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事件簿2:凶悪暴走! コッカトリス・ライダー【後編】


 ――パラリーラ! ラリラ! ヴォヴォヴォヴォ! ヴァオン!


 店を飛び出すと、通りの向こう側から爆音が迫ってきた。石化鶏(コッカトリス)に跨り、無謀な走行を繰り返すライダーたちだ。


「きゃぁっ!?」

「危ない……!」


 通行人が右へ左へと逃げ惑う。これは明らかな王都安全交通義務違反、加えて神聖なる王都の治安を乱す重罪、騒乱禁止法違反の罪に問える。


 ――王都警察本部、銀鱗通りにて暴走している石化鶏(コッカトリス)を発見。指示を。


 左胸の警察の紋章を指先で押さえ魔法通信で指示を乞う。


『――判定(ジャッジ)。現在、王都騎馬警官が追っている。2ブロック先から現場へ向かっているので、それまで魔法銃器の使用は極力控えるように』


「もう目の前だぞ」


『――判定(ジャッジ)。王都民の安全を最優先、柔軟に対処せよ』


「了解」


 柔軟(・・)対処(・・)、ときたもんだ。


 ではそうさせてもらおう。


「純サン……!」

「心配するな、そこから出ないこと。いいね」

「は、はい」

 心配そうなアリルを制し、俺は腰のホルダーのロックを外し、一歩足を踏み出した。

 店の奥の厨房からは、顔に傷のある店主と、女勇者キャミリアが「何事か!?」と慌てた様子で出てきたところだ。

 周囲の王都民たちは既に進行方向の道を開け、避難し、近くの店舗の入口から顔を出して様子を伺っている。


 けたたましい騒音を響かせながら、ドドドという蹴爪(けずめ)の音と共に近づいてくる石化鶏(コッカトリス)の数は、全部で3羽。


 先頭を走る巨大で真っ黒な魔物の背中には、リーダー格らしい赤い髪の男が一人。トゲトゲの(びょう)つきの革ジャケットにサングラス。なかなかふてぶてしい面構えで、頭目らしい風格を備えている。

 後ろを付いてくる二羽の石化鶏(コッカトリス)には二人ずつ乗っている。如何にも下っ端の不良少年といった風体で、ニヤついた知性の欠片もない顔つきが見て取れる。


「王都、最速……!」

 リーダー格が自分に酔ったかのように、口元を歪める。

「みんな俺らを見てるし、超スゲェ!」

「オレら、最強じゃん……!」

「ギャハハ、マジ最強!?」

「オラ! どかねぇと死ぬぞゴルァ!」


 いかにも街のゴロツキといった言動からして、普段から路地裏に(たむろ)し、粗暴な振る舞いをしているのだろう。


 構成員の多くは無職の若者で、普通の職につけない無能の集まりだ。おまけに腕っぷしも剣術もすべてが中途半端。故にギルドでも登録できず、冒険者として外の世界で名を馳せる力も気概もない。

 そうして溜まった鬱憤を、こうして騒音を撒き散らしながらの暴走行為で晴らすだけの、文字通りのクズどもだ。


 連中が僅か20メートル手前まで来たところで、俺は道の真中にゆっくりと進み出て、進路を塞ぐように立ちはだかった。


「止まれ」


 一言。


 警告は発した。


 相手からは、はっきりと俺の姿が見えているはずだ。紺色の制服に制帽。金色の左胸の警察バッチを兼ねた紋章が、王都の軍属とも違う公務員である証であることも。


「――ぬ!?」

「公務員か、クソ野郎!」

「ムカツくんだよボケがぁ!」

「オレら、急には停まらねぇけどぉ!?」

「キャハハ、これは事故(・・)だ、やっちまえ!」


 先頭のリーダー、そして後方の下っ端たちは、手綱を緩める気配もない。まさにチキンレース。退いたほうが負けとでも思っているのだろう。


 距離15メートル。連中の目の色が変わった。狂気で濁った眼球、憎悪と殺意にも似た禍々しい感情を発露させながら喚き散らす。


「ではこれは現場(・・)判断(・・)、だ」


 ――パン、パパン!


