第2話 終わる日常
今回は美木多くん以外が語り部となるパートがあります。
その日の朝は、いつもより早かった。
4時47分、突然の警報に叩き起される。
館内放送によると敵襲で、既に夜勤当直の部隊が出撃しているようだった。同室の隊員達と実機の格納庫に向かうと愛華ちゃんが既に来ていた。
「2人は?!」
僕に気付いた愛華ちゃんが慌てて寄ってきた。
「えっ?! 見てないの?!」
だが、この質問は本来僕の方がするべき質問だ。
隊長の個室は愛華ちゃんと同じフロアにあり、伊集院君の個室は本人の希望により格納庫の真横のフロアにあり、僕達男性隊員の大部屋は1番格納庫から遠い場所にある。
「隊長の部屋はベッドも綺麗だったから、伊集院の部屋に一緒に居るのかと思ったけど、居なかった。ただ、ベッドは冷たくなかった」
昨晩一緒に居たのは確実みたいだったが、共に行方知れずか。何があったんだ?
「あれ?」
そして、気付く。
「2人の機体が無いよ?」
「えっ?」
愛華ちゃんは慌てて過ぎて気付いていなかったらしい。どうやら2人は僕達より先に来て、既に出撃した後みたいだった。
冷静に考えたら、1番格納庫に近い部屋から来ているのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「緊急時だから2人で先に出たんだよ。僕達も行こう!」
「私が副隊長なんだから、美木多が指図しないでよ!」
上官殿がお怒りだった。
本来、隊は隊長の指揮の元、4人揃って出撃するものだが、今回は緊急時で、更に愛華ちゃんにも出撃権限がある事もあって、バディのみで出撃したようだ。普段バディは隊長と愛華ちゃん、伊集院君と僕の組み合わせなんだけど。
「きっと2人で協力して敵を押し退けてるでしょ! 獲物を取られない内に早く追い掛けるよ!」
しかし、出撃した僕達が見たものは余りにも予想外な光景だった。
転がる実機の残骸達。見たことが無いものも混じっているので、あれが、敵方の実機だろう。どこの国の実機とも特徴は一致しなかった。味方ほぼ全てが既に倒れ伏していた。
そして、戦場のど真ん中で立っていたのは、見覚えのあるはずの2機の実機。ただ、その現実の光景を、目の当たりにした現実を、理解出来ずに、僕達2人は、戦場にただただ立ち尽くした。
「どうしてよ!」
愛華ちゃんの怒号で現実に引き戻された。
「どうして、あの2人が!」
愛華ちゃんも、この光景が信じられず、叫ばずにはいられなかったようだ。
隊長と伊集院君。2人は互いの得物を互いに向けながら対峙していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもより早い起床。
4時00分ちょうど、『決行』まであと30分。
予定では、リーズの部隊が迎えに来る手筈になっている。私が父の元を離れてから6年。まだ幼さを残していた少女が1部隊を率いるまでに成長しているなんて、なんだか感慨深い。
しかし、今日、ようやく一族の悲願が達せられるという思いとは別の想いが、私の中にはあった。
まだベッドに眠る愛しい彼、雅の顔をそっと撫ぜる。
出会いはIRC。第一印象はくそ生意気な奴。だったのだが、果たしてその印象はわずか5分で覆された。
IRC恒例の新入生歓迎会。1年生が免許を取ってすぐ行われる在校生(2年生)対新入生の実機による模擬戦。成績上位5名を代表に5戦模擬戦を行う。毎年在校生が全勝するのが当たり前だったのだが、その年の大将戦だけは、唯一新入生が勝った。
そう、私は年下であるはずの彼に文字通り瞬殺された。皆の前で恥をかかされた私は以後、ひたすら彼につきまとった。
そして、気付いた。彼の才能はずば抜けており、私より遥かに才能があった。しかし、それだけではなかった。彼は、それに加えて天才だった。
私はいくら努力しても彼には絶対に敵わない事を悟った。
するとどうだろう。憎しみや悔しさは、尊敬と憧れに変わり、それが愛情に変わるまで大した時間は掛からなかった。
初めての恋は私に沢山の幸せを与えてくれた。それまで厳格な父の元で一族の悲願を果たすためだけに生きてきた私には、とても、とても幸せな時間だった。
でも、そんな夢の時間は、もうお終い。
私はシルヴィア・『ゲッペルス』。今日から、私たち一族は世界の敵となる。
最後まで読んでくれてありがとうございます!