事件簿5:魔族の逆襲編5
「工藤巡査ゴブジで!」
「容疑者ハ!?」
応援の王都警察官たちが到着した。
俺と似た警察官の格好だが、制服のデザインが違う。片方は細身でイタリア警察と胸に刺繍がされている。もうひとりは南米のどこかの国の警察官らしく浅黒い肌の大男だ。
それぞれ召喚された警察官、いわゆる魔法クローンなのだろう。
「逃亡した。制止したが空を飛んで逃げてしまった」
俺は空を指さした。
空にはもう二匹のコウモリ姉弟の姿は無かった。数匹の翼竜が優雅に空を滑ってゆく。
「特徴、ワカリマス?」
「人の形に化けた蝙蝠みたいなやつらだった。王都の外に向かって飛んでいった」
「――本部、現場到着。被疑者二名は制止を振り切って、エスケイプ!」
騎馬衛兵たちも到着し、現場には規制線が張られ、騒然とした雰囲気に包まれた。魔法の道具を使って魔力の痕跡を探っている鑑識官の姿も見える。
「……魔力特性、また『闇森の魔女』か」
「そろそろ強制捜査だな……」
「……魔女ンとこの家宅捜索なんて、行きたくねぇなぁ」
鑑識官と現場指揮官の騎馬衛兵が、小声で話しているのが聞こえてくる。
俺も現場で見聞きしたことに関して、簡単な調書を取られる。報告書を書かなくていいだけ楽なものだ。
それにしても、魔族の姉弟は「クドーは騙されてる」と言っていた。
――世界の真実が見えてない
――猫の子も仕組まれてる
家に転がり込んできた、ミケのことも知っている様子だった。
魔女は水晶球で自在に遠隔地の映像を視ることが出来ると云われているが、だとしても何故に俺の事を知っている?
仕組まれている、というのは全てにおいて否定しない。
俺のように召喚された王都警察官は、ある資料によれば王都全体で数十人程度。大掛かりな儀式魔法により、異世界――主に俺が暮らしていた世界や、パラレルワールド――から連れてこられる。
正確には写し鏡のクローンのような存在で、オリジナルには何の影響もないらしいが。
そうした存在を魔女は「観察」しているのだろうか。
「魔女は暇……なのか?」
と、ジェニーガータ・ヘイリーが戻ってきた。制服も汚れていないところを見ると、上手いこといったようだ。
「ジュンサーサン! いやぁ、大捕物だったデース」
「ケルベロスを捕縛できたのか?」
「門の外で暴れていまシタが、不思議なことに中に戻りたがっていたんデス」
壁をガリガリとしていたのだとか。
「王都の中に?」
「イエス」
魔族の姉弟が密輸しようとしていたケルベロス自身にも、何からの意思があった、ということだろうか。
「あとは警官の一人が機転を利かせ、干し肉で誘って……」
「ほうほう」
「そしたら、小さくなったデース」
「そういうものかケルベロスって!?」
そういえば子犬に変えて連れてきたと言っていた。魔力の注入か何かで、大きさを変えられるのかもしれない。
「小さくなっても大型犬サイズでしたが、後は楽に捕獲デキマシタ。今は王都保健所で検疫を受けている最中です」
しばらく現場検証に付き合った後、おれは交番に戻ることになった。
俺は警らがてらに歩きながら、思考をめぐらせる。
姉弟の言っていた事も気になるが、背後には魔女がいる。
混乱と災いをもたらす、忌むべき魔女。こちらに疑心暗鬼を埋め込んで、揺動させる腹づもりかもしれない。
魔女と魔族が逆襲しているつもりかもしれないが、お生憎。
すべてが仕組まれ、準備され、世界が「造られていた」として、それが何だというのだ?
世界の真実を暴き、ささやかな達成感を満たして何になる。
セカイ系アニメの主人公じゃあるまいし、世界を変える力もない。
このファンタジーじみた世界が、どこまで真実かなんてどうでもいい。
世界五分前仮説に、世界シミュレーション説。そんな話ぐらい俺だって知っている。
だが、登場人物である俺にその「セカイ」をひっくり返す事はできない。弾丸を天に放っても、どうにもならないのと同じ様に。
「純サン!」
エルフの娘が駆け寄ってきた。『冒険者のキッチン・血の盃』の看板娘だ。ぴこっと動くエルフ耳が可愛い。
「やぁアリル」
「あの、ご家族ができて、おめでとうございます!」
いきなり祝福されて面食らう。
「ご……ご家族!?」
「あれ? キャミリアさんとご結婚されて、養子をもらわれたとか」
「は!? 違う違う! あれは住み込みの家政婦さん! ネコの子は預かってるだけなんだよ」
「そ、そうなんですか……? 染物屋のおばあさんが」
「あのババァ!」
「新しいセットメニューができたので、食べに来てくださいね、ご家族で」
にっこりと微笑んで「割引券」を三枚、差し出してくれた。
俺は券を受け取ると、そのまま駆け出した。
案の定、噂を広めやがって。染物屋のバァさんに適当に容疑をふっかけてやろうか。
思わず、空を仰ぎ見る。
青く、広い空はどこでも同じだ。
俺は――王都を守る警察官。
それが事実であり、揺らぐことはない。
今の生活も与えられたものかもしれないが、不満がないのなら構わない。別に甘んじてもいいじゃないか。
住み込みメイドのキャミリアに、何故か預かることになった猫耳幼女。
俺が騙されている……? 上等だ。
こんな楽しい世界で騙されているのなら、かまうものか。
俺は、受け入れる主義なのだ。
交番ごとこの場所に召喚された瞬間から、理解し受け入れたように――。
「あ、おかえりなさい、ジュン様」
「おかえりニー!」
交番に戻ると二人が出迎えてくれた。
「あのなキャミリア。その『様』はやめてくれ」
「は……はい、ジュン……さん」
元、女勇者はぎこちない笑みを浮かべた。
抱きついてくるミケの頭を撫でて、温もりと猫耳の弾力を確かめる。
「なぁ、ふたりとも」
「なんですか?」
「何かニー?」
「犬……。番犬代わりに飼うってのは、どうだ?」
<章 完結>