 俺は腰からニューナンブ(カスタム)を引き抜くと、やや斜め上方に構え――ゼロコンマ2秒、3秒、4秒で3発を立て続けに、発砲。

 短銃特有の乾いた炸裂音と共に、火花が散った。


 相手との距離は12メートル。


 バシュッ!


 必中の距離を飛翔した弾丸は、発砲音とほぼ同時に着弾し、石化鶏(コッカトリス)の頭部を次々と正確に吹き飛ばした。


「撃った!?」

「意味わかんねぇえええ!?」

 暴走族達は全身に返り血を浴びた。目玉をひん剥き、自分の身に何が起こったのか理解できないと言わんばかりに混乱し叫ぶ。


 だが、哀れにも首から上を瞬時に失った三羽の石化鶏(コッカトリス)達は悲鳴を上げる間もなかったようだ。

 一羽は前のめりに倒れ、近くの道端に積んであった防火用の水瓶を押しつぶして破壊。乗っていた二名は放り出され、下水の側溝に頭から突っ込んだ。いいザマだ。

 もう一羽は制御を失い民家の石壁に激突、跳ね返って地面に倒れ込んだ。

「ぐぁっ!?」「ひぎゃっ!」

 情けない悲鳴を上げバカ面をした若者二名が下敷きになった。始末書のことを考えると頭が痛くなる光景だ。 


「っと、警告射撃を忘れていた」


 4発目は空に向かって。パン! と乾いた音が空に吸い込まれてゆく。


 順番が逆になったが、報告書には「警告射撃をしてから3発撃った」ことにすればいい。


「や、やった!」

「すげぇ!?」

「一撃であの巨鳥を仕留めたぞ!」

「あれが王都警察の魔具(マグ)……魔弾(マダン)か!」


 野次馬と避難していた人々が歓声をあげる。


 対魔法徹甲弾――マギアバレットの前では、魔法防御を持つ上位の魔物でも魔法結界ごと貫通、制圧が可能な武器だ。

 ましてや野獣と変わらない低レベルの魔物など一溜まりもない。

 他に弾丸には種類があるが、対人用の威力を抑えた弾丸は「気軽に撃つから」という理由で、最近は支給されていない。


 石化鶏(コッカトリス)たちは、失った頭部の代わりにド派手な血飛沫を周囲に散らしながら、勢いもそのまま、次々と倒れ込んだ。

 最後まで粘っていたリーダーの石化鶏(コッカトリス)が、二歩……三歩と近づいて来たが、僅か3メートル手前でズズゥム……とゆっくりと崩れ落ちた。

  リーダー格の革ジャン男は投げ出される前に、鞍から脱出。


「……ってめぇ!」


 着地と同時に、事もあろうに俺に斬りかかってきた。手には銀色のナイフが光っている。


「公務執行妨害に、殺人未遂もつけて……っと」

 さっと避けて、ナイフを持つ腕をつかみ、ぐるっと腕を後ろに締め上げながら捻って、はいおしまい。

 カランと音を立てて地面にナイフが落ちた。


「いででででで!?」

「手間かけさせんなよ。めんどくせぇ」

「あっ、痛い、痛い……! け、警察が暴力……暴力反対ー!」

「うるせぇ!」

 隙だらけの腹部に思い切り膝蹴りを叩き込むと、ようやく大人しくなった。

 人間ちゃんと話せばわかるものだ。


「ぐふっ!?」

「おとなしくお縄を頂戴しろ。それとも、最後の一発でロシアンルーレットするか?」

 弾倉は5発。まだ1発残っている。リボルバー式の弾倉をぐるぐる回してみせる。


「ちょ……ま、おま……何者だよ!?」


「王都警察。24時間、王都の治安を守る者だ!」


 きまった。

 周囲からは盛大な拍手と口笛、そして花やハンカチが投げ入れられた。


<つづく>


★次回!

 ついに第二の王都警察が登場……!

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