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突入! 七人の王都警察

 ◇


「皆さん、そのままで動かないで。出発しまぁす」


 旅行にでも出かけるような、軽いノリの声が響いた。

 途端に地面の巨大な魔法円が輝きを増し、視界が遮られる。


「今回は工藤くんという秘密兵器(・・・・)も用意しました。彼を闇の最深部に送り届けるため、総力戦を挑みます。これが最終決戦ですから、皆さん気合いを入れて頼みますよー」


 おぉッ……! と気勢があがる。


 目に痛い極彩色(・・・)の戦闘装束に身を固めているのは、今回の決戦において魔法使いのリーダーを務めるアイザック・オールドトーン・ギュギュリオス卿。

 見た目は傾奇者、言動は道化じみてはいるが、『白銀翼(シルヴァニール)家族達(ファミリアス)』きっての実力者という名声は伊達ではないらしい。

 そして人類滅亡の引き金を引いた張本人。

 俺とすれば、すぐにでも身柄を確保したい大悪人だ。だがブタ箱に放り込んだところで人類は救えないのだ。


 両脇を固めるように、魔法使いが二人付き従っている。それぞれ真紅と紺色のローブを纏っている。

「いくぜ!」

「決着を」

 見るからに筋骨隆々とした男性の魔法使いと、見目麗しいエルフの魔女だ。

 彼らも『白銀翼(シルヴァニール)家族達(ファミリアス)』の構成メンバーらしい。正確には「生き残り」ということか。


 他にも魔法使いギルドからの有志が二十数人ほどいる。紫色のローブで統一した彼らは、王国を救いたいという願いから、今回の決戦に志願した者たちだ。


 そして、王都警察突入部隊は全部で7人。

 王都警察、特殊捜査第一係のゴスペラルド刑事。その相棒(バディ)、エルフの女刑事アイルズ・レイハール。

 投げ銭のジェニーガータ・ヘイリー。

 中国人民警察風、金髪のニューヨーク・マッテンロー。

 蝶ネクタイがトレードマーク、白人警官なのに名探偵を名乗るアケチ。

 寡黙で西郷隆盛のような見た目の警官で料理人、カイバラ。

 そして、俺。


 王都警察の「ナンバーズ」の中で、戦闘に参加できる者たちは全員集められた格好だ。

 

 彼らは「足代わりに」とギュギュリオス卿から支給された四足歩行のゴーレム、魔法じかけの馬に跨っている。


「ジュンさん、これなら大丈夫ですよね」

「あぁ、期待できそうだぜ」


 キャミリアの声に俺は頷いた。ケルベロスのベティの背で俺たちは武装を確認する。


 それぞれの想いと決意を秘めて最前線へと飛ぶ。


 この戦力で通用しなければ、後は世界の終わりを待つだけだ。


 ――なんとしても救ってやる。


 やがて空気が変わった。


 冷たく、乾いた空気が全身を包む。

 まばゆい光は消失し、軽い落下感覚を伴いながら、足が地面を踏みしめる。


「到着しましたよ」


 またもや淡々とした声とともに視界が戻る。

 まず、視界に飛び込んできたのは闇と、夜空を埋め尽くす満天の星々だった。


「あ……」


 天空を横切る見事な天の川。

 それは銀河系の断面らしいが、元の世界とは色も濃くて形が違っていた。惑星の存在する位置そのものが違うのだろう。


 だが視界を遮るものがあった。

 夜空の三分の一を覆い隠しているのは「暗黒の壁」だ。

 地面から湧き出たような暗雲、それは星々の明かりを呑み込むブラックホールのように、周囲を黒く塗り潰し広がっている。


「あれが『暗黒侵食領域(ダークボトム)』か!」


「そうです。人類の絶望です」


 あまり巨大なその姿に圧倒されそうになる。


 絶望と呼ぶにふさわしい、黒々とした闇。

 光と呼べるものは無く、その先は見えない。


 これはもうこれはもう神々の怒り、人類の手に負える代物じゃない気さえする。


 本当に、俺たちで倒せるのか……?


「ジュンさん……」

 

 ぎゅっと背後から、大きな手が肩に添えられた。かすかにその手は震えている。


「キャミリア、怖いか?」

「まさか、武者震いです」

「流石だ。一緒に帰るぞ、必ずな」

「……はい!」


 女勇者の微かな震えはすぐに収まった。


「あぁ、なんともすごい光景ですね。すべてを飲み込む圧倒的な闇! 虚無の絶望! これぞ人類の終焉そのものだぁ……。いやぁこんな光景、なかなかお目にかかれないですよ!」


