プロローグ
「えいっ! やあ!」
「はっ! おりゃあ!」
「ほうほう、だいぶ強くなったじゃないか2人とも」
広大な草原で、老人とその孫らしき子供2人が手合わせをしていた。手合わせと言っても老人には一切の攻撃は当たらず子供たちがたまにデコピンされるという、もはや遊びと言った方がしっくりくるような光景だった。
「あー! 今日もおじいちゃんに当てれなかった! くっそ! 大人気ないぞ!」
「一回も当たらないんじゃ本当に強くなったのかわからないわね……」
「はっはっは、お前たちはこれからどんどん強くなるんだから今のうちに勝っておかないとな」
「「サイテー」」
遊び、もとい手合わせを終えて帰宅した彼らを香辛料の香りが包む。その香りを嗅いだ老人はとてもわかりやすいドヤ顔を浮かべた。
「おじいちゃんが小さい頃は香辛料なんてものは無くてな〜。味付けといえば精々塩をかけるくらいだけだったんだよ」
「おじいちゃん、その話は何度も聞いたわ」
「いつもの、おじいちゃんが頑張って香辛料をみんなが使えるようにしたって話でしょ? 」
「それなら私はお姫様助けに行くお話を聞きたいな」
「えー、それー? 僕は龍人の戦いの話がいいな。派手でかっこいいし」
一瞬気落ちしたようなそぶりを見せた老人も自身の話をせがまれ気を良くしたのか、ニヤニヤしながらこう言った。
「そうかそうか、よし! まだ夕飯まで時間もあるし、始めから終わりまで全て話してやろう」
「え、全部……?」
「全部は長いんだけど……」
すっかり熱の入った老人は孫2人の苦笑いと苦情を意に介する様子も無い。
「では、『針のムシロの冒険譚』の始まり始まり!」