日向の自警団体験 1日目 「何を今更言ってるのお姉ちゃん…」
「やはりお風呂上がりは牛乳に限るのです!」
「服は着なよー?」
コップ片手に牛乳でヒゲを作る芽衣の頭から姉妹2人がかりでキャミソールを被せると、芽衣は仕方なさそうにコップを傍に置き、腕を通し出す。それをあれって六花ちゃんが勝手にやってるんじゃないのねと日穂が呟くと、ま〜名家の正統派お嬢様ではあるからね〜と小梅は返し、改めて見ると成長障害の典型例見たいな身体なんだけど…中学2年生時点でこれはターナー症候群…首は普通だから低身長症と診断されてもおかしくないかな?と真剣に考える遥。
「…姉の威厳」
「姉は卒業してメイちゃんは僕のお嫁さんなんでしょー?大人の女性はバスタオル1枚で牛乳は飲みませーん」
「勝手な妄想を押し付けないで欲しいのです!いくら大人の女性だってやっても良いのです!」
夢を見ないで欲しいのですとプリプリ怒る芽衣に六花はため息をつき、身体を戻して顔を逸らして呟く。
「…そういう可愛い姿は僕の前だけにして欲しい…なって」
「ふ、ふぅーん…?そこまで言われたら仕方ないのですー?まぁ…私はお姉さんなので言う通りにしてあげるのです?」
そう言いながら風呂上がりより顔を赤らめた芽衣はいそいそとパジャマを着終わると、六花に見せつけるように胸を逸らした。
「ありがとう、メイちゃん…愛してるよ」
「ひゃうっ!?もー!ずるい…!」
耳元で囁いた六花を押しのけ、六花に見えないように顔を逸らした芽衣は呟く様に抗議する。それをニコニコと六花は眺めると、自分に向けられた頬にキスをして日向達を連れて走り去る。
「ひょえっ!!あーもー!…りっちゃんのバカ…!」
それを見せつけられたお姉様方は、
「…あたし思うの。芽衣ちゃんと出会わなければ傾国の美少女やってるんじゃないかしら?」
「うーん…眼福としか言えないねぇ」
「あの時は男みたいとは言ったけど…芽衣ちゃん一筋じゃなかったらきっと女に刺されて長生きしないわよ?あの子」
そして3人揃ってゾロゾロと最近購入したコーヒーマシンを使いに行くこととした。今夜はカフェインで寝れないわねと言いながら。
「ほらーメイちゃん?こっちの布団入りなってー…」
「お姉さんだから1人で寝れるのです!」
「え〜?寂しいなぁ」
六花が布団をまくり、中に入る様に促すも頑なに2枚目の布団に入り六花に背を向ける芽衣。くっつけて敷いており、自室に戻ることもしない。つまりは可愛らしい照れ隠しである。
「じゃあ…仕方ない…」
「わかってくれたなら良かっ…ひっ!!何してるの!!」
「僕がこっちに入ろうかなって」
六花は芽衣の布団に入るとそのイヤイヤと動く身体を抱きしめる。
「はーなーしーてー!」
「前向きに検討しまーす」
それでもなおジタバタと暴れる芽衣に六花は芽衣から身体を離し、自分の布団へ戻る。
「あっ…」
「仕方ない…1人で寝るよ…」
芽衣に背を向けて六花が横になると、芽衣は布団から出た手を伸ばしていたが、力無くその手を地面につける。
「…おやすみ」
「メイちゃんおやすみ」
さて、六花は自身の妹兼彼女が大変素直で無く、恥ずかしがり屋でかなりめんどくさい性格なのは百も承知である。狸寝入りをしながら獲物がかかるのを待っていると、おずおずと布団に何かが入ってくる感覚がした。
「…別に…トイレ行った後暗いから分からなくて入っただけ…仕様がないよね…?」
ブツブツと言い訳しつつ入ってきた芽衣は、そのままモゾモゾと六花の背中すぐ側まで入り込むと静止する。
「りっちゃんが意地悪するから悪いんだもん…。これくらいいいよね?」
そして芽衣は六花の背中に抱きつくと首筋でスンスンと鼻を鳴らした。
「ちゃんと私の匂いしてる…♪」
クスクスといたずらっぽく小さく笑いながら、六花の前に潜り込み、恐る恐る六花の頬を触る。
