芽吹いた心と開く蕾
ノリってスゲー
44分隊 自宅
「良かったなー」
「最高オブ最高でしかないですね〜」
「がんどうずるよー!」
日向は小鈴と来夏と目の前の砂糖が口から出そうな光景を見ていた。前と変わらず六花が芽衣を甘やかしているが、変わったのは芽衣が姉にこだわらなくなった為、恥ずかしそうにしつつも静かに甘やかされているところだった。日向は幼い頃猫を被っていない芽衣を見てるし、そっちの方が好きなのである。小鈴的に言うなら推しと推しのカップリングは尊いということである。
「仲良き事は良い事じゃ!」
同じく食事中の椿的には戦国の世では良くあったこととして喜ばしいのじゃとなってはいるし、珍しく小鈴がいて全員集合してる日の出のメンバーは薄々察していたこともあり、若干お祝いとなっている。2人を除いて……
「味噌汁が甘いよぉー」
「あの大量破壊兵器じみた可愛い生き物が本当に芽衣ちゃん?なのかしら?」
間接的に原因となり、捨て台詞通り本人にアタックした結果ああなった2人はとても飴の筵にいる気分となっていた。あれの翌日、2人は冷やかす為朝食をとるときに話しかけた。
『お熱いことで、お姉ちゃんになるのはどうしたのかしらー?』
『私はりっちゃんのお嫁さんになったから本人から子供扱いは無くすと言われたのです』
『今朝のあれはー?』
『お嫁さんに対するスキンシップなので問題無いのです…けど』
『『けど?』』
胸の前で人差し指を突き合わせて、上目遣いで
やっぱり好きが溢れちゃうから…程々にして欲し…いや、頑張るね…?先輩…ううん、お姉ちゃん達?
あの可愛いけど小うるさい位にしっかり者の妹分の性格が、本人が作った理性的な部分である事は何となく察していたし、何となくりっちゃんLove勢とはわかっていたが、「小動物系天然な独占欲(六花限定)つよつよピュア無自覚タラシ女子」という恋愛経験ゼロの日穂と小梅には刺激が強いリアルに存在しない生命体とは知らなかった。日穂は男だったら浄化されて消えたと思うわとその後回答していた。
「お姉ちゃん達が幸せで私も幸せなんだー。日穂姉」
「ヒナちゃんに賛成…」
「病院では謎の動悸が流行ってるわ。如月先生曰く伝染性恋の病だって。耐性のない人が突然あれを喰らえばそりゃなるわよ」
「六花がニコニコしてるならいいんじゃないかしらー?」
そんなこんなしていると、食事は大分片付きはじめて小学生2人と看護師2人はそれぞれ家を出る。小鈴は一緒に家を出た六花の首筋にキスマークがあるのを確認し、来夏と気絶した。それを踏まないようにスナイパーズはいつもの様に訓練監督任務の為家を出た。
中央病院 入院棟3階 ナースステーション
「…理由は則道から聞きましたが、芽衣ちゃん…」
「どうしましたか?」
「口癖のなのですはどこに置いてきましたか?」
如月が疲労から変な質問をするも、「もう…必要なくなりましたから」と返し、
「恋の病…治せます?」
「まだ罹患中なので…知りたいくらいなんですけどね…」
「困りましたね…どの文献を調べても伝染性恋の病は書いてないんです」
「でも最近幸せなので治さなくても…良いと思えて来ました」
「珍しいですね…精神面へのプラスの影響とは…」
過労と天然の正気度が削られる様な会話に看護師はなんとも言えない顔をし、入院患者は何故か容態が良くなり、がんは無くなったし、心筋は若返ったし内臓は全て正常に機能し始めたし手足は生えた。葉月博士曰く『…無自覚に能力が発動してる?骨密度や筋肉量に変化が無いから寧ろ謎のエネルギーで補填した?』と頭を悩ませた。
「遥ちゃん、なんか出勤したら肌が若返ったのだけど…」
「腰痛も無くなったし…」
「目もはっきり見えるわ!」
遥はとても可愛らしくなってしまった恋する妹の神秘に困惑しつつ、ベテラン看護師にきっとどこぞかの娘がここ数日前から幸せオーラを振りまいてるからでは?と言い、患者の元へ向かった。
「毎朝、目が覚めると好きな人の顔があって…キスしたくなって顔を近づけたら寝たフリしてただけで先にされちゃって…」
呼ばれない限り入院患者の相談員して働く芽衣の話を聴くのは認知症と診断された高齢女性4人組。
「きゃー!若いっていいわねー」
「こんな歳になると旦那もそういうの言わないのよー」
「そうよ!愛を囁くどころかあれはどうだったか?とかこれいるか?とか言い出して、他所から見たら意味不明よ!」
「でも何故か今日は記憶が鮮明じゃないかしら?」
ちなみにここ以外でも治したし、如月先生は天使が降臨したんですとつぶやくと院長室のベッドで気を失った。何でも何故か芽衣ちゃんが居ないフロアでも手術予定患者が異常無く治って全床埋まっていることがデフォルトの中央病院が開設以来の5割程程度に減った。
芽衣も如月から帰って良いと言われ退勤し、暇だからと昼時のニカイ堂にてウェイターをしていた。
「…あれからずっと幸せそうでなにより…」
「涼花ちゃんのおかげなのです」
「私は何もしてないよ…?羨ましいから八つ当たりしただけ…」
