第五話 考察
久しぶりです!忘れてたわけではありませんよ?
愛華ちゃんは、伊集院君からステルス輸送機の操縦方法や注意点を聞いて、すぐに離陸準備を始めた。操縦席周辺は意外と広く、複座になっていた。
「伊集院」
「ん?」
説明を終えて、伊集院君と僕は輸送機から降りようとしていた。そこに愛華ちゃんから声がかかる。
「正直、私はあんたを信じられない」
「あー、気にすんな」
やはり、気付いていたらしく、事も無さげに返す伊集院君。
「でも」
何事も無かったかのように降りようとする彼に、愛華ちゃんが続ける。
「祐介が、あんたを信じるって言ったら私はあんたを信じることにする」
「まだまだあいつの事わかってないな、お前は」
振り返りもせずに、伊集院君は降りて行った。
「え? それだけ?」
今の伊集院君の反応の意味を理解出来たのは僕くらいだろう。
「あれでも、彼には精一杯の感謝の言葉だよ」
「は?」
愛華ちゃんの行動理念はまず第一に橋本君だ。その愛華ちゃんが、橋本君の返答次第とは言え、伊集院君を信じる事を決めたのだ。
そして、僕と伊集院君には橋本君の決断は手に取るようにわかるのだ。
首を傾げたまま愛華ちゃんは去って行った。僕達も、そのまま実機で基地を出た。もちろん見送りは無かった。
基地の外は廃墟になっていた。ここが日本なのかと信じ難い光景だ。
時折、人の気配は感じるが、実機を恐れて出てこないようだ。
本来なら、実機は、こういう現場の救助作業が目的で作られたのに、これを引き起こしたのが『G』の実機だと考えると皮肉なものだ。
「で、ミスター、これからどうするよ?」
基地から10分程離れて、少し開けた場所で、突然伊集院君が言った。勿論実機に乗ったままなので、音声通信で、だ。
「えっ?! どこか目的地があったんじゃないのかい?」
ここまで僕は彼に着いてきただけだ。
「無い」
「えぇっ!?」
てっきり最寄りの河野さんの居る京都基地に向かっているのかと思っていた。
「じゃあ、選択肢を並べようか」
「せ、選択肢?」
「その1」
実機の右手の人差し指を立てる伊集院君。
「近場の基地から手当り次第解放していく」
「たった2機で無理でしょ?!」
続けて中指を立てる。
「その2」
僕の答えに対して反応する気は無いらしい。
「仲間を集める」
「ん」
それが妥当なのかな?何にしても仲間を集める必要はあるだろう。
「それなら」
しかし、伊集院君は続けて薬指も立てる。
「その3」
「まだあるの?!」
「絵美を探す」
「ん?」
それ、その2と何が違うんだろう?
「その4」
小指も立つ。
「シルヴィーを追う」
「追おうにも、完全にロストしてるよね?」
「・・・・・・」
ジト目で返された。気がする。実機越しだからわからないけど。そして親指も立つ。
「その5」
「まだ何かあるかな?」
「何もかも放置して逃げる」
「・・・・・・」
思わず、ジト目になってしまった。
「本気で言ってる?」
「半分は」
「半分?」
開いていた右手を閉じ、自分と、そしてこちらを指差す。
「俺は、このままシルヴィを探しに行きたいってゆーのが、本音だ。でも、ミスターは俺に付き合う必要は無い。だから、ミスターは逃げても·····」
あー、そう来たか。
昔から彼は、こういう人だったな、と思い出す。
なんでも勝手に自分で決めて、実行する。
IRCにスカウトされた時も誰にも話さなかったから音信不通になってたんだし。
今回は、まだ相談してくれただけ、ましかな。
「伊集院君!」
「む」
自分でも驚く程に声が荒ぶっていた。
「それはだめだよ」
ただ一言、そう告げると、伊集院君は、それを予想していたらしく、やっぱりね、と呟いた。
「でも、今のままじゃ無理だし、僕らは状況すらわかっていない。なら、どうするか?」
ゲームなんかでもよくあるあれだ。
「情報収集か」
「正解」
近くの基地は他県も含め7つあった。大阪、京都、奈良と、それこそ車でも二時間程に、だ。それらが全て連絡がつかない。
僕らの居た基地は『何故か』基地としてほとんどの機能が残されていた。こちらから通信は出来るのは、その為だ。被害は僕らの隊以外のほとんどの実機と、監視塔と二人の隊員。
規模が小さい基地だから見逃された? いや、奈良にあった基地の方が小規模だった。
相手の戦力が足りなかった? いや、相手の後続の部隊は、あの基地を制圧するには十分な戦力だった。
他の基地との違いは一体何か、考えると、その可能性があるのは。
「隊長の存在」
「ん?」
『G』は恐らく長期間の準備期間を経て蜂起したのだ。少なくとも隊長が、『G』の幹部だというなら、僕らが隊長と出会った時には、既に『G』の計画は始まっていたのだ。全ての基地を同時に襲撃する為の準備を。
どうやって? 決まっている。いや、知っているという方が正しいだろう。隊長が、そうだったのだから。
つまり、『内部』から崩したのだ。
恐らく、先に基地内部から破壊工作があってから奇襲をかける。手が込んでいる。
しかし、僕達の基地は事前に破壊されていたのは監視塔だけだった。
これは何故だろう?
いや、わからなくもないか。
「伊集院君が居たからかな」
「何が?」
本人は意味がわからず、きょとんとしているが、そう考えると一応の辻褄が合うのだ。
「いや、なんでもないよ。で、その3は何で?」
「んー?」
何故か、歯切れが悪かった。
「絵美がこっち探していたら、こっちからも探さなかったら、後で怒られそうな気がする」
「あー·····」
彼女は何故か伊集院君にだけ当たりがきついからなぁ、有り得る。
「しかし、どこで情報収集するか? 住民達がどこに避難してるのかもわからないんだが?」
確かに未だに人影すら見かけない。なら、確実に人が居る所を目指すとするかな。
「うん、それだけどね。選択肢その1でいこっか?」
「はぁ?」
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