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針のムシロの冒険譚  作者: 秋野ユウ
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面白い話って何?

 判定から数日間、俺は抜け殻のようになり全く何もせずに過ごした。毎日欠かさず行なっていたトレーニングすらもせずに。

 この国では判定を受けたあと1週間で今後の進路を決めなければならず、しかし我が家には教育機関に通えるほどのお金はないということで、俺は職を探し始めた。



「最後はこの防具屋か」



 抜け殻のような状態で受けた面接が受かるわけもなく、残すところあと1つになってしまった。

 その最後の店『ハワード防具店』まで来たものの特に繁盛しているようには見えないし、それどころか今にも潰れてしまいそうな外観だった。

 もし雇ってもらえたとしてずっと働けるのだろうか。そんな不安を抱えたまま店の扉を開けた。



「すみませーん。ハワードさんいらっしゃいますかー」



 返答がない。



「すみませーん! ハワードさんいらっしゃいますかー! 」


「……なんですかぁ。……お客さんですかぁ」



 店の奥から店主らしき人が出てきた。

 しかし随分と陰気な人だな。つい最近の俺よりもどんよりとした空気を纏っている。大丈夫か?



「はじめまして、ラムシロといいます。あの、求人を見まして、ここで雇ってもらえないかと思って来たのですが」


「……ああ、あれ見たんですね。……本当に来る人がいるとは思ってませんでした」



 まああの外観だからな。皆ここまで来たとしても引き返してしまうのだろう。

 しかし俺にそんな余裕はない。この店がダメなら職無しになってしまうのだ。

 それだけは避けなければならない。



「ええと、それで雇っていただけるのでしょうか」


「……それはもちろん。……お願いしますね」


「ありがとうございます! こちらこそよろしくお願いします! 」



 面接やらが全くなかったが良いのだろうか。

 とにかく職無しにならずには済んだ。軍に入るという夢は叶わなかったが、ここでしっかり働こう。そう心に決めた。



 職が決まりほっとしたのも束の間、あの外観とは裏腹に客が結構入るものだから初日から大慌てだった。



「おう、お前さん新入りか? この店で働くなんてなかなか目の付け所がいいじゃねぇか。頑張れよ」



 なんだかおっかなそうな人に声をかけられた。強面というわけでは無く、なんというか覇気が溢れ出ているのだ。

 ただ正直忙しいし余裕が全く無かったから何を言われたのかわからず、愛想笑いだけを返しておいた。



「ふう、少し落ち着いてきたかな」


「……ご苦労様です。……初日にしてはよく動けてますね」



 うおっ、存在感なさすぎるだろ。全く気づかなかったぞ。

 何故こんなにもこの店が繁盛しているのかよくわからないな。確かに品質は良さそうだけれど。



「お疲れ様です。父と兄が軍人なので大体の防具は大まかには把握してるんです」


「……そうなんですか。……あなたは軍を目指さなかったのですか? 」



 痛いところを突くなぁ。



「目指してたんですけど適正武器がダメでした。それで諦めることにしたんです」


「……そうですか。……因みに武器は? 」


「針です。小さなごく普通の針です」


「……針ですか。……そうですか」



 ハワードさんは神妙な顔をして店の奥に入っていってしまった。

 なんだろうかと聞こうとは思ったがその後も客が入り続け、そのことはすっかり忘れてしまっていた。



 そして数ヶ月が過ぎて店のことにも慣れてきたある日のこと。この店に事件が起きた。



「おい! 死にたくなかったらこの店で1番良い防具を寄越しな」



 強盗か? 変な装飾の双剣を出して片方を肩にかけ、もう片方はひらひらとこちらに向けている。

 目線だけは奴に向けながらも返答はしなかった。そんな俺にしびれを切らしたのか、わかりやすく苛立ちながら叫び始めた。



「俺は軍人だぞ! 魔物からテメェらを守ってやってんだから防具の1つ2つタダで寄越しやがれ! 」



 ……あ? お前今なんて言った?



「何見てんだ早く出せよ! 」



 暴れ出しそうな奴の方へハワードさんが動こうとした。だが俺がそれを制止して奴に近づく。こちらに向けていた剣の切っ先に触れるかというところまで近づき、奴を睨みつけた。



「お前が軍人だと? ふざけるなよ。軍人ってのはな、決して一般市民に武器を向けたりしない。罪人を捕らえることはあっても殺しはしない。魔物を退け、治安を守り、この国を良くする為に存在するもんだろうが。お前がそれを名乗るのか。暴力に武器を使おうとしたお前がそれを名乗るのか! 」


「なんだとこのガキが! 調子に乗ってんじゃんぐぇ! 」



 俺に斬りかかろうとした強盗が変な断末魔を上げて床に沈んだ。強盗から視線を上げるといつかのおっかなそうな人だった。



「よう新入り君、聞かせてもらったぜ。なかなか良い啖呵を切るじゃねぇか。何をキョトンとした顔してんだよ、かっこよかったぜ」


「……ああ、良いところで来てくれましたね、スウォード君。……助かりましたよ」


「なぁに、ハワードさんが面白い話があるっていうから来てみたら既に面白そうな感じになってるじゃねぇかと思ってな。しばらく様子を見てたんだよ」



 なら早く助けに来てくれよ。



「で? 面白い話ってのは下で伸びてるこいつのことかい? 」


「……違いますよ、面白い話というのは彼のことです。」


「新入り君が? 」



 俺? なんかやったっけ? 身に覚えがないのだけれど。



「……彼の武器、針なんですよ」


「本当か!? 確かにそいつは面白いな」


「……でしょう? 」



 そういえばこの前もリアクションおかしかったけれど、俺の武器がなんだってんだよ。

 2人してニヤニヤと俺の顔を見てくる。何か嫌な予感がするんだが。

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