ついにこの時が!
2人が言いたかったことは、軍は無理だけど傭兵にはなれるだろうということだった。
傭兵っていうのはざっくり言うと軍に依頼できないことを請け負う仕事なのだそうだ。
例えば人探しであったり、要人ではない人間の警護であったり、雑用もやるらしい。
逆に軍のように犯罪者の逮捕や、様々な特権を持つってことはできないとのこと。
「もちろんそれなりに強くなきゃならねぇし、場合によっちゃ組織に入るってことも必要になる」
まあ個人でやれることはたかが知れてるからな。組織であれば仕事の幅が広がるからメリットは大きいだろう。
そもそも傭兵をやっていることを知ってもらわないと依頼してもらえないわけだから組織に属するのもいいかもしれない。
「……まあ宣伝くらいだったらうちの店でしてあげてもいいよ」
「良いんですか? 助かります」
とまあそんな話もそこそこに特訓が始まった。
初めはスウォードさんの攻撃を回避するところから。さっき見たものより幾らか遅い攻撃だがそれでも俺にはギリギリだ。
ちなみに立ち位置は互いの腕を伸ばして拳を合わせられる位置である。
本当はもう少し近くじゃないと技は使えないのだが初日だからということでこの距離で行なっている。
「もうちょい素早く避けねぇと当たっちまうぞ! 俺みたいなタイプはかすっただけでも結構な威力になるからな。そうなったらおしまいだぞ! 」
「そんっ……なことっ……」
簡単に言うなっての! そこそこ至近距離だし剣圧がすごいんだよ!
そうして無我夢中でやっていたらハワードさんに声をかけられて休憩になった。正確には攻撃する側が休憩になるだけで俺は続行。
せっかく大剣の太刀筋に慣れたところで今度はダガーになってしまった。
攻撃のリズムも違えば手数も全く違う。また慣れるところからやり直しだ。
「……あれ、意外と避けれるじゃないか。……コツでも掴んだかい? 」
父親が片手剣使いだったから多少予測もしやすいな。ただまあ返答する余裕はないけれど。
そしてまたある程度やったらスウォードさんに交代してっていうのを繰り返して日も暮れて来た頃、ようやく終わりが告げられた。
「ハァ……ハァ……疲れた……」
「はっはっは、これくらいで疲れるとは情けないな。もっとトレーニングをしろよラムシロ」
「……初めてにしては十分だよ」
こんなことを毎日やるのか? 技習得前に死んでしまいそうだ。
「……そうだ、僕らが今日たまたま休みだったから特訓できたけど明日からは自分でやるんだよ。……暇をみて手伝いはするけれど」
「そうだな! 俺だって仕事があるからよ」
ああ、毎日じゃなかったことに喜ぶべきか、1人でやれといきなり放り出されたことを嘆くべきか。
というか避ける練習を1人でやるって限度があるだろう。
「まあその辺はうまくやるしかないか」
あの技が使えるようになれば針でだって戦えるのだから。
軍人ではなくても人を魔物から守る仕事ができるのだから。
「よおし、じゃあ帰るか! ラムシロ、飯食ってくか? 今日は特別に奢ってやろう」
「本当ですか!? やった! いただきます! 」
「……じゃあ僕もいただきましょうかね」
「勘弁してくれよハワードさん、なんならあんたの方が金持ってるだろう? 」
とか言いながら俺らは町の飯屋に向かい、本当にハワードさんは全くお金を出さずに全額スウォードさんが支払った。
そしてその日からおよそ2年間修行の日々が続き、いよいよ技を使えるようになった。ハワードさんが『剣撃舞踏』だったから俺の技
は――
「『針撃舞踏』だ……! 」
「しんげきぶとう」と読みます