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針のムシロの冒険譚  作者: 秋野ユウ
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母は強し

 何だろうか。さっきと違って頭が冴えてる。



「なーんか雰囲気が違うねー。どしたー? 」



 こいつの動きも見えるし、俺の体もよく動く。



「あ、あれー? なんで避けられちゃうのかなー? 」



 ああ、特訓の成果が出ているんだ。



「くそー、なんなんだよキミはー! 」



 ハワードさんとスウォードさんのおかげだ。



「いい加減に当たれって!」


「どうした、化けの皮が剥がれてきたぞ」



 あんなに余裕のあった表情も今や苦々しいものに変わってしまっている。

 ざまあねえな、おい。



「その貧弱な武器を俺に当ててみろってんだ」


「ひ、貧弱!? ワタシの武器が貧弱だって!? ワタシのフランベルジュを舐めるなぁ! 」


「……せっかく剣系統だって言っても当たらなきゃ意味がねえよ、な! 」



 俺はいよいよ攻撃に転じた。

 攻撃が当たらないことに加え俺の挑発を受けたことでさらに苛立ち、動きが単調になってきたからだ。

 特訓の通りに肘の裏にある筋に向けて針を刺す。



「ぐっ、ぐぅぅぅぅ! 」



 ああ、気持ち悪い感触だ。

 特訓じゃ全部寸止めで終わってたから実際に肉に刺した感触は経験したことがなかった。

 そうやって手に伝わる感触に嫌悪感を抱きながらも次々に針を刺していく。

 肘裏、肩、手首をそれぞれ何度も刺したあたりでこいつの腕が動かなくなった。



「ゆ、許してくれよ。ね? ワタシは命令でやっただけなんだよ。ほら、この通りだ」



 カランカラン。

 と、高い音を立てて武器が地面に落ちた。

 フランベルジュとか言ったか?

 聞き覚えがないな。

 刀身が波打っている、変わった剣だ。

 そして俺も変わってるな。

 こんな状況だってのにいつになく頭が冴えわたっている。



「おい、早くその剣消せよ」


「あ、あれれ、バレちゃったか。甘くないねキミ」



 言ってることと表情が噛み合ってないんだよ。それにーー



「お前の目がまだ死んでない」



 こいつはニタリと笑うと、動かすのもやっとな腕を懐に潜らせた。

 止めようとも思ったが爆破でもされたら敵わない。



「ワタシの任務はすでに完了してるんだ。ここで死ぬのはごめんなんでね。逃げさせてもらうよ。バイバーイ! 」



 言い切らないうちに懐から取り出した袋を投げ捨てた。



「……粉? なんだこれ、ヤバイ! 」



 粉の正体に気づいた俺はすぐさま逃げ出した。

 その粉の名は『魔物呼びの粉』。

 まあなんともシンプルでわかりやすい名だ。



「父さんの死体諸共消す気か。あっ! 母さんはどこに行ったんだ? あいつは母さんについては言及していなかったが無事なのか」



 家にいたのか確認しようにももう魔物が寄ってきているだろうから流石に戻れない。

 その時近くで声が聞こえた。



「ラムくーん。どこにいるのー? 」



 間延びした声に一瞬ドキッとしたがあいつとは声が違う。

 この声は母さんの声だ。



「母さん! 今までどこにいたの! 」


「あ、ラムくん。今までってお買い物だけれど。お父さんがどうしても買って来いっていうから……ってあなた! どうしたのその格好! 血まみれじゃない! 」



 ゆっくりとした口調が一転して早口になった。

 まあこの姿を見れば当然か。

 ほとんど返り血だから大丈夫なんだけどな。



「ああ、一から説明するからついて来て。あと、もう家には帰れないんだ」


「どういうことなの? お父さんとカイくんはどうしたの? 」



 それも後でちゃんと話すから、と母さんを諭して俺たちは街を離れた。

 あいつは任務は終えたと言っていたけれどどうなるかわからない。



「そう、そんなことがあったのね……」



 街を離れて少し歩いたところにある小さな宿屋に部屋を取り、事情を説明した。

 もちろん反逆罪に関してはうまく伏せた。

 俺自身疑っているし、確証を得られてないことを伝えるわけにはいかない。

 結局後で伝わるのかもしれないけれど。



「あまり驚かないんだね」



 もっと取り乱すと思っていたんだが意外と冷静に受け入れているようだった。



「そうね、軍人なんて仕事をしている以上いつ死ぬかわからないというのはわかっていたから……」


「そうなんだ……そういえばさっき父さんに買い物頼まれたって言ってたけれど」



 まさかとは思うが一応聞いておくか。



「ええ。突然リモネが食べたいだなんて言い出したのよ。普段から食べているわけじゃないのにおかしいなと思ったのだけれど」



 やっぱりそうだ。

 リモネは柑橘系のかなり酸っぱい果物で父さんはそんなに好きじゃなかった記憶がある。

 そしてリモネは家から遠い店にしか売ってない。

 つまり



「お父さんは私を逃したんでしょうね。万が一にも巻き込まれたりしないように」



 そういうことだ。

 そんな父さんが反逆罪なんておかしい。

 もし本当だとしても何か理由があるはずだ。



「母さん、俺」


「いいわよ、いってらっしゃい。私のことは心配しなくていいわ。仲のいいお友達もいるし」



 お見通しってことか。

 母さんには頭が上がらないよ。



「ああ、若い頃のお父さんにそっくりだわ。覚悟が決まった顔。何か大きな仕事があるとそんな顔をしていたわ。頑張ってらっしゃい」



 母さん、俺頑張るから。

 絶対父さんの疑惑は晴らしてみせるから。

 待っててくれな!



「じゃあ、行ってくる! 」



 その日のうちに俺は王国を離れた。

ちょっと珍しい武器を登場させましたが勉強不足なので使用方法等に間違いがありましたら教えていただきたいです。

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