表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/36

事件簿3:緊急出動、宝石強盗犯を追え【後編】


 ◇


 宝石強盗の犯人は、バーモルトと名乗る魔族の男だった。


 緊急逮捕し身柄を確保。盗品である『結界晶石(バリアジュエル)』も取り返した。


「弁護士を呼べェ!」

「使い魔に人権はねぇよ」

「ひでェ国だなァ!?」

「文句があるなら便所の壁に落書きでもしてろ」


 ロープで縛り上げて(ひざまず)かせ、あとは応援を待つだけだ。


 いつの間にか人払いの結界の効果も消え、往来には人が戻ってきた。大勢の人達が遠巻きに、俺と犯人の様子を興味深げに眺めている。


 捕まえたのは『四魂の森』に潜む魔女の手下であり、何らかの思惑があって悪事を動いていたのは間違いない。

 先のコッカトリス暴走事件を陰で扇動し、強盗を働くなど言語道断だ。一体何の目的があるのか疑問も抱くが――


「ま……広域捜査は俺の管轄外(・・・)だ」


 俺はあくまでも交番勤務のお巡りさん。


 犯人確保に貢献したとしても表彰されるぐらいのものだ。

 真相究明や捜査は、ファーデンブリア王国の王都に存在する組織(・・)が担当することになる。


「来たな、魔導捜査一課」


 赤い魔法の光を頭上で回転させ、ファンファンという警告音(サイレン)を発しながら、白と黒のツートンカラーに塗り分けられた馬車がやってきた。

 二頭立てでかなりの速度で交差点を曲がり、此方に向かってきた。

 馬は左側が白馬、右側が黒い馬という凝りようだ。


 市民たちは警告音を聞いて道端に避ける。荷物運搬の馬車も脇に避けることで、王都警察の馬車の通行をスムーズにする。流石は王都グランストリアージのみなさん、民度が高く警察に協力的だ。


 バカラッバカラッと蹄の音も勇ましく目の前で急停車。客室(キャビン)から二人の男女が飛び出してきた。


 一人は背の高い半竜人(ドラグニア)の刑事。名前はダイモーン・ゴスペラルト。見るからに屈強そうな体躯に、精悍な面構え。皮膚がやや緑っぽいのは半透明の鱗で覆われているからで、特徴的な長いドラゴンのような尻尾もある。見るものを圧倒する、実に立派な竜族だ。武器の扱いはもちろん格闘戦もなんでもござれの刑事らしい。


 もうひとりはエルフの女刑事。ショートボブの青い髪に長く特徴的な耳。両腕や腰、足に至るまで全身に魔法の武具を装着した対魔法戦闘のエキスパート。名前はアイルズ・レイハール。


 俺は敬礼をして二人を迎える。


「ご苦労、君が確保してくれたのか?」

「はい。工藤巡査長であります」

「ご苦労!」

「いえ……」

 見上げるような大男、ゴスペラルド刑事に圧倒される。


「良い腕ね、街のお巡りさんにしておくのは惜しいわ」

「いえ、とんでもない。自分には交番勤務が性に合ってますんで」

「そうかしら。魔女の手下を一人で捕らえるなんて。異界出身者はすごいのね」

「自分は最善を尽くしたまでです」


 謙遜しつつ男を引き渡す。


 王都警察、魔導捜査一課。

 彼らは特殊な魔法犯罪や、魔女絡みの事件を担当する専門職だ。


 国内の魔物退治などの依頼は、民間の冒険者ギルドが担当する。王国軍は国境を接する諸外国に睨みを利かせる。そこで本来、国の治安維持を担当し、人々の平和な日常生活の手助けをするのが衛兵組織だ。

 しかしいつしか組織は硬直化し、仕事をしなくなった。

 国民――特に王都や地方都市の住人からは、賄賂がなければ動かない悪徳衛兵とか、対応の悪さとかが陰口されるようになった。

 そこで現国王陛下のご英断により、衛兵組織は大改革された。

 それが、治安維持を目的とした王国警察。


 王都を守るのは「王都警察」であり、俺もその一員というわけだ。本当の意味での「衛兵」は、王城における王族の警護、城の警備、王都へ通じる関所の警備に特化している。


 俺たちは他の世界の知識や知恵を有した「お巡りさん」として親しまれている、というわけだ。


 そして、王都警察の中でも魔導捜査一課は、選りすぐりのエリート集団。

 民間ギルドでは手に負えない犯罪組織――邪教集団や国家転覆を企む魔王などのテロ集団。あるいは領域外を支配する魔女たちの監視、調査対応を行っている。

 無論、鎮圧に軍事力が必要な相手と判断されれば、王国の正規軍が動くことになる。だが基本的には警察組織で対応できる事案を担当している。


 というわけで、今回の事件は王都の領域外の魔女がらみ、更には強盗事件との関連性を加味し、魔導捜査一課がお出ましというわけだ。


「明日、王都警察本部にて報告をお願いしたいです」


 エルフの女刑事が言った。実にセクシーな美人さんだ。犯人も油断するだろうことは想像に難くない。


「報告書を書かなくていいなら、喜んで」

「口頭でもいいわ。書記官を用意するから」

「ありがとうございます」


 ちょっと本気でホッと胸をなでおろす。今回の事件の顛末など、報告書のことを考えると憂鬱だった。

 王城内の事務フロアにある王都警察本部。そこに出向いて口頭で報告するだけなら実に気楽なものだ。


 俺は去っていく馬車を上機嫌で見送った。


「さてと、交番に戻るとするか」


 パトロールを兼ねて、のんびり歩きながら交番への帰路につく。


 子どもたちが「お金拾いました!」とやってきたり、死んだ息子に似ていると話しかけてくる孤独な老婆の話を聞いたり。途中の屋台で串焼きの肉を買食いし景気や、変わったことがないか情報収集も怠らない。街の人達と交流を図ることで、未然に事件を防げることもあるのだから。


 そんな気ままな巡査ライフ。


「まずは一件落着、明日は明日の風がふく、さ」


<つづく>


次回、交番に捨て猫が・・・!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