「…可愛いなぁ」
六花は急ぎ心臓を止めながら『メイちゃんの方が可愛い!!』と心の中で絶叫し、寝たフリを続ける。
「少しくらい…いいよね?」
芽衣はそう言うと、六花の手を掴みそれに頭を撫でさせたり、抱きしめたり、指圧マッサージをしてみたりした後、おずおずと六花の人差し指にキスをし、それを六花の唇へ触れさせた。
「…まずは成功。次は確か…」
薄目で見ると芽衣はなにかの本を読みながら横になっていた。表紙には【スキンシップの恥ずかしさ軽減のコツ10選】と書かれており、どうやらその中から行っているようだった。
「フフッ♪今日こそやっちゃうから…!」
六花は唇が芽衣のものと触れた感覚がしてとてもワクワクしていた。それを感じていた時、予想外な事が起こる。遠慮がちに舌が入ってきて、六花の口腔内をツンツンした後引っ込む。
「1歩前進…だよね…?」
顔を離して、六花の頬を撫で始めた芽衣は、目を瞑り一言づつ大切そうに語り出す。
「私がおかしくなったのも、りっちゃんから目が離せなくなったのも、それに幸せだなって感じるのもりっちゃんのせいなのですよ?こんな面倒な私を暗い世界から救って、悪意から守って、何があっても安全な居場所を作るから執着されるのです。…もう我慢も諦めも出来なくなってるから…諦めていーっぱい愛してね?寝たフリするずるーいりっちゃん♪」
「…バレてた?」
「大人なキスした時にわかったのです」
「…メイちゃんを縛り付けるのはいけないとは思ってたのだけどね」
「生憎私はりっちゃんを手放す気は一切無いのです。さっきのはきちんと本音なのです」
やれやれと肩を竦める六花に、芽衣は意思の籠った目で返す。そして余裕そうな薄ら笑いを浮かべると、囁きだす。
「りっちゃんは例えるならいい匂いの花に寄せられて食虫植物に食べられた哀れな虫なのです」
「僕からしたら鴨がネギと各種具材を持って鍋に入って家に飛び込んできた位の幸運だけどね…」
その発言に薄ら笑いを浮かべていた芽衣は少し頬が引き攣るが、
「もう自由なんか無いからね…?永遠に私と一緒に何時でも過ごすのです…♪重たい愛に溺れるが良いのです」
「…溺れてるのはメイちゃんでは?」
「う、うるしゃい!!」
至近距離で囁かれた芽衣は反射的に六花を突き放した。既に余裕そうな薄ら笑いがなくなり、暗くても分かるくらいに赤面していた。
「りっちゃんのバーカ!浮気なんてさせないのです!私のものは誰にもあげないのです!」
「…メイちゃんは自分の容姿と性格、僕の言動と行動を鑑みて浮気される可能性を再計算するべきかなって…」
「っ〜!!そうやって私の機嫌とっても無駄なんだから!」
赤面しながら束縛発言をするも、六花からしたら何をこの子心配してるのかな?という話であった。芽衣はよくりっちゃんが初恋だと言うが、六花は初対面で一目惚れして以降片時も離れなかった為、むしろこんな上手くいって大丈夫かな…と思ってもいる。
「というか熱が逃げるからもっとくっついてくれない?」
「待って!今はちょっと…」
六花が抱き寄せると芽衣の身体から早い脈動と上がった体温を感じる。六花の胸元に押し付けられる顔は震えており、耳元は赤くなっていく。
「わぁーお…」
「もう止めてぇ…死んじゃうよぉ…」
六花の眼前には涙目で六花の服を掴みながら上目遣いする可愛い生命体がいた。やはりいっぱいいっぱいの状態で攻めてみたものの自爆したのだろうと六花は抱きしめられたまま抵抗らしき抵抗もしない芽衣の背中をポンポンと軽く叩く。
「…落ち着く…匂い…なの…です…」
「…おやすみメイちゃん。…愛してるよ」
目を瞑りウトウトしだした芽衣にしっかり布団をかけると、下に回っていた手をそっと抜き取り、元から空いていた手で頭を撫でる。芽衣は幸せそうに寝息を立てていた。その左手を布団の中でゴソゴソ弄ると六花は眠りについた。