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5億の勇者と1人の魔王  作者: エモニー・レモニー
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第4話 はじめての魔法

勇者ミキオ、いよいよ魔法を習得します。

分かれ道の前にミキオは立っていた。

二手に分かれたその先は、片側は『ゲジゲ寺院』、もう片方は『威風堂洞窟』と立て札に書いてある。

質屋のあった街を出てからどれだけ歩いただろうか。

この辺りになると、さすがにミキオの土地勘も範囲外だ。

情報も武器もないミキオが逃げ場のない洞窟でモンスターに出くわすのは避けたいため、必然的に『ゲジゲ寺院』に向かうことになる。

『ゲジゲ寺院』方面となる左側の道へ脚を進めながら、ミキオはため息をついた。

洞窟ならまだしも、この平和なグレートピジョン大陸の、草原で出くわすモンスターには大したものはいないはず。

武器のないミキオでも、最弱のモンスターを狙えば、石や木の棒で倒せるはずだ。

現に食料となる小動物たちは余裕で手に入った。

そうやって経験値をためつつ、武器を買うお金を稼いでいく予定だったのに…肝心のモンスターがいないのだ。

そうして歩いているうちにここまで来てしまった。


膝くらいだった道の両側の草の背が、いつのまにかミキオを追い越していた。

いつしか陽は傾き始め、ミキオの影が長くなっている。

風に揺れる草のざわめきが、人のささやき声のようだ。

歩くにつれ、その声は大きくなっていく。

ザワザワ


オザワイザワオザワイザワ


オザワもイザワもその技ワザワザ習得したわけ?


それは人の声だった。

ミキオの対面から3人組がやってきていた。

整った見た目の防具。手入れされているのがよくわかる。

昨日の賊とは違い、冒険者御一行といった感じだ。

真ん中の男がミキオを見て笑った。

腰に剣を差している。

「なんだアイツ。武器も持たずに。おい、イザワ調べてみろよ」

ミキオは目をそらしてやり過ごすことに決めた。

ムシムシ。こういうのは関わるだけ時間の無駄だ。

今度は右側の魔法使い風の女がなにやら呪文を唱えてミキオのステータスをチェックし始めた。

「アハハ、何かと思えば『世界を救うかもしれない勇者』ですって。武器もないのに。しかもステータスショボ」

ミキオはさっさとすれ違おうと脚を早めた。

「おっと、手が滑ったぜ」

左側の男がわざとらしくミキオの前に斧を落とした。

ミキオは斧につまずいて激しく転んだ。

真ん中の男がまた笑った。

「おい、オザワぁ、やめてやれよー。ステータスショボすぎて転んだだけで瀕死になっちまうぞ」

ミキオは起き上がった。

さすがに腹が立ったが、さすがに3対1では部が悪い。

しかもミキオは武器もなければ、魔法だって習得していないのだ。

せっかく買い戻した防具もまた取られてはたまらない。

ムシムシ。

起き上がったミキオは歩き始めた。

あとはまっすぐ歩いてやり過ごせばいい。

真ん中の男がミキオの背中にしつこく言葉を投げかけてきた。

「あぁ、やっぱり『かもしれない』勇者さんは逃げるしかないよな。俺みたいな本物の『世界を救う勇者』と違ってな。せいぜいニセ者はその先にある寺で剣を抜けるか挑戦していればいいさ。ま、時間の無駄だけどな!アハハ」

魔法使いの女も笑った。

斧の男も笑った。

「こんなやつがショボい村でショボい奴らから生まれ育つ間に、エリートの俺たちはせっせとこの辺りの雑魚モンスターを狩り尽くしてやったんだ。むしろ感謝してもらわないとな」

真ん中の男は吸っていたタバコをミキオに向かって捨てた。

「勇者のゴミだな。タバコの吸い殻がお似合いだわ、ハハッ」



熱い、やけどしたかも。

転んでぶつけた額が痛い。

ああ、もういやだ。もう無理だ。

早く逃げ出したい。

つらい。

なんでこんなに我慢しないといけないんだ。

この旅を始めてからは、昔の自分が設定した限界値なんて、とうに超えているのに。

頑張ってきたのに。

また奪われる。

また笑われる。

なんでこんな奴らに…


「…は…」

無意識のうちにミキオの口から言葉が出ていた。

勇者一行はそれを聞き逃さなかった。むしろそれを待っていたように。

「あ?なんか言ったか?偽者さんよ」

斧の男が斧を振り回しながら近づいてきた。

斧の一撃を食らったら、今のミキオでは即死だろう。

しかしミキオは親まで侮辱されて引き下がれなくなっていた。

「ゴミはおまえだぁぁああ!」

気がつけば叫んでいた。

(や、やべぇ、勢い余ってつい言ってしまった)

斧の男がミキオの顔面に斧を振りかざす刹那、ミキオの右手から何かが放たれた。

それは、


ゴミだった。


おびただしい量の腐った肉が斧の男の口に注がれ、斧の男は動かなくなった。

真ん中の男は斧の男に駆け寄った。

「おい、オザワ、寝てんじゃねぇ…ちっ、気絶してやがる…」

ん?ミキオはポカーンとしていた。

視線を下ろすと右手に『新しい魔法‘ゴミ’を習得しました』と文字が出ている。

よく分からないが、ゴミを出す魔法を習得したらしい。


真ん中の男は魔法使いの女に声を掛けた。

「おいおい、やる気かぁ?イザワ、消し炭にしてやれ」

「思い知られてやるわ」

魔法使いの女が呪文を唱えると、女の周りに炎の渦が現れた。

すかさずミキオは右手をかざして「ゴミ!」と叫んだ。

すると右手から車のパンクしたタイヤがいくつも飛び出してきた。

タイヤが魔法使いの女の周りで黒い煙を出して燃え始めた。

「ゴホッゴホッなにこれ」

パンパンと音を立ててタイヤが燃え上がる。

「ギャァもうやってらんない」

魔法使いの女はススだらけになって逃げ出した。



真ん中の男は剣を抜いた。

「雑魚がチョーシに乗りやがって。後悔させてやる!エリートの秘剣『微風』!!」

真ん中の男が剣を振り回すと微風が巻き起こり、次第にそれはミキオを包んでいく。

「その風の中から出ようとしたら最後。お前は吹き荒れる風の刃に切り刻まれるのだ!後悔してももう遅い!はははっ」

ミキオは周囲に目をやった。たしかに風が吹いてはいるが、吹き荒れる程ではない。

右手を出して「ゴミ!」と叫んだ。

すると今度は大量の鉄屑が右手から溢れ出し、それは風の層を簡単に突き抜けて真ん中の男に向かった。


「あばばばば」

真ん中の男は鉄屑まみれになり、しばらくして、動かなくなった。



「勝った…」

いつの間にか陽が落ちて、薄暗くなってた空の下、腐った肉まみれになった斧の男と、鉄屑まみれになった真ん中の男が仲良く気絶し、焦げたタイヤが転がっている。


ミキオは回れ右をして、ゲジゲ寺院へ向かう。

どんな寺院か知らんけど、今日はそこで休ませてもらおう。


初勝利は、腐った肉と焦げたタイヤのニオイがした。

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