第8話 水の勇者
水を操る勇者との出会いから、やがてとある戦いに巻き込まれていくことになります。
「…で、私は言ったわけ、いやいやそこはチーズインハンバーグでしょ?ってね」
荒野を歩く男30歳と、剣。
「はいはい」
洞窟を抜けて、アオイの知り合いの情報屋がいるという街に向かって歩いている所だ。
「…ねぇ、ちゃんと話聞いてる?」
声にビックリしたトカゲがささっと岩陰に隠れた。
「はいはい」
今日はポカポカ陽気だ。
「…話きいてなかったでしょ?」
あの雲、ソフトクリームみたいだな。
「はいはい」
「こらーーーー!!」
ミキオはふと思った事を口に出してみた。
「アオイって、髪の毛サーモンピンクとエメラルドグリーンのグラデーションだったりする?」
一瞬の沈黙のあと、
「そんな変な髪のやついるわけないでしょう!あんた私のこと馬鹿にしてるのね!」
アオイは剣先をブンブン振り回した。
目の前を大きな鳥が横切っていく。
あれは鷹だろうか、鳶だろうか。
「あっ」
アオイは前方の岩を剣先で示した。
「あそこの人の顔した岩を越えると、街が見えてくるわよ」
アオイは駆け出していた。
「久々ねぇ、あいつ元気かしら」
「足元でかい石だらけだから気をつけろよって、浮いてるから関係ないか。まあ剣だし…」
ミキオも追って走る。
「キモいわ、なに1人でブツブツ言ってんのよ」
行く先は結構大きな街のようで、ミキオも内心楽しみにしていた。
アオイの言っていた顔の形の岩を通り過ぎる。
すると丘の上から下を見下ろす様な地形になっていた。
眼下には、遠く霞む街並み…ではなく、川の濁流が広がっていた。
「あれ…」
アオイは立ち止まった。
ミキオも立ち止まった。
「まさかとは思うけど、君の友達は…河童か何かかな?」
「…絶対私のこと馬鹿にしてるでしょ」
近づくほどその濁流は激しく、とても渡れそうにない事が分かった。
2人は川沿いに歩き上流を目指す事にした。
「この川がなければ街まであと少しなのに…てか、そもそもこんなとこに川なんてなかったはずよ」
確かに周りを見渡すと、古くからあった川ではないようにも思える。
「だいたい、このあたりは水が出なくなって、棄てられた地域なのよ。それがこんなに水であふれてるなんて…」
ん?とミキオは思った。
どこかで聞いたような。
ミキオは涸れ井戸の村を思い出した。
あそこも急に水が出なくなったって言ってたっけ。
しかし、どこまで歩けばいいのだろう。
もし、とてもとても長い川だったら…
そう思い始めた時だった。
「ねぇ、水が少なくなってきた事ない?」
アオイが川の変化に気付いた。
川に出会ってから上流向けて結構遡ったはずだ。
見ると確かに川幅が狭くなってきている。
そろそろ渡れそうだ。
その先を見ると、集落へ続いているように見える。
しかしおかしい。
どうも、その集落から水の流れが始まっているようなのだ。
まあ、ちょうどいい。日も暮れてきた事だし、今日はあそこで休ませてもらおう。
川の始まりも気になるし。
「アオイ、鞘に入れるな?」
「…分かったわよ」
2人は集落に向かった。
そこはミキオの故郷よりもひとまわりぐらい小さな村だった。
山の中ではなく平野に位置しており、川の始まりがありそうには見えない。
川を辿っていくと村の真ん中に池を見つけた。
「この池から始まってるのか。どこかから湧き出してるのかな。」
鞘に収まったアオイが小声で言う。
「池の真ん中に何かあるわ」
見ると、小便小僧があった。
そこから勢いよく水が出ている。
「まさか…」
「あんた、ここの村に何か用か?」
小便小僧に気を取られて背後の人の気配に気づかなかったミキオは、声をかけられて飛び上がりそうになった。
「ああっ、すいません。怪しいものではないのです。僕は『世界を救うかもしれない勇者』をやってまして…川の始まりを辿って来たのです」
冷静に考えれば十分怪しい肩書きだ。
村人はあぁと頷いた。
「水の勇者様が来て下さって、ホントは感謝してんだよ。でもその後があれじゃなぁ…何人かの畑も水没しちまってよ」
話を聞くとこういう事らしい。
以前この村も水が涸れて困った事があったようだ。
その時、村を訪れた『水の勇者』によって村の井戸は見事に復活。
しかし勇者の持ってきた小便小僧から
大量の水が溢れ出し…
水は村の農業用のため池から溢れ、田畑や家々を浸水させ、穏やかだった小川の流れをもねじ曲げてしまった。
その元凶となった勇者は今もこの村にいるという。
ミキオはその勇者を訪ねることにした。