 ギラギラとした衣装を翻しながら、ギュギュリオス卿が並び立つ。


「お前がまずは飛び込んで全人類に謝罪しろよ」

「ハハハ、手厳しいなぁ」


 本気で罵ったつもりだが、冗談だと思ったのか、ギュギュリオス卿は意に介す風もない。


「ったく。で、作戦は?」

「えぇ。ここに居る魔法使い全員の魔力を結集し、『結界晶石(バリア・ジュエル)』のパワーを増幅します。そしてあの『暗黒侵食領域(ダークボトム)』に穴を開けます」


 実に簡単に聞こえる。てか魔法使いは楽そうな役目だが。


「そこに俺達が突入するのか」

「えぇ」


 王都警察が突入、容疑者(・・・)こと通称『ヨドミー』を確保、鎮圧する。


「私達魔法使いは、掘削したトンネルの維持に全力を傾けます。ですが……」


「なんだよ?」


 ギュギュリオス卿の視線が鋭さを増す。その視線の先は暗黒の壁に向けられていた。


「気付かれたようです」


「何……?」


 突如、ボコボコと闇が揺らいだ。まるで積乱雲が湧き立つがごとく、静かだった『暗黒侵食領域(ダークボトム)』が蠢き出した。


「見ろ!」

「うわぁあ……!?」


 此方の動きを察知したのか、ゆっくりと巨大な塊がせり上がり、鎌首をもたげるようにして迫ってくる。

 その大きさたるや、1キロメートル以上もありそうな巨大な積乱雲のような黒い塊だ。


「冗談だろ……!」

「でかすぎる……!」


 王都警察も魔法使いたちも口々に叫び、思わず後ずさりをする。だが、退路は無い。


「はーい、はい! 落ち着いて」


 混乱しかけた現場に、妙に明るい声とパンパンと手を打ち鳴らす音が響いた。ギュギュリオス卿だ。


「皆さぁん! さぁさぁ、打ち合わせどおり陣形を組んで! 過去の対戦から得られた知見、研究を重ねた最適な術式、対抗する魔法の詠唱を。先人たちの犠牲(・・)を無駄にしないよう、せいぜい踏ん張りましょう」


 アイザック・オールドトーン・ギュギュリオス卿はそう言いながら、地面に巨大な、直径100メートルはあろうかという魔法円を描いた。

 複雑な見たこともない魔法の記号や文字が、幾重にも重なり輝きを増す。


 それに勇気づけられたように、二十数人の魔法使いたちが一斉に駆け出した。配置につくように散り、巨大な魔法円の各所に描かれた小型の魔法円の中に立つ。まるで要石(かなめいし)のように魔法使い数十人が配置につく。


「き、来たでござる!」

 ヘイリーが叫ぶ。

 上空を覆い尽くすように巨大な蛇のような黒い塊が襲いかかってきた。闇に触れただけで消滅するのなら、あの巨大で闇で包まれたら一撃で全滅は必至だ。


 だが、まばゆい光が渦を巻きながら周囲に広がりはじめた。


「さぁ……! 反抗作戦……開始ですよ!」


 魔法使いたちは魔力を放出すると、光の渦が激しさを増した。

 周囲に結界のような空間を広げてゆく。上空で黒い塊と光の壁が接触するとパチバチと雷光が迸り、激しい音を立てる。

 光は闇を切り裂き、そして押し返したように見えた。


「フフフ、魔導から生まれた闇は、魔導の輝きで祓うまで!」


 まるで強い風圧で押し返すように、黒い塊を完全に霧散させる。


 王都警察の突入部隊から「おぉ!」「すげぇ!」と歓声があがった。


 黒い蛇のように伸びた腕は消え失せ、逆に光の領域が反撃とばかりに突き進む。


 魔法使いたちの祈りと呪文詠唱が同期すると、いよいよ出力最大。

 光の剣のような鋭い形状となった先端部が、壁のごとき『暗黒侵食領域(ダークボトム)』に斬りかかる。


「いけ……!」


 俺は思わず手に汗を握りながら、その光景を見ていた。今は魔法使いたちの奮闘を、応援するしかないのだ。


 ズゴォオオン……! という鈍い衝撃が空気を揺るがした。激しい雷鳴と、苦痛の叫びのような音が響く。


 光の剣が、壁に穴を穿(うが)ったのだ。


「や、やった!」

「おぉ……!」


「さぁ貫通しました! ……ここからは魔力、体力、精神力の勝負ですよ、みなさぁん、気張っていきましょう!」


 魔法使いたちは返事をするが、既に辛そうな顔をしている。この段階でも相当の魔力を消耗しているのかもしれない。


「行きましょうジュンさん!」

「あぁ! 行くぞ、みんな!」


 俺たちが先行して駆け出した。

 ケルベロスに乗る俺とキャミリアが先頭。他のメンバーは魔法の馬とともに突撃する。


 光のトンネルに沿って進む。やがて壁との境界面をあっけなく過ぎる。

 だが数百メートルも進まないうちに、徐々に光が弱まり、逆に染み出すような闇が徐々に増しはじめた。


「穴を開けたのは壁の部分だけかよ!?」

「先が……見えない!」


「進めないでござる……!」

「なんだこりゃぁ」

 7人の王都警察突入部隊は、速度を落とさざるを得なかった。


 背後を振り返ると、針の穴のような光が揺らいでいる。既に魔法の光の加護が届かないのだ。


「くそっ! 進むしか無い!」

「頼む、ベティ……!」


『グルル……!』


 ベティが何かの気配を察したのか、警戒しながら慎重に歩を進めはじめた。


<つづく>


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