事件簿3:緊急出動、宝石強盗犯を追え【中編】
対魔法徹甲弾――マギアバレット。通称、魔弾。
銃口から放った魔弾は、対魔導兵装として王都警察の切り札的な装備品として配備されたものだ。通常の弾丸としての効果は言わずもがな。魔力で肉体を構成する存在、悪霊や魔物などにダメージを与えられるように設計されている。
特に俺が装備する魔弾は、王都の魔道士が特別な術式を練り込んだ特別製。
だが、銀行強盗の容疑者である男――バーモルトと名乗った魔族は、魔弾を叩き落とした。
信じられない事に、空中で魔弾を停止させて見せたのだ。
魔族は魔物の上位種なのだから、直撃すればダメージを与えられる。とはいえ肉体に届かないのでは効果が無い。
逆に、強力な武装が無効化されたことで、容疑者に反撃の隙を与えてしまった。奴は一瞬で俺の間合いに踏み込んでいた。
「死ね」
「――く!?」
視界から消えるほどの速度で走り込むと、身を低くして真下からの手刀で俺の右腕を狙っている。銃を持つ右腕を圧し折るか、切断する気なのだ。
咄嗟に身体を退いて右の腕を縮め、狙いを逸らす。
だが、避けきれなかった。
ガァン! という衝撃を感じ、右腕が上に跳ね上げられた。
「ハハァッ! よくぞかわした」
「痛っ……!」
鋭い刃のような男の手刀の一撃が、銃口を直撃したのだ。
腕に食らうよりはマシだが、大事な支給品が壊れたらどうしてくれる。おまけに腕が上がったことで、完全に俺の胴体はがら空きだ。
魔族のバーモルトは左腕を腰の脇に構え、素早く拳を繰り出した。がら空きになった俺の胸部にヒット、思わず呻く。幸い防刀ジャケットの上だが、肋骨への衝撃で息が詰まる。
「ヒャァッ! 次は心臓を貫――」
再び右手を手刀のようにして俺に襲いかかる魔族。まさに心臓に指先が到達する寸前で、上に弾き上げられていた右腕を思いきり振り下ろした。
「……けるわけ、ねぇだろッ!」
俺はキレた。
銃のグリップを握りしめたまま、銃床をハンマーのように男の頭頂部めがけて叩きつける。
「ブッ!?」
接近戦での油断は禁物だ。
勝った、と思ったその瞬間がもっとも危ないのだ。男の動きは素早いが、攻撃の瞬間は動きが止まる。おまけに「心臓を狙う」と宣言した間抜けさが命取りだ。
「うらぁっ!」
「ンガッ!?」
俺にトドメを刺そうと肉薄する瞬間を待っていた。ここぞとばかりに頭めがけて銃床で力任せに殴打を食らわせる。弾丸を防いだ力の正体は不明だが、近接戦闘でぶん殴られる事までは防げないらしい。
「貴ッ……!? ちょっ……ま」
「強盗に……公務執行妨害……だかんなッ!」
ガギッ! ゴッキッ……!
相手の胸倉を掴んで二度、三度と殴りつける。
銃は鉄の塊だ。銃床は打撃に使えば銃の質量が運動エネルギーとして、そのままダメージとなる。
「がはっ……!」
流石に男の足元がふらついたところで、腰から警棒を取り出す。
先端を男の首に突き上げて、ぐぅの音も出ない状態にし、そのまま近くの建物の壁に押し付けて動きを止める。
「はぁ、はぁ……! 抵抗すると、実力を行使するぞ」
「も……もうしてるだろうガァ!?」
形式的に言っただけだ。
「てめぇ、さっき弾丸を弾いたな?」
「ま……魔女……さまの寵愛、よ」
ニィと口角を釣り上げる。白目の部分が黒く瞳は血のように赤い。不気味な面構えの魔族を間近に見る。
「ふざけるな、どんなカラクリだ!?」
首に警棒の先端を更に強く押し当てて詰問する。
警棒を押しのけようと両手で抵抗を試みるが、膝蹴りをみぞおちに叩き込んで黙らせる。
「ガハッ!?」
黒目を剥くところをみると、魔族でも通じるようだ。
「容疑者確保!」
同時に左肩の警察バッチに触れて、緊急連絡を発令する。この場所を知らせたので、すぐに応援が駆けつけるはずだ。
「おの……れェ、ババ、結界晶石が、我が手に……あることを忘れるなァッ!」
悪態をつく口の中に、宝石の輝きが見えた。
――こいつ、口の中に隠して……!
何かを仕掛けようとしている。魔法力での反撃か、あるいは自爆か。
だが、甘い。
「電磁警棒って知ってるか?」
「!?」
俺は警棒の取っ手のスイッチを入れた。
バリッ! という衝撃音とともに青白い光がスパークする。
「ギャフン!?」
激しい痛覚は魔族であろうとも共通だ。電磁警棒の先端から高電圧(だが電流は微弱)な電磁パルスを流し込む。すると電流は相手の皮膚を貫通し、筋肉を伝わり神経に達する。
ビクンッ! と異常反射を起こし、バーモルトの身体が跳ね上がる。さすがにぐったりと大人しくなった。
口からコロンと宝石が地面に転がり落ちた。
「盗品も発見、と」
やれやれ、飲み込まなくてよかったぜ。吐き出させるのは手間だからな。
<つづく>