第6話 ズズッ
今語られる伝説の剣の秘話。
身体はもはや満身創痍。
撃てる魔法は残り一発。
詠唱後、右手から出たのは、一本の刀の鞘のようなものだった。
こんな細いもの、なんの防御の役にも立たないじゃないかぁぁあ
ミキオは終わりだと思った。
「何度やっても同じよ!」
剣がそれに斬りつける直前、背後から男の大きな声がした。
「待ちなさい!それは伝説の剣の鞘じゃあ!!!」
剣の動きが止まった。
ギリギリで斬られずにすんだ鞘は、地面にポトリと落ちた。
声の主は白いゲジゲジ眉毛の老人だった。僧侶らしく頭は丸められている。
「私は当ゲジゲ寺院の28代目住職、ゲジゲ慈満と申す者。その伝説の剣について教えよう。寺の中へ着いてきなされ」
気がつけば周りは人が消え、寺院の境内にいるのはミキオと剣と住職だけだった。
『伝説の剣に挑戦!一回1ペーター』と書かれた看板が寂しく転がっている。
ミキオと剣は住職に案内されるまま、寺の中へ足を進めた。
「こちらへ」
歴代の住職の肖像画や写真が並べられた一室に通された。ちなみにどれもゲジゲジ眉毛である。
住職は行燈に灯をともすと、二人を座らせた。
すかさず頭を丸めた少年がお茶を差し出す。ちなみにゲジ眉ではない。
「どうも」
ミキオはお茶を受け取った。
「あの、僕の魔法で出てきた、この伝説の剣の鞘とは一体…?」
ミキオはさっそく質問した。
「その言葉通りじゃ」
住職は伝説の剣の鞘を指差した。
よく見ると、マジックで『伝説の剣の鞘」と書いてある。
ミキオはお茶を吹き出した。
「お前さん達には伝説の剣について話さなければなるまい。長くなるがの…」
住職は伝説の剣がここゲジゲ寺院に来た経緯を話し始めた。
回想
境内を箒で掃くゲジゲジ眉毛が黒い頃の住職。
そこへ全身傷だらけの男がふらふらと現れた。
髪もヒゲも伸び放題。
手には抜き身の剣が握られていた。
「おい、坊さんよ」
傷だらけの男は住職の姿を見つけて呼んだ。
住職は顔をしかめた。
「旅のお方、ここは祈りの場ですぞ。人を斬る場所ではござらん」
傷だらけの男は首を振った。
「いや、この剣を預かってほしい。それだけだ。あいにく、鞘はうっかり燃えるゴミに出してしまったから抜き身だが…」
そう言うと男は剣を地面に突き刺した。
「これなら問題あるまい。こいつを抜いたやつに譲ってやってくれ」
回想終わり
「…そして男は、信頼できる住職に伝説の剣を託して去った。以降、何人もの若者が剣を抜こうとしたが、今日まで誰一人として抜くことはできなかったのじゃ。ズズッ」
住職はお茶をすすった。
「…信頼できる住職のあたり、だいぶ美化されてる気はしますが…ズズッ…だいたい分かりました」
ミキオもお茶をすすった。
「ズズッじゃないわよ!肝心なとこが分かんないじゃない!で、なんで抜いた私が剣になってるのよ!」
剣は刃をブルンブルン回し始めた。
住職も首をブルンブルン回し始めた。
「それはワシにもわかりゃあせん。伝説の剣を持ってきた男は普通に素手で持っていたしのう…」
「使えないわねぇ」
剣は呆れ顔だ。表情は分からないけど多分。
住職はお茶を飲み干して言った。
「コボボ、はるか海の向こう、魔大陸には、どんな呪いも解くことのできる魔女がいると聞く。危険な旅だか、あんたらなら行けるはずじゃ。御二方とも見たところ相当な手練れのようじゃからの」
(あんな素早い剣さばきも、それをかわす身のこなしも、これまで見たことがないぞ)
ミキオは自慢げになった。
「いやぁ、それほどでも…ふっふ」
なんだかんだ牛乳配達とよろずやのババアが役に立っているのかもしれない。
うむうむと住職は頷いた。
「よければなぜ旅をしているか、聞かせてもらえんかの?」
ミキオはこれまでの経緯を話した。
自分が『世界を救うかもしれない勇者』であること、しかし行く先々で不遇な扱いを受けてきたことなど。
ミキオが話し終えた後で住職はお茶をおかわりして言った。
「ズズッ、ふむ、あれじゃ、…女神像の話は聞きたくなかったのぅ」