俺と彼らの温度差
「ようやくできた……」
俺の『針撃舞踏』はハワードさんのそれとは少し異なる。
ハワードさんの武器はダガーだから攻撃を受け流すということができたが、防御力ほぼ0の針ではそうもいかないので回避のみ。
また、斬ることも不可能なため突くのみの攻撃になる。
「……よく頑張ったね。おめでとう」
「ありがとうございます! 」
せっかく完成したというのにスウォードさんは来てくれないのか。残念だ。
「……彼も呼んだのだけれどね。……忙しいのでしょう」
あ、そういえばずっと気になっててなんとなく聞けなかったことがあったんだ。
「あのー、スウォードさんの仕事って? 」
「……彼は軍人だよ。……言ってなかったかい」
「初耳ですけどやっぱりそうだったんですね。あの武器をあそこまで扱えて軍人じゃない方が不思議なくらいです」
あれで花屋とかだったら笑ってしまいそうだ。別に花屋を馬鹿にしているわけではなくてあの人には似合わないだろうなと。
そしてハワードさんも元軍人らしい。色々あって辞めたそうだがそのときにスウォードさんと知り合ったのだとか。
ちなみにその色々に関しては話してくれなかった。
「……じゃあ最後にもう一度やってみよう」
「はい! 」
ハワードさんと手合わせしながら動きを確認していく。
さっき針撃舞踏のデメリットのようなものを挙げたがもちろん良い部分もある。
「おらぁ! 」
まず1つ目、針を投擲し牽制できること。
これによって相手の気をそらしたり、一手目を制限させることでかなり懐に入りやすくなった。
2つ目、針が4本あるため手数が多いということ。
投擲に1本使ったとしても残り3本あるので持ち方を工夫して様々な角度から突くことが可能である。
そして3つ目、武器の小ささ故に相手が針を視認しにくいこと。
これがなかなか良い特徴でフェイントに結構引っかかってくれるのだ。
ハワードさん曰く意識の外側からの攻撃だから強いのだそうだ。
「ふっ……ほっ……そこっ」
「……シィッ! 」
ハワードさんの気合い入れる声ちょっと怖いんだよなあ。本気で殺されそうで。
「……ふう、じゃあここまでにしておこうか」
「はい! ありがとうございました! 」
ハワードさんはこう見えて俺よりも体力が半端じゃないくらいある。まあ熟練度の違いもあるんだろうけれど。
でもいつもより早めに終わったな。仕上げだからそんなにやらなくていいみたいなことか?
「……僕はこれで帰るからラムシロ君も帰ってゆっくり休みなよ」
「はあ……お疲れ様でした」
うーん、喜んでくれているのだろうか。スウォードさんは来てくれないし、なんか微妙な感じだよなあ。
まあでもこれで自分の力で戦えるわけだ。
自分へのご褒美にちょっといい店で飯食おうかな。
鼻歌交じりにスキップをしながら、俺は街へ繰り出していった。
とまあそんな感じに浮かれていた俺は王国内で何が起こっているのかなど知る由もなかった。
あの2人の様子がいつもと違うことにもっと疑問を抱くべきだったのだ。
そうしていれば少しは状況もよくなっていただろうに。
「おばちゃーん! いつものにスープと白パンつけてー! 」
俺はニッコニコで夕飯を豪華にして満足気に帰路につき眠りについた。
あけましておめでとうございます!
今年も頑張って連載を続けていきますのでよろしくお願いします!