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平凡な僕と天才の君達  作者: 勇気堂悠那
第一章 発端
8/17

第1話 呑気な軍の呑気な日常

軍学校を卒業した健次らは、そのまま軍に入隊。そうして、間もなく一年が経とうとしていた。

朝、5時45分、起床&準備

6時、点呼&朝の運動

6時45分、朝食

7時、点呼&準備

7時30分、出勤&訓練開始


僕、美木多(みきた)健次(けんじ)1等陸曹(21)の朝は、こうやって始まる。普通にきつい。まぁ、もう1年近くずっとこういう生活をしてきたので、正直慣れ始めた。入隊1年目の新兵は皆このタイムスケジュールだ。

但し、1人だけ、これを除外されている新兵が居る。


「ふぁーあ、おはよー」

朝10時過ぎ、朝の訓練が一通り終わり、訓練に使った実機(じっき)や備品を片付け終わった頃に、欠伸をしながら、のんびりと重役出勤してきたのは、その例外たる伊集院(いじゅういん)(みやび)君(21)。僕と同じ一等陸曹だ。

実機や兵器の開発部門の全てを1人で管轄している天才で、僕の親友だ。

IRCという世界でも有名な学校に通っていた経歴があり、軍内でも非常に優遇されている。

彼は、この1年で様々な物を開発し、実用化している。彼の天才さに誰も付いていけず、開発部門が全員自信喪失し、1週間もたずに辞めてしまった。

「ミスター、コーヒー要る?」

そう言って持っていた缶コーヒーを渡してきた。

ミスターとは、僕の事だ。何故か彼は僕の事を過剰評価している。

「これ、どうしたの?」

「もろぅた」

やっぱりか。恐らく食堂のおばちゃんに貰ったのだろう。あのおばちゃんサービスはいいんだが、1つだけ問題があるのだ。

「なんで嫌いなものサービスしてくるんだろーね、あの人」

そう言いながら、近くの自販機でミルクティを買う伊集院君。

そうなのだ。僕も毎朝納豆をサービスされる地獄を味わっている。しかも、パンとスクランブルエッグのオマケに納豆が着いてくる。

「いい人ではあるんだけどね」

まぁ食堂のおばちゃんの話なんか特に意味は無い。


「お、来たね」

ガチャりと扉を開けて入ってきたのは同じ隊の隊員である初芝(はつしば)愛華(あいか)ちゃん(19)。彼女も一応同じ一等陸曹だ。

彼女も僕と同じ朝の新兵メニューをこなしてはいるが、実は隊の副隊長も兼ねており、形式上は上司にあたる。なので、伊集院君と二人で、きちんと敬礼をして挨拶をする。

「おはようございます!」

「うん。堅苦し感じはそこまでね。伊集院、隊長は?」

「月曜日だし、上長ミーティングだろ」

「あ、そっか。んじゃ、ま、あの人来るまでは、のんびりとしとくか」

「俺、ちょいパソ弄ってるわ」

「おっけー」

寝癖だらけの頭を掻きながら、割り当てられた机でパソコンに向かう伊集院君。モニターが6つくらい並んでいて、それぞれに違う内容が表示されているのだが、パソコンに詳しくない僕には、よくわからなかった。また誰もが驚く新アイテムの開発をしているのだろう。

「あれ1台で数百万するらしいよ」

「じゃあ、全部で8桁越えるのか」

そんな予算が、ポンと降りるくらいの実績をたった1年で叩き出したらしい。

「うんじゃ、私は隊長来るまで寝てるわ、おやすみー」

と言うと、隊室に置かれている来客用のソファに横になる愛華ちゃん、もとい初芝副隊長。

1分もしない内に寝息が聞こえてきた。

さて、僕は何をしておこうかな?

僕らの隊は他の隊と違い、朝の日課以外は特に強制される仕事や訓練が無い。しかも1小隊の為だけに、こうして隊室が与えられている。これも全て伊集院君が居るから与えられている特権だ。伊集院君宛に開発部絡みでお客様が来る事が多いので、一々応接室や会議室を借りるのが邪魔くさいという難癖を付けて伊集院君が話を付けてきた。


「ミスター、ちょいちょい」

数十分後、唐突に振り返った伊集院君が僕を呼び寄せる。

「ん? どうしたの?」

「ミスターさぁ、射撃訓練と白兵訓練、どっちが得意?」

「んー?」

僕にとっては微妙な質問が来た。どちらも得意ではないし、どちらも苦手というほどでもない。どちらも新兵の中では真ん中くらいの成績のはずだ。

悩む僕を見て、伊集院君が言い方を変える。

「どっちが好き?」

好き嫌いで聞かれたら、考えやすかった。

「うーん、それなら射撃訓練の方かな? 至近距離は焦るからね」

「なるほどねー。となると、ミスターのアレを考えて.......いや、でも.......」

何か考えてブツブツ言いながら、キーボードをカタカタと打ち込んでいる。キーボードは3つ並んでいる。人間には腕は2本しか無いはずなのに、何故3つも要るんだろう?


「みんな、揃っているか?」

隊長が現れた。金髪碧眼の美女、我らが隊長であり、1年前までは我らが教官でもあったシルヴィア・タイム一等陸尉(22)だ。母国ドイツでは上級大尉という階級らしい。

隊長は寝ている愛華ちゃんとブツブツ言いながらモニターに向かう伊集院君を見て、ため息ひとつ。

「これが、この基地一の天才パイロットと、この基地一の天才エンジニアだとはな」

まぁ、これもこの隊では割と日常的な風景で、隊員以外誰も見ていないので隊長も特に何も言わなかった。寧ろ、2人を見るその目は慈しむような感情を見て取れる。

教官時代は、よく伊集院君と揉めていたが、実はそれが、2人の関係を隠す為のフェイクであったらしく、僕等が卒業してからは本来の性格がわかるようになってきた。


「美木多は何をしていたんだ?」

隊長は、僕の手元を見て首を傾げていた。そこにはタブレットがあった。

「戦術シミュレーションのアプリを少し」

軍内に各隊に1つ支給されているタブレットには、あらゆる状況を想定した設定を出来る戦術シミュレーションアプリがダウンロードされている。が、ほとんど実用されていないゴミアプリと言われている 。理由は単純。戦争なんて起きないから。

各国軍隊やら実機やら軍備は整えてはいる。が、実際にそれを動かすとなると莫大な金がかかる。兵隊同士の小競り合いならともかく、現代の戦争は実機によるロボット戦だ。実機1機を1日動かすだけでン百万以上の費用がかかる。

実際、実機が軍隊に配備され始めて1、2年で戦争らしい戦争は全く起こらなくなった。

では、何故僕が、このゴミアプリをやっているか?

それは『暇潰し』に他ならない。

僕は、よくこうして手持ち無沙汰になるタイミングがあり、そんな時に伊集院君に薦められたのだ。

「ミスター、これやってみない?」

それから半年くらい、僕はこれを毎日やり続けていた。


「美木多は、やっぱり変わっているな」

「えぇっ?!」

僕に、これ薦めたの貴方の彼氏ですよ?!


こうして、何気無い日常が今日も過ぎていく。


僕は、この日常が、これからもずっと続いていくと思っていた。


そんな僕の甘い考えが打ち砕かれたのは、それからちょうど一週間後だった。


最後まで読んで下さりありがとうございます!


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