが、付き添いの子は振り回されただけで普通そうだぞ」
「…普通の子は犯罪者かつ非殺傷武器だからってぼろ雑巾みたいな状態にすると思う?走り去ろうとするスリに拳銃を2連射して止めたりする?」
「…よく見たらあの規則書赤表紙だから第1版じゃねーか…。なんつー物騒なもん持ってんだよあの子」
「…第1版?何それ?」
「…内容は大体犯罪者は殺せ。怪しければ半殺しにしておけみたいな事を小難しく書いてる規則書だ。懐かしいな」
ヒソヒソ話す内容を聞いていた2人は、あの人あの時の参加者だなと確信した。それも恐らくぶん投げられた側の。そうこうしていると景信が六花達に話しかけた。
「えーっと織音ちゃん?その首にかかってる手帳は何かな?」
「仲良しのお姉ちゃんから貰った規則書です!自警団の元団員だったそうなので!」
「ふーん…名前は?」
「六花お姉ちゃんです!」
その発言に景信の顔が青くなる。そして凛をまた捕まえるとヒソヒソ話す。
「…OK!あれは確実にやべぇ奴だ」
「…?」
「…お前もよく言われただろ?規則に従わないと水無月が来るって。あれは水無月の関係者だ」
「…その人何やったの?」
「…100人位の銃で武装した自警団員を投げ飛ばし、死人を出すことなく切り抜けたバケモンだ…。俺は窓に向かって早々に投げ飛ばされて気を失ったからあまり良くは分からないけどな」
「ねー?お仕事何すればいいのー?景信お兄ちゃん」
痺れを切らした日向がせっつくと、景信は慌てて説明をしだす。
「うちらは犯罪多発地帯での治安維持をする部署だな。まぁ基本の仕事は危険地帯のパトロールだが…。武器は持ってるんだったな?」
その問いかけに日向は腰元のダーツガンを机に置き、六花はリュックサックを置いてドサドサと銃器を置く。
「日向ちゃんは予想通りだが…織音ちゃん?戦争でもやるつもりか?」
リュックサックからは閃光手榴弾2発、アサルトカービン一丁と4個の弾倉、オートマチックハンドガン一丁と2個の弾倉、特殊警棒1本、小型単発グレネードランチャー一丁と催涙弾10発と小型ナイフが出てくる。更には身体にフィットしたチェストリグとリュックサックの背中につかない側には折りたためる黒いバリスティックシールドが付いていた。
「でもお姉ちゃんは日向ちゃんについて行くならこれくらい必要だって言ってたよ!」
「うーん…ぐうの音も出ない」
六花的にはシールドは無くてもいいが、まぁ保険と鈍器を兼ねて持ってきた。保険と言っても凛用の保険としてだが。流石に巻き込んだ手前、無事に返さなければいけないというものである。凛も持たされたらしきハンドガンを置く。
「とりあえず今日のパトロール場所に行くか!お手並み拝見だ!」
日本統治領内 居住区域地下3層
「…なるほど、話は聞いてたけど見たのは初めてかも」
「むしろ地上は商業施設とか官庁施設とかで、住むのはレジスタンス所属とか公務員とかの人口の約4割なんだよオネちゃん。学校に来てる子達は基本は地下1層以上の子だから」
六花と日向がバラックで作った積み木の様な家屋群を見ながら話していると、景信はだからこそ皆レジスタンスに行くけどなと呟く。
「その前にまずは自警団に入って読み書き算数を覚えてやる気があれば兵学校に入って下士官…ちょっと偉い隊員とか憲兵…レジスタンスのお巡りさんを目指すとかだな」
特殊捜査課は自警団の本部を使っているけど皆レジスタンスの憲兵課でね。その中で成績がいいとなれるんだぞと景信は憲兵バッチを見せて自慢する。
「もういいから早く終わらさない…?」
キョロキョロとして怯えている凛は景信にくっついて急かす。景信は仕方ないなと頭を撫でるとアサルトライフルを点検してから歩き出す。
それを見た六花は辺りを見ると、日向にアイコンタクトしてから右前を指差し、日向が動いたのを見てからアサルトカービンのコッキングハンドルを動かしてから構える。
「景信お兄ちゃん、150m先2時の方向の赤いボロボロの家で武装集団4人がこちらに銃を向けて待ち伏せしてるよ。やっつける?」
「…撃つ前に確認してくれてありがとう。非殺傷弾でやっつけていいぞ」
それを聞いた六花は4発単射で撃ち込むと、壁が崩れて2人の人物が外の廊下に倒れ出てくる。
「多分4人やっつけたと思う」
「…よくやった!」
六花は日向がこちらに来るのを見つけると、結果を聞く。
「オネちゃんすごーい!4人無力化してたよ!」
日向が楽しそうに報告すると六花は胸を撫で下ろすが、残りの遮蔽に隠れた2人は渋い顔をした。
「…最近の兵学校では射撃もやるんだなぁ…」
「…バカ言わないでよ景信お兄ちゃん。やらないに決まってるじゃない」
そうこうやっていると、1台のトラックがその建物の横で止まり、4人を運び込む。
「増援が来たか!皆隠れろ!」
「わかった!」
景信と六花が震える凛を抱えて遮蔽物に隠れると、日向はそちらに手を振っていた。そして1人が近づいて来ると、日向に敬礼する。
「ドン・ソーレ!ほぼ無傷の労働者の手配ありがとうございました!こいつらは脳震盪が治り次第第6解体工場に送らせていただきます!」
「苦しゅうなーい!こき使ってやってくれ~!」
「…なーんだヒナちゃんのお仲間の車かー」
六花は構えを解くと、安心したように手を振る。それに対し、背筋を伸ばした構成員達が敬礼するとトラックは走り出した。
「景信お兄ちゃん!パトロール続けよー!」
「犯罪者が犯罪者らしき人物に連れ去られたが…追求すると多分面倒なことになるだろうな…」
「ヒナちゃんのあーいうのは見なかったことにした方がいいんだよ?お兄ちゃん」
「怖いよぉ…」
諦めた顔の景信とその後ろの涙目の凛は六花に引っ張られる様にパトロールを再開する。