「おかげでこうして恋する仲間としてさらに涼花ちゃんと仲良くなれたのでいいのです♪」
涼花はため息を漏らし、本当に芽衣ちゃんはズルいと呟く。
「とーこーろーでー?涼花ちゃんの首尾はどうなのです?」
「一日1キスの条件を呑ませた…」
この美少女井戸端会議の裏には、事情により理性をすり減らして、日毎に増す可愛いの暴力に耐える者がいたが、そんな事恋する美少女達は考慮をしない。モットーは恋と戦闘にはルール等無し。堅牢な城には大和砲や核を使ってでも落とすのが恋する2人のドクトリンである。
「今日もお願いするのです」
「やっぱり胃袋掴むのが効果的かも…」
ほぼ毎日行っている涼花によるお料理教室兼女子会は2人の意見交換の場でもある。言うなれば参謀本部である。
「ハンバーグならもう免許皆伝だね…」
「りっちゃんの好物だから覚えやすいのです!」
付け合せの野菜類を調理しつつ、ドヤ顔で芽衣が答える。
「確かにオムライスなら私…お父さんに勝てる…」
「あと、りっちゃんの分だけ人参をハート型にしたのです!」
それを聞いた涼花は、その手があったか!と驚き、
「それ私も採用する…」
「結局、りっちゃんにあーんされて私が殆ど食べちゃったのですけどね…」
その日だけは冬華が茹でた人参をとても甘くて美味しいと答え、他のメンバーはしれっとデザートに回した。
「芽衣ちゃん…!胃袋掴む系料理の基本は愛情…!」
「たっぷり込めたのです!」
本日のメニューは趣向を変えデザート、オレンジケーキである。ツッコミが不在の中製造されたオレンジケーキにはハートのチョコレートとアザレアを模したピンが刺さっていた。
「それじゃ…また明日…」
「武運長久を祈るのです!」
芽衣はケーキの入った箱を抱えて公園に向かい、人影に最愛の人が居ないか目を凝らす。六花を待つ時間が数日前のあの日以降好きになってしまったのは、恋心を受け止めてしまったからなのか、それとも六花が嬉しそうにこちらを見つけて駆け寄ってくれるからなのか。それは芽衣にも分からないが、愛情の込めた料理の香りと六花の香りどちらも感じるとふわふわとした気持ちになるのは確かだった。六花は直ぐに待ち合わせに到着した。
「オレンジケーキ?美味しそうだね?」
「チョコレートがあるからお砂糖は控えめなのです!」
勿論プラスチックで作ったアザレアのピンは外されてしまうが、芽衣にとってはちょっとしたイタズラのつもりなので伝わらなくてもいい。
「凄く美味しい!」
「本当に…?どれどれ?」
芽衣はキスをすると、付いて来たオレンジケーキの欠片の味を見て、
「もう少し甘みを抑えてもいいかもしれないのです…」
これじゃ甘すぎてもっと病みつきになっちゃうから…♪
「…困ったキス魔さんだなぁ…」
「恨むならその唇にするのです」
六花は自嘲するように病みつきにされたのはどっちかな…と漏らし、私にとってりっちゃんは必須栄養素だからいいのです!と微笑む。どうやらキスへの抵抗感を無くそうと用意したのに正当化工作の格好の的になったようだった。
「そろそろ帰るのです!」
先を歩く芽衣が楽しそうに六花を呼ぶ。どうやら今日は芽衣は一緒に作りたいらしく、六花を急かす。ハンバーグが逃げるかもしれないのです!と言った時には思わず笑ってしまう六花。
「あんなに余裕そうなのにね…」
あんな事言っておいて内心いっぱいいっぱいになっている事。未だに言葉に出来ない気持ちは別の物で伝えようとすること。アザレアのピン、サルスベリのバレッタ、サツキのピアス、肌身離さない雪の結晶を模したアクセサリー、極めつけは恋人の鐘。
照れ隠しなのだろうが、花言葉やゲン担ぎを使うのは六花に気が付かれないだろうと思っているのだろう。本音だと前の口調に戻るのもいじらし過ぎて困る。そんな訳で少し六花はイタズラをすることにした。
「そうだ!これ!メイちゃん好きかなって」
六花が取り出したのは花屋で事前に用意してもらった押し花の栞。カスミソウとカランコエ、裏にはキキョウとナンテンの葉。それとディソイディアの花束。六花はらしくないとは思ったが、ちょっとした意趣返しとして用意した。
「お花?りっちゃんらしくないけど…?」
芽衣は全て確認すると、固まったままゆっくりと瞳を潤ませる。
何とか考えて作った品ではあるが、まずかったかな?という六花の心配は隠し、何も知らないように振る舞う。
「何か僕マズイ事しちゃった?」
「ううん…何でもない!」
「…そっか」
芽衣は六花をとても優しく見つめてから、耳元で囁く。
頑張って隠さない気持ちを言葉で伝えられる様になるから…ずーっと隣で待っててくれる…?
六花は勿論といい微笑むと、
「幾らでも、拙くても、どんなものでも待ってるよ」
六花の言葉に芽衣はニコリと笑うと、少し深呼吸して、手を差し出す。
「りっちゃん分充電先にしてもいい?」
「良かった、メイちゃん分も足りなかったんだ」
夕暮れの帰り道、2人は向き合って笑いながら帰路に着く。ディソイディア(小さな恋人)を守るように歩を進める。無くさないように、2人の時間を踏みしめるように。