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針のムシロの冒険譚  作者: 秋野ユウ
3/9

適正武器判定結果

  いざ判定……かと思いきやその前に講義のようなものがあるらしい。適正武器とは何か、とかその扱いについて、とかの説明をしてから判定に入るとのこと。

  俺の父は軍人だし、俺自身もずっと気にしてきたことだから基本的なことはわかってる。しかし、武器を扱わない仕事をしている家庭ももちろんある。

  そういった家庭の子供達は適正武器なんて正直何の話だっていう状況だから講義が必要不可欠ってわけだ。



「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、適正武器に関する説明をさせていただきます。まず、適正武器とは何かについて。適正武器とは貴方達1人ひとりが持つ、唯一無二の武器です。どんな武器になるかは誰にもわかりません。この後受けていただく判定によって決まります。その武器を生かす仕事に就いていただいても、全く使わない仕事をされても構いません。自らの武器とどう向き合うかは個人の自由ですので、しっかりご自身で考えていただきたいと思います。そもそもなぜ適正武器というものが……」



  話が長かったから要約すると、

  1つ、適正武器は他の人間には扱えない

  2つ、その理由は武器は召喚するもので購入するものではないから

  3つ、判定は覆らない

  4つ、これは何とも言えないけど、このシステムを作ったのは武器の神である



  ざっとこんなものだろう。3までは知っていたけれど4は聞いたことなかったな。



「へ〜武器の神さまがいるんだねえ」


「教会で判定を行う理由はそこなんだろうけれど」


「ああ、いきなり神さまって言われてもいまいちピンと来ないよな」


「うん、でも気にするところはそこじゃないよ。いよいよ始まるんだから」



  そう。講義が終わったということは今度こそ本当に判定が始まるということだ。

  ふう……もう緊張はしてない。剣を出して、3人で魔物と戦って、あわよくばリリィとうまくいってみたいなね。



「申し訳ありません。伝え忘れておりました。今年は人数が多いため2部屋に分かれて判定を行います。座席番号が30番までの方はこのままここでお待ちください。31番以降の方は隣の部屋に移動して頂きます。」



  ふーん、そんなこともあるのか。俺の番号を確認すると31番。31番か。まさかな、まさかそんなことはないだろうな。……一応聞いておくか。



「お、お前ら何番だった? 俺31番なんだけど」


「私29番だ、はは……」


「僕は、30番だ」


「えっ」



  そのまさかになってしまった。俺だけ別部屋かよ。なんかこう、さっきから出鼻を挫かれ続けてるな。

  まあいい、とりあえず移動しよう。多分1番最初にやるだろう。31番だし。

  番号のことを若干引きずりながら移動して、隣の部屋に到着した。



「では、判定を開始いたします。31番の方から順番に行います。31番の方は前に来てください」


「はい」



  やっぱり最初だ。

  俺は前に出て行き、置かれていた紙に書いてある文言を読み上げた。



「我に神の加護を与え給え。召具! 」



  目の前が光り輝き、眩しさを感じた俺はつい目を瞑った。数秒たって目を開けるとそこに浮かんでいたものは俺が理想としていた剣ーーなどではなく、長さ30cm、直径5mm程の小さな針だった。



「なん……だ、これ」



  俺は理解できなかった。

  なんだこれは。

  なんなんだこれは。

  俺は夢でも見ているのか。

  呼吸が浅い。

  動悸がおさまらない。

  嫌な汗もかいてきた。

  そんな俺に針がゆっくりと近づいてきて、俺の中に吸い込まれていった。



「はい、完了です。おめでとうございます。席へお戻りください」



  おめでとう? 何がだ? 何か良いことでもあったのか?

  誰だか知らないがめでたいことがあって良かったな。こっちは今までにないくらい最低の気分だ。



「あの、どうかなされましたか」


「……ああ、いえ、なんでもないです」



  そう答えて席に着いた。そこからの記憶は曖昧だが、何人かは良いのを召喚したのだろう。嬉しそうにしていたし、軍がどうとか言っていたし。

  まあ、もう関係ない。全て終わった。もう帰ろう。


 

  もう夕暮れだ。そんなに時間が経っていたのか。そう思いながら1人で帰宅していると後ろから声をかけられた。



「ラムシロ、どうしたんだ。探したぞ」


「そうだよ。終わって探しに行ったらもうラムシロいないんだもん」


「ん? ああ、お前らか。どうしたって、見りゃわかるだろ。駄目だったよ。剣でも弓でも杖でもなかった。2人はどうだったんだ」



 そう問うと2人は気まずそうに俯き、視線を逸らした。わかりやすいな。



「僕は弓だった、望んだ通りに」


「私も希望通りに杖だったよ」


「そんな顔するなよ。良かったじゃないか。俺は運が悪かったんだ。人生これからだし、他の道を探すよ。あ、気は遣うなよな。2人で軍で頑張ってくれ」



  俺は努めて明るく振る舞った。だが俺が話せば話すほど2人の表情は歪んでいった。

  俺はそんなに酷い顔をしているだろうか。いつものようにできてはいないのだろうか。



「じゃあ俺、帰るから。またな」


「あ、ラムシロ……うん、またね」


「気をつけて帰れよ、ラムシロ」



  兎にも角にも、俺の夢は潰えた。

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